「ポケモンのマーケティング戦略を知りたい」「ポケモンのビジネスモデルを参考に自社ブランドの認知度を高めたい」とお考えの方も多いでしょう。
ポケモンのマーケティング戦略の成功はさまざまな要素で構築されているため、自社のマーケティング戦略に活かすには、成功要因の多面的な分析が必要です。
本記事ではポケモンのマーケティング戦略について、メディアミックスや国内外の具体的な戦略、ライセンス管理とブランドの価値向上について解説します。広範に展開されるポケモンのマーケティング戦略を学べば、自社ビジネス発展のヒントを見つけられるでしょう。
ポケモン(ポケットモンスター)のマーケティング戦略を解説する前に、約30年におよぶポケモンビジネスの概要と歴史を紹介します。
年 | 展開ビジネス |
---|---|
1996年 | ゲームボーイ用ソフト『ポケットモンスター 赤・緑』発売 ポケモンカードゲーム発売 |
1997年 | テレビアニメ放映開始 |
1998年 | ポケモンセンタートウキョー開設 アメリカでテレビアニメ放映開始 アメリカでゲームボーイ用ソフト発売 |
2000年 | 「株式会社ポケモン」に商号変更 |
2002年 | ポケットモンスターオフィシャルサイト開設 |
2009年 | 初の公式大会「ポケモンワールドチャンピオンシップス2009」開催 |
2016年 | スマホ用ゲーム『ポケモンGO』配信開始 |
2022年 | Nintendo Switch用ソフト「『ポケットモンスター スカーレット・バイオレット』発売 |
2023年 | 睡眠計測・記録アプリ『Pokémon Sleep』配信開始 |
参照:株式会社ポケモン|The Pokémon Company「あゆみ」
30年近くにわたり成功しつづけているポケモンのマーケティングの特徴は以下のとおりです。
上記を実現したポイントをこのあと解説します。
ポケモンの主要なマーケティング戦略の1つに「メディアミックス」があります。
メディアミックスとは、以下のような複数のメディアを組み合わせることで、異なるターゲットに発信・訴求するマーケティング手法です。
上記から派生して、ゲームやコミックなどの原作を映画やアニメその他の複数メディアに展開することも「メディアミックス」と呼ぶようになりました。ポケモンの手法は後者に該当し、ゲームから下記のように多様な媒体へ順次展開し、ユーザー層拡大の相乗効果を生んでいます。
アニメ・ゲーム制作会社や出版社、テレビ局などの関連企業を巻き込みながら、戦略のスケール化とブランド全体の一貫性を両立している点も特徴的です。
メディアミックスについて知見を深めたい方は、以下の記事で詳しく解説していますので参考にしてください。
ポケモンの主な国内マーケティング戦略は以下の2つです。
それぞれ解説します。
ポケモンの国内マーケティング戦略の一つに、「ポケモンセンター」の聖地化があります。ポケモンセンターとは、株式会社ポケモンのグループ企業が運営しているポケモン関連商品を販売する専門店です。
すべてのポケモンセンターは、ゲームやアニメに登場する施設と同名・同コンセプトで設計され、今やポケモンファンの「聖地」となっています。
店舗ごとに異なる装飾や演出が施されているため、訪問者は他のポケモンセンターも「巡礼」してみたいと思わずにはいられません。
またゲームで使えるポケモンを配布するなど、ゲームプレイヤーが訪れたくなるような取り組みをすることで、オフラインでファンと接点を持てるスポットとして定着してきました。
参照:株式会社ポケモン「公式店舗」
ターゲットの年代や属性を絞らず、多世代・多属性に向けて商材を展開・開発している点も、ポケモンの国内戦略の特徴です。
多角的な商品展開により、アニメやゲームに触れてこなかった層のファン化にも成功しています。
たとえば子ども時代にポケモンに興味がなかった人も、ベビーグッズの登場により、親になって初めてポケモンの魅力に気づくケースが少なくありません。
