東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。
immaといえばピンクのボブヘアが印象的なバーチャルヒューマン。2018年にデビューして以来、世界中から支持されており、現在SNSの総フォロワー数は87万人超え(2024年8月時点)。
ファッション誌『Harper’sBAZAAR』台湾版の表紙を飾ったり、COACHのキャンペーンモデルを務めたり、IKEA原宿店にてインスタレーション”IKEA Harajuku with imma”を行った際は米国内で「インターネット版のアカデミー賞」と評されるウェビー賞Advertising, Media & PR Arguments Reality部門を受賞したり、その快進撃はとどまることを知りません。
今回はそんなimmaをプロデュースするSara Giusto氏にインタビュー。彼女もまた、Forbes JAPAN 30 UNDER 30 2023に選出されたり、2024年4月にはTED Talksに登壇したり、世界中から注目を集めています。
Sara Giusto(ジューストー沙羅)
株式会社Awwのプロデューサー。手がけているimmaはアジアを代表するバーチャルヒューマンとして世界中のさまざまなブランド、企業からコラボ、キャンペーンモデルのオファーが絶えない。自身は日本、アメリカ、カナダにルーツをもち、そのグローバルな視点によって大胆かつ戦略的にファンマーケティングを成功に導いている。アートへの造詣も深く、クリエイティブ分野とテクノロジー分野をつなぐ役割も担う。
Saraさんがバーチャルヒューマンに携わるようになったきっかけはなんだったのでしょう?
Awwには今20人くらいのスタッフがいるんですが、私自身は4年前くらい、4,5人しかいないころにジョインしました。
それまでは広告代理店兼ギャラリーというようなところで働いていて、ずっとクリエイティブな仕事をしてきたんです。美大出身ですし、アーティストになろうと思っていました。
でも世界を見渡すとTikTokで自己表現したり、みんな個人で活動してアーティストになれる時代じゃないですか。そんななか、白い壁に作品が並んでいて、それを評価されるっていう環境に「あれ?」と違和感を覚えて……。
そのタイミングで、国際女性デーに私が主催したコミュニティイベントにAwwのディレクターを務めているYumiさんに登壇してもらったんです。ほかにもいろんなクリエイティブ業界の女性に来ていただいて、すべて通訳しました。
そしたらYumiさんに「通訳よかったよ」と褒めていただいて、「海外のプロジェクトが増えているんだけど、ちょっと入ってくれない?」と誘われたのがそもそものきっかけでした。
そのころにはすでにimmaちゃん、Awwの認知も広がってきていて、海外からの問い合わせが多かったんですけど、私が通訳として参加した最初のミーティングの相手はなんとLINKIN PARKのマイク・シノダさん!
私、LINKIN PARKを中高時代よく聞いていて大好きだったので、「ええええ!」って大興奮でした(笑)。
そんな感じで何回か通訳として参加していたら、Yumiさんに「正式に入らない?」って誘っていただいたので、そのままAwwにジョインしたというかたちです。
immaちゃんって最先端のアートなんじゃないかと思うんですよね。表現の領域で人生、命まで作っているって考えたら「これって私がずっと探していたものじゃない?」って感じたんです。
認知度はそのころよりさらに高まっていると思いますが、それでも「バーチャルヒューマン」というものがどういうものなのか知らない人もまだまだ多いんじゃないかなと感じます。Saraさんは「バーチャルヒューマンのプロデューサー」として具体的にどういったことを日々行っているのでしょう?
たしかに近しい業界の人にはある程度理解されているのを感じますが、まだまだですね。歯医者に行って「なんのお仕事されているんですか?」って聞かれて答えても「なんですか、それ?」っていう感じです(笑)。
私自身はバーチャルヒューマンのプロデューサー以外の仕事もしているんですが、プロデューサーとしては、やっぱりタレントが物理的に存在しているわけではないので、中身の構築、その見せ方、すべて考えています。
たとえば「スタバに行ったよ」ってSNSに投稿しようって決めて、そのためにはどうやってセルフィーを撮るかも決めて……。
もっと大きな領域でいうと、「海外のこのブランドがimmaちゃんに合いそう」とか、「今年はこのプロジェクトを狙っていこう」とか、海外進出面のプロデュースもしています。
immaちゃんのSNSを見ていると、コメントに多数の言語が見られますよね。グローバルに展開していくという視点は最初から見据えていたのでしょうか?
