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「くまのプーさんをビジネスに利用したいけど著作権が気になる」
「くまのプーさんの著作権が切れているといわれているけど本当か知りたい」
「くまのプーさんを使った商品・サービスを作る際の注意点があるのか知りたい」
くまのプーさんを使用して商品・サービスを作りたいと考えている方の中には、上記のように本当に著作権が切れているのか知りたい方も多いのではないでしょうか。
結論としては「くまのプーさんの著作権は切れているが、一部のみである」です。
本記事では、くまのプーさんの著作権の実態や、プーさんというキャラクターを利用する際の注意点について詳しく解説します。
最後まで読むことでくまのプーさんの著作権の扱いが理解でき、安全に「くまのプーさん」を利用できるようになるでしょう。
くまのプーさんのストーリーやキャラクターを利用したい方は、ぜひ参考にしてください。
プーさんの著作権は、アメリカでは2022年、日本では2017年5月21日に著作権が切れています。
ただし、プーさんに関するすべての著作権が切れている訳ではなく、無断で使ってよい部分とNGな部分があるので、利用時には注意が必要です。
プーさんの著作権が切れている部分は次の通りです。
アメリカ | 原作1作目「クマのプーさん」の文章および挿絵 |
---|---|
日本 | 原作1作目「クマのプーさん」・原作2作目「プー横丁にたった家」の文章部分のみ |
上記以外の箇所、日本の場合では小説の挿絵などを勝手に使用すると、著作権侵害となってしまうため注意が必要になります。
日本において、プーさんの著作権が2017年5月21日に切れた理由は、著作権保護期間が終了したためです。
「クマのプーさん」の原作者であるA.A.ミルンが亡くなったのは1956年です。当時の日本における著作権保護期間は「著作者死亡の翌年から50年」であったので、本来であれば2006年には著作権が切れていました。
しかし、日本にはいくつかの国に対して、戦争をおこなっていた間の保護期間が上乗せされる「戦時加算」と呼ばれるルールがあります。アメリカの作品に対しては、約10年5ヶ月の上乗せがされるため、2017年に著作権が切れることとなりました。
現在の日本における著作権保護期間は「著作者死亡の翌年から70年間」となっています。保護期間が終了してからは、著作物を新たな創造に活かしてもらうために、自由に使えるようになります。
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
クマのプーさんの著作権は国によって異なります。
次に挙げる2つの国における「クマのプーさん」の著作権について解説します。
詳しく解説しますので「クマのプーさん」を利用する際の参考にしてください。
アメリカでは、原作1作目にあたる「クマのプーさん」の文章および挿絵部分の著作権が切れています。
アメリカの著作権法は、日本における著作権の扱いと異なり、著作権の対象となるのは作品単位です。そのため、作品の「文章のみ」「挿絵のみ」といった形で著作権が切れることはありません。
また、保護期間に関しても日本とは異なり、1977年以前の著作物は発表から95年の間著作権が保護されます。
そのため、1926年に発表された「クマのプーさん」の著作権終了は2022年ですが、1928年発表の「プー横丁にたった家」の著作権終了は2024年になります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「外国著作権法アメリカ編」
日本では「クマのプーさん」の原作者であるA.A.ミルン作品すべての著作権が切れています。しかし、著作権が切れているのはA.A.ミルンが執筆した「文章部分のみ」である点には注意が必要です。
日本における著作権は、著作者単位での扱いとなっています。そのため、文章を執筆した人と、挿絵を描いた人が別である場合、著作権もそれぞれ独立して存在することになります。
以上のことから「クマのプーさん」の挿絵を担当したE.H.シェパードの著作権はいまだ有効であるため、基本的には使用できません。E.H.シェパードは1976年に亡くなっており、保護期間は死後70年であるため、挿絵の著作権が切れるのは2046年です。
また、翻訳された文章については、翻訳者に対して著作権が発生します。そのため「文章だから」という理由で日本語版をそのまま用いてしまうと、翻訳者の著作権を侵害してしまう可能性があるため注意が必要です。
プーさんをパブリックドメインとして利用する際の注意点として、次の2つを紹介します。
もし、誤った認識で「くまのプーさん」を利用してしまうと、場合によっては多額の損害賠償を求められることにもなります。注意点を踏まえて正しく利用しましょう。
1つ目の注意点は、原作とは別にディズニー版「くまのプーさん」にも著作権が存在している点です。
「くまのプーさん」といわれて多くの方が想像するキャラクターや赤い服などは、ディズニーのオリジナル要素です。そのため、オリジナル要素を断りなく利用した場合、ディズニーがもつ著作権を侵害することになります。
また、ディズニーは、クマのプーさんの原題からハイフンを取り除いた「Winnie the Pooh」を商標登録しているため、表記にも注意が必要です。
一方で「クマのぬいぐるみ」や「黄色」などの要素は、原作にも文章として明記されているため、絵として描き起こす際にも利用できます。
日本で「クマのプーさん」を自由に使えるのは、原作の文章部分のみです。
原作で描かれているE.H.シェパードの挿絵や、日本語版のほとんどには、2023年時点で著作権が存在しているため、無断利用は著作権侵害にあたります。
もし、どうしても挿絵や翻訳された文章を利用したい場合は、著作権者に許可を取ってから利用しなければなりません。
プーさんのパブリックドメイン化をきっかけに作られた作品には、次のようなものが挙げられます。
それぞれについて詳しく解説します。
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「プー あくまのくまさん」(原題:Winnie-the-Pooh: Blood and Honey)は2023年に公開されたイギリスのホラー映画です。
プーさんをはじめとしたキャラクターが、親友ロビンに見捨てられたことで、殺人鬼となって人々を襲うストーリーとなっています。