また2016年には位置情報とARを活用し、屋外で歩いてポケモンを探す画期的なゲーム「ポケモンGO」をローンチし、健康志向のミドル・シニア世代を取り込んでいます。
2023年5月のある調査によると、ポケモンGOの年代別利用割合は50代と60代以上のシニア層で29.7%と3割近くを占めていることがわかりました。
参照:村田裕之オフィシャルサイト「ポケモンGOは散歩のお供に達成感、それ以外も シニアに人気の秘密」
ポケモンの海外向けマーケティング戦略手法は以下の3つです。
特徴的な個々の戦略を見てみましょう。
ポケモンは国ごとにキャラクターの呼称や設定をローカライズすることによって、親しみやすさを増しています。
たとえば、主要なキャラクターが英語圏では以下のとおり子どもが呼びやすい名前に置き変えられています。
呼称だけでなく背景にも配慮し、日本的な設定を排除している点もポケモンの特徴です。海外展開を意識して無国籍的な風景を描いた結果、ポケモンは世界的に受け入れられました。
参照:ポケモンデータベース「Pokémon name origins (etymology)」
ゲームをアニメ化する際に、海外展開を意識して、テーマを「バトル」から「友情」へと変更している点も、ポケモンが海外で受け入れられているポイントの一つです。
ゲームでは主人公がポケモンと戦って「捕獲」しますが、アニメはサトシとピカチュウの「友情と成長の物語」を軸に調整されています。
設定変更の背景にあるのは、かつての日本製のアニメが海外で「残酷」「子どもに有害」とのイメージをもたれていたことです。テーマの変更により、ポケモンから従来の日本アニメのネガティブなイメージを払拭することに成功しています。
参照:藤井健「異文化マネジメントの視点から見たキャラクター・ビジネスの国際展開」
初代ポケットモンスターのリリース順を日本と米国とで変えている点も、ポケモンの主要な海外戦略手法の一つです。
日本ではゲームからアニメが生まれましたが、米国でのリリース順はアニメが先です。「米国でキュートなポケモンやRPGが受け入れられるのか」との懸念から、1998年にアニメを放映してキャラクターを浸透させてからゲームを解禁し、販売数を大きく伸ばしました。
ポケモンGOに関しては、日本に先行してニュージーランドやオーストラリア、アメリカで2016年7月初旬にリリースしています。話題になったタイミングで7月16日に日本上陸を図った結果、認知と話題性が高まり、スピーディーに流通拡大に成功しました。
参照:株式会社ポケモン「海外事業」
参照:Pokémon GO「Pokémon GO、いよいよ日本で配信開始!」
ポケモンがゲーム市場におけるマーケティング戦略に成功したポイントを解説します。
一つずつ見ていきましょう。
万人に扱いやすく親しみやすいゲームシステムも、ポケモンがロングヒットを続ける秘密の一つです。
多くのゲームは進化にともない、システムや操作が複雑化する傾向にあります。しかしポケモンは、はじめてゲームに触れた人もすぐ操作できるため、小さな子どもでも親しみやすいのです。
また大人になって久々にゲームを始めてみたくなったユーザーに馴染みやすい設定も、ポケモンの魅力です。「収集」「育成」「交換」「対戦」の仕組みは、子どものころの昆虫・植物の採集や育成の経験に重なる部分があります。こうした普遍性も、年代や国境を超えたプレイヤーを魅了しつづける理由といえるでしょう。
参照:株式会社ポケモン「ごあいさつ」
ノスタルジーを感じさせ、もとのファンをカムバックさせて売上につなげている点もポケモンの特徴です。
「ノスタルジーマーケティング」は、懐かしさを感じると購買意欲が増す心理を活用したマーケティング手法で、過去のファンに戻ってきてもらう「ウィンバック戦略」に活用できます。一例を挙げると、新作のゲームに最新のグラフィックで初期のポケモンを登場させ、もとのファンを再度虜にしているなどです。子どもと一緒にプレイできるコミュニケーションツールとして設計されている点も、戦略として秀逸といえます。