最初から代表の守屋は海外への展開を考えていました。海外で活躍できる日本のスターを作りたいという思いがあったんです。
日本ってIP大国だし、本当におもしろいものが詰まっていますよね。私は高校時代を海外で過ごしたんですけど、当時の友だちはみんな、きゃりーぱみゅぱみゅにはまっていました。
原宿の文化とか、「KAWAII」って言葉が浸透するとか、いわゆる“日本的”なカルチャーって独特なので流行も生みやすいと思うんです。一方で、やっぱり言語的壁を感じてしまう。
でもバーチャルヒューマンなら、すべての言語を操れて、そのうえで日本の文化を発信できますよね。日本発のグローバルスターを生むことができるんです。
immaちゃんは顔立ちも日本人らしいので、「日本発」というのを一層感じさせますね。
代表によると、それも狙いだったようです。海外の方が抱く日本の印象を考えて、アニメっぽいカラフルな髪やアジア的なボブといったアイコニックな要素を取り入れています。
そういったことも相まって、結構世界的なセレブリティーや投資家がimmaちゃん、Awwに興味を持ってくれているので、その方々とつながったり……、スタートアップということもあっていろんなことをやっていますね。
常にいろんな方向にアンテナを向けていないとできないお仕事ですね。
私、小さいころから同じ場所に5秒もいられないっていわれていたくらい飽き性なんですよ。Awwに入る前の仕事は5か月で辞めましたし。
でも今は、たとえばTikTokを撮影したあとでこうしてインタビューをお受けして、投資家の方としゃべったり、なにかのカンファレンスに登壇したり、モーションキャプチャーを撮ったり、毎日慌ただしいのでおもしろいです。
しかも、AI、ファッション、カルチャーと、常に最先端のおもしろいものを作っている方たちと会話できるので楽しくて仕方ないですね。4年間続いているんですけど、こんなこと初めてです(笑)。
革命みたいな感じですね。ファッション面でいうと、今はCOACHのキャンペーンが話題になっていますし、2年前ですが、体形や性別が異なる25人のモデルたちがimmaちゃんの3Dマスクを被って、渋谷の街を模したスタジオを闊歩するdoubletのショーは大きな反響を呼びました。コラボするブランドや企業はどうやって決めるのでしょう?
(doubletの2022−2023AWコレクションショーの様子。immaちゃんとdoubletはこの後、2024年にもコラボを展開している)
チームで考えることが多いんですけど、会議では本当にimmaちゃんがいるように話し合います。「immaちゃんがこのブランドとコラボするならこういうふうにするよね」とか「このブランドはimmaちゃんっぽくない」とか。それも楽しいです。
Saraさんご自身もご活躍の幅を広げていくなかでForbes JAPAN 30 UNDER 30 2023に選出されたり、TED Talksに登壇したり、注目されるニューリーダーになっていると思うのですが、それは予想していたことでしたか?
まったくです!「あれ、気づいたらめっちゃ出てるかも?」という感じです(笑)。
でも小さいころから話すことは大好きで、今も一番社外の方と話していると思います。放っておいても勝手に話しているので、とくに海外で登壇する場合「英語ができて前に出てしゃべれる人だれ?」って探したときに私に行き着くことが多くて、スピーチする機会が増えたのかな。
実は、immaちゃんや代表については、当初あえてそんなにメディアに出ていなかったんです。でも海外から大きく注目が集まりはじめたタイミング……たしかMITから登壇の依頼をいただいたときくらいから、海外を中心に取材が殺到して、気づいたらいろいろと立て続けに露出が増えました。
今も世界中から取材や登壇の依頼をいただくんですが、TED Talksもそのうちのひとつで、ある日1通のメールが届いたんです。それまでTEDに出る人生なんて予想していなかったですし、今も「本当に出たのか!?」って思っています(笑)。
本当にありがたいことに世界的にimmaちゃんへの注目度が増しているので、話さなきゃいけない機会も増えてきて、自然と私が表に出ているだけなので、世界からの好奇心に巻き込まれているという感覚が近いかもしれません。
先ほどimmaちゃんについて「最先端のアート」っておっしゃっていましたが、深く携わるようになって改めてバーチャルヒューマンのどんなところにおもしろみを感じますか?
