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「2023年に成立した著作権法改正のポイントについて知りたい」
「2024年に施行される著作権法の内容がわからない」
このように著作権法の改正が気になっている方も多いのではないでしょうか。
著作権法はたびたび法改正がおこなわれているため、どのような内容がいつ成立し、どのタイミングで施行されるのか把握するのは簡単ではありません。
本記事では、著作権法の改正について詳しく知りたい方に向けて、2023年5月に成立し2024年6月に適用される著作権法改正の内容について詳しく解説します。2021年6月に成立し2023年6月に適用された法改正についても解説しているので、ぜひ参考にしてください。
令和5年(2023年)成立の著作権法改正の概要を以下のとおりご紹介します。
令和5年(2023年)成立の著作権法改正の概要は、以下のとおりです。
改正点 | 概要 | 成立日 | 施行日 |
---|---|---|---|
著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等 | 連絡が取れず許諾が得られない著作物であっても使用可能となる改正 | 令和5年5月17日 | 公布日から3年を超えない範囲で政令で定める日 |
立法・行政における著作物等の公衆送信等可能とする措置 | 国会や行政で使用する内部資料のメール送信やクラウドによる共有が可能となる改正 | 令和5年5月17日 | 令和6年1月1日 |
海賊版被害等の実効的救済を図るための損害賠償額の算定方法の見直し | 被った損害に対し権利者の販売能力を超えた分であってもライセンス販売した分として請求が可能となる改正 | 令和5年5月17日 | 令和6年1月1日 |
2023年5月17日の通常国会において「著作権法の一部を改正する法律」が成立しました。
今回の法改正で変更となる主な点は、次に挙げる3つです。
上記の法改正によって「著作権者に連絡がつながらず許諾が得られなくても著作物が使用できる」「海賊版などの損害賠償額を多く請求しやすくなる」などの影響があります。
施行日に関しては、1.が「公布日から3年を超えない範囲で政令で定める日」です。2.および3.の施行日は、2024年1月1日となっています。
改正の主な理由は、インターネットやデジタル技術の発展によって変化した流通環境や海賊版による被害に対し、著作権法をより実効的な内容にするためです。
近年、DXの推進にともない、現行の著作権法では対応しにくい以下のような問題が発生しています。
ケース①
現行法では、著作物を利用する場合は権利者の許諾が必要。そのため、作成している動画に使いたいイラストを見つけたので著作権者に連絡をとって使おうとしたが、まったく返信がなく使えない、といったケースが発生している。
ケース②
現行法では、国会議員や行政職員が著作物を引用して内部資料を作成する際、紙に印刷するのであれば権利者に許可はいらないが、メールやクラウドで共有する場合は許可が必要。そのため、無駄なコストや時間が発生している。
ケース③
海賊版サイトに自身のマンガ作品がアップされ、1,000冊分の損害を受けたとしても現行法では、個人の販売能力である100冊分の賠償しか請求できないケースが少なくない。
今回の法改正は、上記のような現状を踏まえ、著作権者の利益の保護と第三者のスムーズな利用の両立を目指したものといえるでしょう。
著作権や著作権法自体については、以下の記事で解説しています。
2023年5月に成立した著作権法の主な改正点は以下のとおりです。
冒頭の概要でも紹介した上記3つの改正点について、適用が想定される例とともに詳細に解説するので、参考にしてください。
新裁定制度は、著作権者の意思が確認できなくても、一定の手続きを経て、新設される窓口組織に使用料を支払うことで使用が可能となる制度です。
例えば「イラスト製作者に使用許可を求めたが反応がない、他の連絡手段もない」といった場合に新制度を利用すれば、許可なくイラストを利用できるようになります。
この制度が施行されることにより、利用者は著作物を利用しやすくなります。一方、著作権者も、一定の手続きを経て請求をおこなえば利用停止の申し出が可能なため、どちらにとってもメリットのある制度です。
引用:文化庁「第 22 期文化審議会著作権分科会法制度小委員会 報告書」
ただし、すべての著作物が対象となるわけではありません。著作権の管理がしっかりおこなわれている著作物や「文化庁長官が定める方法により必要な情報」が公表されている著作物は対象外となります(新67条の3第2項)。