ノスタルジー効果を狙った企業の例に「バーガーキング」があります。ロゴチェンジを実施した際、あえて90年代に使用していたロゴとそっくりなデザインにし、リブランディングを図りました。メニューや食材への変わらぬ愛情とこだわりをレトロなロゴで表現した同社は、新旧のファンから話題を呼んでいます。
参照:marketing Report「トレンドは『懐かしさ』から生まれる?ノスタルジア・マーケティングの全て」
巧みに計算されたゲームやサービスのリリースタイミングも、ポケモンの強みです。
ポケモンGOを初代ポケモン世代が成人したタイミングにリリースしたこともリバイバルヒットの要因です。2016年は近年の消費の中心となり経済や社会トレンドを牽引する「ミレニアル世代(1980年代から1990年代半ばに生まれた世代)」が、20代~30代半ばにあたります。彼・彼女たちが成人して購買力をもつようになり、ポケモン市場の拡大に貢献したのです。
また、先行してアメリカでリリースし、話題になったタイミングで日本に上陸させた点も、ポケモンGOの日本でのブレイクを計算していたといえます。
構築されたブランドの効果を新規ゲームのリリースに最大限活用し、爆発的な販促効果を得ている点も、ポケモンの特徴です。
ポケモンGOのリリース時には、20年間築きあげたブランド力によりSNSでの注目度が高く、広告活動に大きな労力をかけることなく情報拡散を実現できました。
そのうえ位置情報アプリのリーディングカンパニー・米ナイアンティック社とのコラボであったために、当初から話題性もあり、SNSなどで絶大な口コミ拡散効果を得られました。
ポケモンのマーケティングにおけるキャラクターブランド化戦略は、徹底したライセンス管理による高収益ライセンスビジネスが特徴です。
「ライセンスビジネス」とは、自分がもつ知的財産権を他者に利用許諾(ライセンス)して利用させ、利用料(ロイヤルティ)を受け取るビジネス形態のことです。
ポケモンの知的財産権(著作権・商標権)は任天堂、ゲームフリーク、クリーチャーズの3社が共有しています。株式会社ポケモンは、ポケモンをプロデュースする「芸能事務所」のような役割をはたしており、同社の企業理念には以下のように記載されています。
“1998年、株式会社ポケモンはその名が示すように、ポケモンというコンテンツに特化し永続的なブランドに育てるために、原著作権者によって設立されたユニークな企業です。
コンテンツや商品づくり、マーケティング、その他あらゆる活動を通じて、ポケモンの個性を引き出し、その魅力を広く伝えることに力を注ぎます。”
引用:株式会社ポケモン「企業理念」
ポケモンを通じて、ゲームソフトやカードゲーム、アニメなど複数の権利を一元化している点が同社のライセンスビジネスの特徴です。複数事業を一元管理することで、市場ニーズの変遷に応じて柔軟・スピーディーに注力ポイントを移せる点が、同社のマーケティング戦略の強みといえます。
ポケモン以外の主要なキャラクタービジネスとの類似点・相違点を解説します。
それぞれに特徴があるので、参考にしてください。
ディズニー社は徹底した著作権管理によってコピー品を排除し、ディズニー製品の品質を高めている点で、ポケモンと類似しています。
また常に新しいキャラクターを生み出し、消費者を飽きさせない点もポケモンとの共通点です。ミッキーやドナルドなどのオリジナルキャラクターに加え、後発のトイストーリーやライオンキングなどもライセンス化し、ブランドの新鮮さを維持しています。
徹底的な版権管理とマーケティング戦略を連動させ続ける同社は、高クオリティなキャラクター商品の制作と次世代への継承を実現しています。