簡単にいってしまえば「NEXT HUMAN」だと捉えています。すごく当たり前のことを言いますけど、人間って、DNAレベルで動物やロボットよりも人間と話すということに慣れているじゃないですか。
しかも話している相手の眉毛がたった1ミリ動いただけで「今こう思っているな」と察して、会話しながら膨大な情報量を受け止めていると日々感じます。
これから先、バーチャルでの生活や表現が発達していくと思うんですが、DNAはまだ人間のままなので、バーチャル上で「人間と話す」ようなコミュニケーションやエンタメが増えていくと思います。
コミュニケーションの手段として、みんながバーチャルヒューマンになって話すようになるかもしれないですし、将来バーチャルアイドルに熱狂しているかもしれません。
その感覚が日本は世界中のどの国よりも進んでいると思っていて、過去を振り返っても、初音ミクの流行や今主流になってきたVTuberという表現も、自分がバーチャルキャラクターになって発信する、コミュニケーションする、という点ではまるで未来を見ているような気になります。
今挙げたのはすべてエンタメ領域ですが、たとえばバーチャルヒューマンインターフェースとして企業の受付や会議、サービスをバーチャルヒューマンが担う日が来ると思っています。
そこでAwwが重要視しているのは、ただバーチャルの人間を作るのではなくて、共感できる存在を作るということ。他社と一番違うのはそこだと思っています。人間が感動するものを作る手段としてバーチャルヒューマンを作っているというか。
べつにリアルな人間を作りたいわけじゃないんですよ。それは表現の一種であって、それを通して感動するものを作りたいんです。「感動するものってなにかな」って深掘りしていったら、私たちが見たことのない世界が広がっているんじゃないかと期待もふくらみます。
“共感”というと、immaちゃんは気候変動や社会、政治の話など、とくに日本ではファンの方から敬遠されるケースもあるため人間のタレントが避けがちな話題もSNSで発信して、問題提起したり知見を広めたりしていますよね。
バーチャルヒューマンだからこそ言えることがあるとずっと考えています。最近それを再度強く感じました。シリコンバレーで大きな影響力を持つ友人のXアカウントがあり、彼はずっと匿名でポストしていたんですが、先日身元を特定されてしまうという事件があったんです。
それまでいろいろとアイデアを発信して、自由にコミュニティを作って交流してインスピレーションを得ていたのに、素性が明かされてしまってからはそうもいかなくなってきたと話してくれました。自分の人種や経歴など、なにも基づかずにアイデアを発信できると、新しい思いが芽生えたり、脳が発展する、とも。
immaちゃんはそういう面ではかなり“強い”んですよね、anonymously、匿名なので。立場や属性を取っ払って、単純にアイデアとアイデアだけでぶつかり合えるスペースがあるって、やっぱりすごくいいことだと彼の話を聞いて思いました。
なので、immaちゃんが言っていることは、Awwのスタッフや中の人が言いたいことを背負ってくれている部分が大きいんです。気候変動もそうだし、家族の話も実は社員が経験したことを発信する場にしているというか。
バーチャルの世界では、immaちゃんもそうですが、人種や年齢や身分という壁がなく、自由に交流できる空間が存在すると思います。すでにゲームの世界はそうじゃないですか。実際と違う肌の色のアバターを選んでもいいし、それによって差別を受けることもない。
中の人の人種がなんであっても、性別がなんであっても、年齢がいくつであっても関係ない、そういうフラットな空間がバーチャル世界では作れるんじゃないかなと思います。
コロナ禍にいろんな会社からバーチャルヒューマンが誕生しましたが、残念ながら淘汰されてしまったものもたくさんいましたよね。immaちゃんがずっと存在しつづけて、むしろ人気を高めていけるのはそういった受容を感じさせるからだと感じます。
そう言っていただけるのはすごくありがたいです。たしかにバーチャルヒューマンという存在が流行ったのは事実で、そのほとんどの目的が「バーチャルヒューマンを作る」というところで、そのバーチャルヒューマンを通してなにを伝えていくか、どういうストーリーテリングをするのか、が明確ではない例が多かったと感じます。なので、実際にファンのいるバーチャルヒューマンは少ない印象です。
Ted Talksでも「バーチャルヒューマンは私たちの世界に存在しないのに、リアルな世界に影響を与えている」ということを主なテーマとしてスピーチしました。
immaちゃんはコロナ禍の飛行機などがまったく飛んでいない時期にカンボジアの村を訪問して、DV被害など現地の女性が抱えている問題について発信したこともあるんですが、それもバーチャルだからできたことだと考えています。
(immaちゃんがカンボジアを訪問した際のInstagramの投稿)
ただテクノロジーを披露しているだけのコンテンツは、なにも意味ないなって思うんです。カルチャーを作ることで、バーチャルヒューマンそのものの価値がもっと高まるんじゃないかなと考えてます。
これからどんどんバーチャルとリアルが混ざっていくなか、ストーリーテリングを重視したものが生き残っていくんじゃないでしょうか。
AIの発展により、また新たにバーチャルヒューマンへの期待値が高まっているのを感じますが、バーチャルヒューマンに求められるものはやはり「共感」なのでしょうか?
