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「版権とはなんのこと?著作権とは違うの?」「版権がある著作物の使用許可はどのように取得する?」
版権のある著作物の使用を検討していて、上記のような疑問をお持ちの方もいるでしょう。
版権とは著作権法における出版権のことで、版権のある著作物を無許可で使用すると法的なペナルティが科される可能性があります。
本記事は版権の定義や版権がある著作物の使用許可を得る手順などについて、わかりやすく解説します。版権について理解を深めたい方や、版権がある著作物をビジネスに利用したいとお考えの方はぜひ参考にしてください。
版権とは著作権法における出版権のことであり、著作物の複製・販売に関する独占的な権利を指します。版権の読み方は「はんけん」です。明治時代に福沢諭吉がcopyrightを「出版の特権、或は略して版権」と訳したことが由来とされています。
出版権は独占的な権利なので、著作者が特定の出版社に出版権を設定して契約すると、他社などからは同じ著作物を出版できません。
また保護対象などに違いがあるものの、版権は著作権の旧称でもあります。版権や著作権に関わる法律の変遷を、以下の表でチェックしましょう。
西暦 | 内容 |
---|---|
1869年 | 図書の取り締まりに関して定めた「出版条例」の制定 |
1887年 | 出版条例から版権保護の規定を切り離した「版権条例」の制定 |
1893年 | 版権条例を改正した「版権法」の制定 |
1899年 | 版権法や他の条例が統合された「著作権法(旧著作権法)」の制定 |
1899年に制定された著作権法内で「版権」が「著作権」に代わったため、現在法律上では「版権」という言葉は使用されていません。
ただし現代においては、慣習的に版権を著作権と同義に使用するシーンがあります。たとえば、著作権で保護されているアニメに登場するキャラクターを「版権キャラクター」と呼ぶ場合があります。
参照:知財タイムズ「版権とは?語源や著作権との違いを紹介」
参照:文部科学省「三 著作権制度」
なお、著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
版権と著作権は同義語として扱われる場合がありますが、以下の2点に違いがあります。
それぞれの違いをチェックして、版権への理解を深めましょう。
版権と著作権は、以下のように保護対象に違いがあります。
種類 | 保護対象 |
---|---|
版権 | 書籍などの図書を念頭に置いた言語の著作物 |
著作権 | ・言語の著作物 |
版権の保護対象が言語の著作物のみであるのに対して、著作権は言語を含めて音楽・美術・写真など幅広い著作物を保護対象にしているのがポイントです。
著作権の保護対象が広範囲なのは、著作権法が以下の法律・条例を統合して制定された背景があるためです。
著作権の保護対象の範囲は法改正によって変化しており、たとえば1985年の法改正でコンピュータ・プログラムの保護が明確化されています。
参照:知財タイムズ「版権とは?語源や著作権との違いを紹介」
参照:文部科学省「三 著作権制度」
参照:文部科学省「これまでの主な著作権法の改正について」
版権と著作権は、以下のように権利の発生条件に違いがあります。
種類 | 権利の発生条件 |
---|---|
版権 | 内務省の版権登録の手続きをする |
著作権 | 創作時点で自動的に権利が生まれる |
版権の権利発生には登録手続きが必要なうえ、出版物内に「版権所有」の文字を記載する必要があり、手間がかかりました。一方で、著作権は創作時点で自動的に権利が発生する「無方式主義」を採用しており、創作と権利発生の間にタイムラグがありません。
なお、著作権法75条で「著作権の登録制度」を設けていますが、権利の取得とは関係ないので違いを把握しておきましょう。著作権の登録制度は、著作権関係の法律事実の公示を目的とした制度です。
たとえば著作権の移転などを登録することで、取引の際の安全性を確保できます。
参照:知財タイムズ「版権とは?語源や著作権との違いを紹介」
参照:文部科学省「三 著作権制度」
参照:e-Gov「著作権法」
参照:文部科学省「著作権登録制度」
版権キャラクター・版権イラストとは、企業や個人などが著作権を有しているキャラクター・イラストのことです。版権キャラクターは、以下の4種類に分類されます。
たとえば、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎などが版権キャラクターとして挙げられます。安易に版権キャラクターを利用すると、著作権侵害として法的トラブルに発展する場合も考えられるので注意しましょう。
なお、キャラクターの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
版権がある著作物の使用許可を得る手順は、以下のとおりです。
それぞれの工程をチェックして、使用許可の申請をスムーズに進めましょう。
版権がある著作物の利用は著作権者から許可が必要なので、著作権者を調べましょう。著作権者を調べる方法は、以下のとおりです。
出版社のホームページを確認すると、版権がある著作物の利用に関するQ&Aのページに記載されている場合があります。出版社によっては二次利用について専用の問い合わせフォームを設けているので、確認しましょう。