ウルトラマン・仮面ライダーの両シリーズも、独自の手法やライセンス管理でキャラクタービジネスに成功している事例です。
ポケモンやディズニーと同様、ウルトラマンや仮面ライダーも親子3代にわたり親しまれるキャラクターとして制作されています。
ウルトラマンは「仲間」「家族」「地球」と向き合う、普遍的なテーマが現代にも通じるため、今なお広い世代に人気です。
平成・令和の仮面ライダーは旬の若手俳優を起用し、女の子や母親のファンも取り込んでいる点が昭和のシリーズとの相違点です。昭和シリーズでは仮面ライダーが素手で戦闘していましたが、平成シリーズからは武器をもつなど、時代に合わせた構成変更もロングヒットの秘訣といえます。
いずれもライセンサー側が、世代を超えたニーズを満たせるようキャラクターを成長させました。結果として、次世代へ受け継がれるキャラクター文化を醸成できた好事例です。
独自の「クロスメディア戦略」で、アニメとゲームを大ヒットさせた事例に「妖怪ウォッチ」(株式会社レベルファイブ)があります。
クロスメディア戦略とは、複数のメディアをつないで広告宣伝することです。代表的な例としては、テレビCMで「続きは明日の折り込み広告で」「続きはWebで」とほかのメディアに誘導することなどが挙げられます。
同社のクロスメディアと、ポケモンが採用するメディアミックスには共通項もありますが、違いは以下のとおりです。
戦略 | 概要 |
---|---|
妖怪ウォッチのクロスメディア戦略 | メディア(商材)同士を関連付け、あるメディアのユーザーを他のメディアへと橋渡しする戦略 |
ポケモンのメディアミックス戦略 | キャラクターとしてのポケモンを軸に複数のメディア(商材)を展開し、不特定多数の潜在顧客へ商材を認知させる |
両社には事業の分担についても違いがあり、ポケモンは以下のようにクリエイターはクリエイティブな業務に専念し、ビジネス領域から切り離しています。
担当する企業 | 担当領域 |
---|---|
株式会社ゲームフリーク | ゲーム開発 |
株式会社クリーチャーズ | ビジネス面 |
任天堂株式会社 | ゲーム販売・流通 |
株式会社小学館集英社プロダクション | アニメーション関連の版権管理 |
株式会社ポケモン | 上記以外の版権管理 |
一方の妖怪ウォッチは、これらすべてを株式会社レベルファイブ社内で完結させていることが相違点です。
子ども向けにフォーカスした同社では「イナズマイレブン」「ダンボール戦機」から蓄積したビジネスノウハウを、妖怪ウォッチに集結しました。そして以下のようなヒットの連鎖を生むことに成功しています。
時期 | ヒットした商材と売上数値 |
---|---|
2013年1月 | 『コロコロコミック』にて連載開始、3月までの平均印刷部数61万6,667部 |
2013年7月 | ゲーム『妖怪ウォッチ』販売本数5万3,654本 |
2014年1月 | テレビアニメ放送、視聴率6.1%(関東) |
2014年12月 | 劇場アニメ動員数約700万人 |
2015年1月 | 2作目ゲーム「妖怪ウォッチ2 元祖/本家」販売累計308万8,387枚 |
ユーザーの触れるチャネルが拡大したメディアの変革期にあって、すべてを効果的に活用・連携できた点はポケモンと共通する成功要因といえます。
参照:野口光一「メディア変革期における『メディアミックス』の新展開 ―『妖怪ウォッチ』を事例に ―」
世代を超えたポケモンのマーケティング戦略成功は、以下の要因によるところが大きいといえます。
メディアを跨いだユーザー層の拡大施策や、反響の活用などのマーケティング手法は、戦略的なブランドの構築・育成によってその効果が高まります。
ポケモンがブランド価値の長寿化・最大化を実現したマーケティング戦略を学び、自社事業の発展と収益向上に努めましょう。
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