繰り返しになってしまいますが、やっぱり世界的にバーチャルヒューマンが広がっていくなかで常に感じているのは、ファンとコミュニティと、そしてそれらを作るために「ストーリーテリング」が必要だということ。
これからグローバルに通用するタレントって、自身の感じた苦悩や日々の思想を発信して、それにフォロワーさんたちが国境を越えて共感したり憧れを抱いたりしてコミュニティを構築していくことで成功すると思うんです。
それがバーチャルヒューマンにも必要で、というかそれがないとなにも意味を生まないと考えています。ファンコミュニティの強さはこれから先、一番問われる部分なんじゃないかなって。
あとバーチャルタレントの場合、今までになかったテクノロジーを介したファンコミュニティの可能性も期待できると思います。たとえばブロックチェーン上にコミュニティを作るとか、immaちゃんならではのファンとのつながり方も楽しめそうですよね。
AIのimmaちゃんの開発も進めているんですが、AIだったら将来的に、同時に100万人の相手一人ひとりと話すことも可能ですし、そういう、人間にはできない、人間を超えたファンコミュニティを作りたいと思っています。
immaちゃんという存在が今まで以上にどんどん人々の日常に浸透していきそうですね。
見たことのないコミュニティ、エンタメの方法が生まれるんじゃないかと期待しています。結局は人と人がつながって、喜びと意義が持てればいいと思っていて、今までは「好きなバンドが共通していた」といった要素が人を結ぶきっかけになっていましたが、これからはバーチャルヒューマンのファンになることでつながるということもあるんじゃないかな。
基本的にAwwはコンテンツファーストの会社なんですよね。なのでSNS上でのシェアやコラボの機会は良く捉えていて、インターネット上のミーム的な文化も今後のファンビジネスには必要なものだと考えています。
日本の場合、美術館で作品の撮影をしちゃだめだったり、著作物を強く守ろうとする文化が根づいていますけど、たとえば自然発生的にネットミームが生まれてそれが独り歩きして広がっていくのも俄然賛成しているんです。
NFTが登場して一気に流行した瞬間がありましたが、あのときってWeb3上のコミュニティはどこも、「みんなでコラボして新しいものを作っていく」というのがおもしろい時期でしたよね。
immaちゃんの話をすると、Discord上でファンの方々がデザインした服が集まって、それをまた別のファンが投票して、一番票数の多かったものをAwwが作るといったことも実際に行いました。
従来のIPの作り方は、年に1回などタイミングを決めて企業側が作ったコンテンツやグッズを発表するというシステムが多いですけど、バーチャルヒューマンなどネットでストーリーテリングをする存在としては「一緒にIPを作っていこう」という発信をどんどんしていきたいです。
参加型にすることで、ユーザーから新たなアイデアを吸収できたり、その方のスキルやセンスを伸ばしたりといった、次につながるシステムづくりもできそうですね。
たとえば「ComplexCon(コンプレックスコン)」っていう世界最大級のスニーカーやストリートカルチャーの祭典があるんですが、それにimmaちゃんの作ったバーチャルファッションを展示したんです。
そのときNFTブランドのRTFKT(アーティファクト)が流行っていたので、そのコミュニティでモデルを募集したんですけど、普通の人間ではなくてRTFKTのPFP(Profile Picture。SNSのアイコンなどに使われるNFTのこと)をモデルにして、しかもモデル料をちゃんと払うという、……そんなのやったことある人いないんじゃないですかね?