アニメのキャラクターであれば、キャラクターが最初に登場したテレビ局・映画会社・製作会社に問い合わせると、教えてもらえる可能性があります。
また、著作権者が不明な場合は「著作権者不明等の場合の裁定制度」を利用しましょう。本制度は著作権法67条によって定められており、著作権者が不明な際は文化庁長官の裁定を受けて補償金を払い、著作物を利用できます。
参照:e-Gov「著作権法」
参照:日本ユニ著作権センター「アニメキャラクターの使用許可はどのように取るのか」
版権のある著作物について著作権者を把握したら、企画書を提出して著作権者から使用許可を得ましょう。企画書ではなく使用許可申請書の雛形が用意されている場合もあるので、あらかじめ必要書類を確認してください。
なおビジネスシーンにおいて、社内や得意先との検討用の企画書に著作物を掲載するのは、基本的に問題ありません。ただし、著作権者の利益を不当に害さないように注意することが大切です。たとえば企画書を必ず回収したり、「無断転用禁止」といった言葉を記載したりして外部流出を避けましょう。
また試作品についても使用許可を得る前の社外配布は厳禁なので、取り扱う際は注意が必要です。
参照:日本印刷産業連合会「1- 8.他者が著作権を持つキャラクターを使用した企画の提案について」
版権がある著作物の企画内容について著作権者から了承を得たら、契約を締結します。契約書においては、以下の内容を記載するのが一般的です。
項目 | 内容 |
---|---|
版権がある著作物の使用可能な範囲 | 認められる使用内容・許可期間など |
独占的・非独占許諾に関する事項 | 許可を受けた者のみが利用できるなど、著作物を利用できる者の範囲 |
使用料に関する事項 | 対象期間・金額・支払い方法など |
遵守事項 | 勝手に改変しない・著作者や著作権者を表示するなど |
その他 | ・著作権人格権の行使に関する事項 |
なお版権がある著作物を利用する際は、販売前に著作権者から監修を受ける必要があり、場合によっては修正などが求められます。
版権がある著作物をビジネスに利用する際の注意点は、以下のとおりです。
ビジネスで後悔しないために、注意点を押さえて計画を進めましょう。
版権がある著作物は著作権者の許可なしに利用できないので、無断利用は避けましょう。
著作権法63条において、他人は著作権者が許諾を与えた範囲内で著作物を利用できると定められています。つまり、著作権者を調べて使用許可を得る必要があります。
なお以下のようなケースにおいては、著作権者の許可なしに版権がある著作物を利用できますが、ビジネス利用は含まれません。
ビジネスシーンにおいて版権がある著作物を利用する際は、著作権者を調べて必ず使用許可を得ましょう。
参照:e-Gov「著作権法」
参照:東京都行政書士会「著作物等を無断で利用できる例外について」
版権がある著作物をビジネスに利用する際は、サービス・製品の提供開始まで時間がかかる傾向にあります。ビジネス開始までには以下のように多くの工程をクリアする必要があるためです。
色味などにこだわりを持つ著作権者だと監修に時間がかかる可能性が高く、事前に重視しているポイントを確認しておくとスムーズです。
時間がかかることを前提に、余裕をもったスケジュールでプロジェクトを進めましょう。
むやみに版権のある著作物を利用すると、ブランドや著作物のイメージを低下させる場合があるため注意しましょう。
著作物と商品のテイストが合わない場合、ブランドや著作物のファン層からの評価が下がるおそれがあります。たとえばフォーマルなイメージのブランドが萌えキャラを起用すると、ミスマッチを感じやすいといえます。
無計画に版権のある著作物とコラボレーションするのではなく、自社コンテンツのイメージに合うかどうか事前に検討することが大切です。著作権者の監修によって自社のイメージどおりにならないケースもあるので、丁寧にイメージを共有しましょう。
版権がある著作物の無断利用が著作権侵害と判断されると、民事上の請求・刑事上の罰則を受けるリスクがあります。具体的には、以下のような請求・罰則が発生する場合があります。
種類 | 内容 |
---|---|
民事上の請求 | 侵害行為の差止請求や損害賠償請求などが要求される |
刑事上の罰則 | 10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金が科される |
また企業などの法人による著作権侵害の場合は3億円以下の罰金が科されるため、版権のある著作物を利用する際は細心の注意を払うようにしましょう。著作権侵害が発覚すると、報道やSNS上での拡散によって社会的な信用の低下につながるおそれもあります。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
参照:経済産業省特許庁「著作権侵害への救済手続」
版権とは著作権法における出版権のことで、著作物の複製・販売に関する独占的な権利を意味します。
版権がある著作物を利用する際は、著作権者からの使用許可が必要です。著作権者は「作品名+版権元」などのキーワードで検索したり、テレビ局や製作会社に問い合わせたりして確認しましょう。
また版権のある著作物をビジネスに利用する場合は、著作権者の調査から監修まで多くの工程をクリアする必要があります。製品・サービスの完成に時間がかかることを念頭に置いて計画を立てましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。