「プー あくまのくまさん」はホラー映画ということもあり、ディズニー版がもつイメージから大きく外れている作品です。
プーのデザインもディズニー版と差別化を図りつつ、著作権切れした原作で提示されている「黄色いクマ」の要素を残すことで、ライセンス問題を解決する工夫がなされています。
ディズニー版のライセンスに配慮しつつ、プーさんの要素をうまく残しての映画化に成功しており、パブリックドメイン化したからこその作品といえるでしょう。
制作費は約10万ドル(約1,500万円)という低予算でありながら、2023年11月時点で約490万ドル(約7億4,000万円)もの興行収入を出しています。※2023年9月13日時点のドル円レートで計算
このように、経済的には大成功を収めたことから、2024年には続編が制作されることが明らかにされています。また、続編では1作目では著作権保護により出せなかった、ティガーも登場する見込みです。
参照:Variety 「‘Winnie the Pooh: Blood and Honey’: Inside the Viral Micro-Budget Slasher Hoping to Slay the Box Office (EXCLUSIVE)」
参照:BoxOfficeMojo「Winnie the Pooh: Blood and Honey」
参照:Yahoo!ニュース「『プー あくまのくまさん』続編のファーストルックを独占公開 ティガーが初登場、「暴力的で拷問が大好き」なキャラクター」
引用:KADOKAWA公式サイト「クマのプー」
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「クマのプー(森絵都訳)」は、角川文庫より2017年に発売された小説です。
2017年6月17日に日本において原作「クマのプーさん」の著作権が切れた直後の2017年6月17日に発売されています。
「原文を新たに翻訳している」「挿絵も新たに描き起こしている」など、発売当時に存在していたプーさんの著作権についても配慮して制作されています。
パブリックドメインとは、著作権や知的財産権(知的所有権)が発生しておらず、誰でも利用できる知的創作物のことです。日本では「公有」とも呼ばれています。
主な知的創作物としては、次のようなものが挙げられます。
日本では「著作者死亡の翌年から70年間」が著作権保護期間です。保護期間終了後は創造を推進する観点から、該当する著作物の複製や出版、転載などが誰であっても自由にできるパブリックドメインの状態になります。
原作の「クマのプーさん」の場合、原作者であるA.A.ミルンは1956年に亡くなりました。
当時の日本における、A.A.ミルンの出身国であるイギリスの作品に対する著作権保護期間は「50年+約10年5ヶ月(戦時加算)」となっています。そのため、約60年5ヶ月後である2017年に「クマのプーさん」の著作権が切れたのです。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?」
パブリックドメインを利用する際に注意するべき法律は以下の2つです。
詳しく解説しますので、パブリックドメインを利用する際には、ぜひ参考にしてください。
著作隣接権は著作権とは異なる権利で、著作物を作ったものではないが、著作物の伝達に重要な役割をはたしているものに認められている権利です。
著作隣接権は、次のようなものに認められています。
対象者 | 保護期間 |
---|---|
実演者 | 実演がおこなわれたときから70年 |
レコード制作者 | レコードの発行(CD販売等)が行われたときから70年 |
放送事業者 | 放送がおこなわれたときから50年 |
有線放送事業者 | 有線放送がおこなわれたときから50年 |
具体例には「録画したテレビ番組を動画として投稿する」「購入したDVDをそのまま動画に投稿する」などが著作隣接権の違反にあたります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作隣接権とは?」
著作隣接権については、以下の歌ってみたの著作権の記事でもご紹介しています。
▼関連記事
歌ってみた音源に著作権は発生する!侵害しない方法と申し立てがきたときの対処法を解説
著作者人格権とは、著作者の名誉や精神を保護するために、著作物の創作者がもつ権利です。
著作者人格権は、著作権とは別の権利になります。そのため、著作者が著作権を持っていない状態であったとしても、権利を行使可能です。
著作者人格権の内容には次の4つがあります。
権利名 | 内容 |
---|---|
公表権 | 未公表の著作物を公表するかどうか、公表の時期・方法を決める権利 |
氏名表示権 | 作品に著作者の名前を表示するか、実名を表示するかなどを決める権利 |
同一性保持権 | 作品を無断で修正されない権利 |
名誉声望を害する方法での利用を禁止する権利 | 作品が著作者の名誉を害するような方法で使用されることを禁止する権利 |
たとえば、動画を悪意を持って編集したり、アダルトサイトの広告に用いたりすることによって、遺族から訴訟を起こされる場合があります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作者にはどんな権利がある?」
プーさんの著作権は保護期間が終了したため、パブリックドメインとして利用可能です。
しかし、パブリックドメインとして利用できる内容は、次の通りです。
アメリカ | 原作1作目「クマのプーさん」の文章および挿絵のみ |
---|---|
日本 | ・原作1作目「クマのプーさん」 ・原作2作目「プー横丁にたった家」 の文章部分のみ |
一方で「くまのプーさん」といわれて多くの方がイメージする、ディズニー版のプーさんには著作権が残っています。
「プーさんに赤いベストを着せる」などをすると、著作権侵害として訴えられる可能性があるので注意が必要です。
また、著作権が切れている作品であっても「著作隣接権」や「著作者人格権」の侵害となる可能性があります。そのため、著作権が切れているからといって、作品をどのように扱ってもよい訳ではない点にも留意して、作品を利用するとよいでしょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。