実際に300人以上の人たちが応募してくださったので、その中からNFTモデルを選んで、バーチャルファッションを着せて展示しました。そういうふうに、常にコミュニティのみんなを巻き込んで一緒におもしろいものを作っていきたいと思っています。
immaちゃん自身もチームみんなで作っている一種のコンテンツですもんね。
それもおもしろいんですよ、当たり前ですけどひとりの人間を複数人で作ることなんてできないじゃないですか。バーチャルヒューマンには単純に、そういう見たことのないものがたくさん詰まっているんです。「人間とは?」っていう哲学的なことをいつも考えます。
immaちゃんはやっぱり先ほどのお話のとおり、人間が共感できるという点でとくに人間に近い存在だと思うんですが、人間とバーチャルヒューマンの違いはどこにあると感じますか?
なんなんですかね(笑)?結局なんなんだろうってよく考えるんですけど、人間らしさ自体は本当に細かいところに感じるかもしれません。たとえば最近GPT-4oに話しかけると、最初に「あー」って人間が考えているときのような声を出すんですよ。それにドキッとする自分がいます。
そういうドキッとする感覚はimmaちゃんから常に感じます。SNSに投稿する写真が半目だったり……。人間の場合、瞬きした瞬間にシャッターを押すことで「ミス」として半目写真ができあがりますが、それをあえてバーチャルヒューマンが再現しているんです。
こうやって説明してしまうと魔法が消えてしまうようですが、代表はそういうリアリティを感じる細かいところを本当に気にしていて、それもあってなのか、チームの中ではいつもimmaちゃんが存在するように話しています(笑)。
たしかに“隙間”のような部分があると人間らしさを感じます。人間らしさの演出としてそういうのを足し算、引き算するにも人間のセンスが求められそうですね。
そうなんです。うまくやらないと遠い存在になっちゃうんですよね。たとえばディズニーランドの“魔法”って、みんなミッキーの中に人が入っているのは知っているけど、それでも実際に会うと「ミッキーだ!」って思うじゃないですか。
同じ感じで、immaちゃんは存在しないものですけど、その事実がどうでもよくなるほどリアルな世界観を作って、みんなに盛り上がってほしいと思っています。
immaちゃんのSNSにも結構本当の人間だと思ってコメントしている方がいらっしゃいますよね。
それが驚くくらいあるんですよ。著名な方から「コラボしませんか?」ってDMが来て、実際に私が会いに行ったら「あれ?immaちゃんはどこですか?」って言われたことも数多くあります(笑)。
それはプロデューサー目線では「やった!」という感じなんですか?
代表のリアリティへのこだわりが根づいている結果だと思いますが、本当に存在していると思っている人を見ると、不思議だな〜とは思いますね(笑)。でも、人間もみんなSNS上ではフィルターをかけたり加工したりしているじゃないですか。そうなると不思議なことに、たしかに逆にimmaちゃんのほうがリアルに見えるときがあります。
だからSNSが普及したうえで成り立つ存在だとは思いますね。みんなお互いに対面で実像を見るんじゃなくて、スマホの画面上で見ることに慣れているから、そのうちのひとりが実在しなくても存在するものと認識しちゃうというか。
しょっちゅう代表と話しているんですが、日本の場合はアニミズム的な考えが浸透しているというのも影響していそうですよね。
最近、サンフランシスコで自動運転タクシーのWaymo(ウェイモ)に乗ったんですよ。運転席不在のまま車が動くんですけど、無人なのにハンドルが切られるのを見ると、まるでその車が生きているように感じちゃって、車がかわいいキャラクターに見えてくるというか。
でもそれってすごく日本的な感覚で、海外ではあまり考えられないんですよ、Waymoも「怖い」っていわれてるし。でも代表と私はふたりで「かわいい〜」って言っていたんですね。
たとえばアニメって、ただ線で描かれたイラストが動くことで命が吹き込まれるわけですけど、やっぱり日本はアニメの文化が根強いからこそIP大国なのかなという気がします。
immaちゃんだけでなく、AI、ロボットなど人間ではないものに命を感じるような仕草やストーリーをもたらすことで、人間が心を開く相手になるのかなと思いますね。