「文化庁長官が定める方法により必要な情報」の詳細は、2023年8月時点ではまだ決まっていません。今後、公式サイトで利用規約や申請フォームが用意されている場合などは対象外になる可能性が高いです。
新裁定制度の実施には、窓口組織の設立や関係者への周知が必要なことから、施行日は「公布日から3年を超えない範囲で政令で定める日」となっています。
2つ目の改正点は、国会議員や行政職員が使用する内部資料にクラウドやメールなどが利用しやすくなったことです。
内部資料とは、立法または行政の目的のために作成された資料や、その目的のために提供された資料を指し、具体的には「法律案や条約案を審議するための資料」や「国政調査に使用する資料」などです。
これらの資料には、学術論文や新聞記事、企業の報告書など第三者の著作物が使用される場合があり、改正前は以下のように使用する場合は、著作権者の許諾を得る必要がありました。
しかし改正後は、立法・行政の目的のために必要であると認められる場合に限り、著作権者の許諾を得なくてもおこなうことが可能となりました。
この改正により、国会や行政庁における著作物の利用が円滑になり、国民の知る権利の向上や行政の効率化が図られることが期待されます。
なお、改正後も、著作権者の利益を不当に害するような場合には、著作権者の許諾を得る必要があることに注意が必要です。
3つ目の改正点は、著作権が侵害された際の損害賠償額の算定方法の見直しです。
今回の改正では次のように改正がおこなわれました。
引用:文化庁「第 22 期文化審議会著作権分科会法制度小委員会 報告書」
現行の著作権法では、次の計算式で算出された金額を損害額とできるとされています(著作権法114条1項)。
侵害者の譲渡等数量-特定数量=販売等相応数量
販売等相応数量×権利者の単位数量当たりの利益の額=損害額
ただし「数量を権利者が販売することができない事情があるときは、これに相当する数量に応じた額が減額される」とも規定されています。
つまり、100個の損害があっても、権利者に60個の販売能力しかない場合には、40個分は損害額に入れられないということを指し、この損害額に入れられない部分を「特定数量」と呼びます。
それでは販売能力を超えた分は一切請求できないのか、というと必ずしも請求できない訳ではありません。権利者は第三者に権利を委託して販売、いわゆるライセンスで得た利益も損害額も請求できると現行法には規定されています(著作権法114条3項)。
しかし、ライセンス料の金額は、著作権侵害を前提とした事情を考慮する旨は規定されていません。そのため、実務において事情を考慮した算定がされているかは不明瞭でした。
こうした事情をふまえ、今回の改正がおこなわれました。
この改正にともない、以下2つの合計額を損害額として算定できるようになります。
現行法と改正法の損害賠償で請求できる金額を実際の金額で比較すると次のようになります。
▼現行法と改正法の損害賠償額の比較
・状況
ある個人の作曲家が制作した楽曲を、海賊版サイトが無断でアップロードして1万ダウンロードされたため、海賊版サイト制作者に対し損害賠償請求をおこなった。
・各種数値
不正にダウンロードされた数:10,000曲分
権利者(作曲家)個人の販売能力:1,000曲分
1曲あたりの利益 200円
ライセンス販売による1曲あたりの利益40円
・現行法
1,000曲×200円=20万円(※ライセンス料収入をさらに加算できるケースもある)
・改正法
1,000曲×200円=20万円
(10,000曲-1,000曲)×40円=36万円
20万円+36万円=56万円
施行日は2024年の1月1日からです。
著作権法は、今回の改正を含めると2018〜2023年間で5回もの改正がおこなわれており、改正されたものの中には2023年6月に施行されたものもあります。
ここでは、2023年6月1日に施行された内容を含む2021年6月公布の著作権法改正について、概要や主な改正点を解説します。
2021年5月26日の第204回通常国会において「著作権法の一部を改正する法律」が成立しました。
2021年の法改正で変更となった主な改正点は、次に挙げる2つです。
1.に関しては2023年6月1日から、2.に関しては2022年1月1日から施行されています。
2021年の法改正における1つ目のポイントは、図書館向けデジタル化資料送信サービスが実施できるようになった点です。
図書館向けデジタル化資料送信サービスの実施により次の2つのサービスが受けられるようになりました。
1つ目の「国立国会図書館による絶版等資料のインターネット送信」は国立国会図書館が保管する絶版等資料の一部を利用者がメールなどで受け取れるサービスです。
改正後の著作権法では、利用者の個人情報登録など一定の条件を満たすことで、絶版等資料を直接メールなどで受け取れるようになりました。
絶版等資料とは、簡単にいうと「一般では入手困難な資料」を指します。
改正前の著作権法では、国立国会図書館がデータ送信できる対象は、公共図書館や大学図書館に限られていました。そのため、利用希望者が絶版等資料を閲覧するためには、公共図書館や大学図書館へいく必要がありました。
こうした従来の制度では「図書館が感染症対策などで休館している」「近くに図書館がない」などの理由で閲覧が難しい方への対応が困難でした。
改正後の著作権法では、利用者の個人情報登録など一定の条件を満たすことで、絶版等資料を直接メールなどで受け取れるようになりました。
また、限度や要件はあるものの、データの複製やディスプレイなどを用いての共有も可能となっています。
2つ目の「各図書館等による図書館資料の公衆送信」は各図書館に保管されている資料を、一定条件のもとでメール送信や全体の複製を可能とするものです。
改正後の著作権法では、一定の資料については全部の複製が可能です。また、特定の要件を満たした図書館からであれば、データでの資料受け取りも可能となります。
改正前の著作権法でも、図書館から資料の複製はもらえましたが「もらえる資料は全体の半分まで」「データ送信は不可」などの条件がありました。
そのため「資料全体の閲覧には図書館にいかなければならない」「資料の送付方法は郵送のため受け取りまでのタイムラグが発生する」などの問題を抱えていました。
改正後の著作権法では、一定の資料については全部の複製が可能です。また、特定の要件を満たした図書館からであれば、データでの資料受け取りも可能となります。
しかし、著作権者の利益に損害をあたえることとなる場合は認められない点には注意が必要です。
2021年の法改正により、放送番組をインターネットで同時に配信する際に必要な著作権者の許諾を得やすくなりました。
例えば、ある著作物がテレビ放送されることを著作権者が許諾した場合、インターネット配信についても許諾したものと推定される規定が新設されました。
他にも、レコードの利用をはじめさまざまな改正が見直され、インターネット配信に関する権利処理がスムーズにおこなえるようになりました。
著作権法においては、学校教育番組の放送や政治上の演説などであれば、許諾なく著作物等を放送(有線放送)することが認められています。
しかし、改正前の著作権法には、この範囲にインターネットによる配信は含まれていません。そのため、上記内容をリアルタイム配信やアーカイブ配信しようとした場合、別途個別に許諾を得なければなりませんでした。
その結果、インターネットで配信するためのハードルが高くなり、以下のような問題が発生していました。
放送に関わるすべての著作権者から許諾を得るのに多くの時間がかかる
こうした問題を受け、2021年の法改正ではインターネット同時配信に関するさまざまな権利の見直しがおこなわれたのです。
著作権法改正についてよくある、以下2つの質問について解説します。
著作権法改正の歴史とは?
著作権法は1899(明治32年)に制定されて以後、権利の保護や著作物の利用・流通の適正化を目的に、長い間にわたり改正がおこなわれてきました。
特に大きな改正は、1970年(昭和45年)におこなわれた、著作権法の全面的な改正です。この改正により、著作者の人格が保護される旨が明確化されたり、著作物の利用形態に応じた権利が保護される旨が明確化されたりしました。
また、近年においてはIT技術の進化にともない、多くの改正がおこなわれており、2018〜2023年の間では実に5回にわたり、条文の追加や制度の見直しが実施されています。
参照:文部科学省「これまでの主な著作権法の改正について」
2020年6月5日に成立した法改正によって、スクリーンショットによる違法コンテンツ保存も規制の対象となりました。
しかし、規制の対象となるのは「違法と知りつつ保存した場合」に限られます。したがって違法と知らず保存した場合や、保存した画面にたまたま違法画像が含まれていた場合などは、規制対象となりません。
参照:文化庁「改正著作権法による『侵害コンテンツのダウンロード違法化』の施行について(通知)」
2023年5月に成立した著作権法改正の主な改正点は次の3つです。
著作物等の利用に関する新たな裁定制度の創設等
特に1.と3.の改正点は、企業や個人事業者にとっても大きく関わりのある内容となっています。
内容を把握しておかないと、後に大きな影響をおよぼしたり、被害にあっているのに十分な補償を得られなかったりするので、しっかりと確認しておきましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。