だからGPT-4oの「あー」って発声する、あのアクションってすごく重要だと感じます。そういうものをもっと進化させていくことで、本当に命があると感じられそうだし、そういったものを駆使して、たとえばChatGPTをキャラクター化したら、「GPTちゃん好き〜!」って支持されるようなものも作れそう。
たしかに、世界的にはAIに対して恐怖を感じる国も多いなか、日本でわりとすぐに歓迎されたのは、ロボット開発を昔から活発に行っているとか、それこそ『ドラえもん』のようなキャラクターが浸透しているからといった理由が挙げられていますよね。
おもしろいですよね。たとえば日本ではファミレスに猫耳をつけたロボットがいて、その子が配膳してくれて、みんな自然と「かわいい〜」って受け入れていますけど、海外だとびっくりされるんじゃないかな。
そもそも「かわいくする」「キャラクター化する」という目的だけで、配膳ロボットになんの機能もない猫耳をつけているのが、まず日本的ですごいですよね(笑)。
ほかの国だとすぐディストピア的な、「人間がこのファミレスロボットに支配される!」っていう発想になっても不思議ないのに。
駅には電車を擬人化したマスコットがいたり、県ごとにゆるキャラがいたり、日本には本当にIPがいっぱいあります。そういうアニミズム的考え方が広まっているから、AIもすぐに受け入れられたんだと思うし、これからどんどん一般的に普及していくとも思います。
AIといえば、先日NVIDIAとの業務提携を発表されましたよね。これによってバーチャルヒューマンを制作する過程において、どのような変化が起こりますか?
対話型AIバーチャルヒューマンをローンチ予定なのですが、NVIDIAとはそのプロセスでパートナーシップを結んでいます。具体的には、ユーザーと自然な会話を可能にする音声およびビデオモデルを利用し、自然な表情、動き、声を生成するバーチャルヒューマンを開発しています。
AIを通して、リアルタイムにユーザーとバーチャルヒューマンがつながることができるようになるということです。今年から提携したNVIDIAとはまさにその技術を向上させている最中です。
まずはグローバルで活躍するバーチャルヒューマンスターのファンビジネス視点から開発し、さらに当社のMASTER MODEL®を通じて、ほかの企業とのコラボレーションによりエンターテインメント、教育、カスタマーサービスなど、さまざまなビジネスシーンの対話型AIバーチャルヒューマンの可能性を広げていきたいと思っています。
AI Wave Tokyoでお見せしたように、現時点の最前線のAI技術を用いて、あともうちょっとで完成できるかなという状況です。
私たちAwwの強みはやっぱり、IPを作る能力だと思っているんですけど、今はそれにNVIDIAの技術を組み合わせることで、immaちゃんの表情を自然に動かしているところです。
たとえばAI immaちゃんに「こんにちは、元気ですか?」って話しかけると、その意味を理解して、なにを返すか頭の中で考えて、「こんにちは、私は元気です」って返す、このときにいかに自然に笑顔になるか、とか。
この「自然にしゃべる口元や表情」の再現にNVIDIAが長けていて、“Audio2Face”っていう音声ソースからフェイシャルアニメーションを自動生成するツールを使って、今はとにかく一緒に研究開発しているという感じです。
先ほど人間は「眉毛が1ミリ動いただけで感情を察しようとする」っておっしゃっていましたが、そういう繊細な動きもできるようになるということですか?
まだ人間レベルには達していないんですけど、どこをどうしたらいいのかっていうのをこちら側からもフィードバックして、とにかく人間に近い、高いクオリティを目指しています。
もともとはNVIDIA側からコンタクトを取ってきてくれたんですよ。それで業務提携しましょうか、というふうに話を進めていたら、いつの間にかNVIDIAが大変なことになってしまって(笑)。
時価総額がマイクロソフトを超えて世界一ですね。
そうです、そうです!そんな企業に注目されているのはうれしいですね。CEOのジェンスン・フアンさんがKeynote(基調講演)で「バーチャルヒューマンは産業に革命をもたらすでしょう」といったことをお話しされていて、「人間と対話するのと同じくらい自然なコンピューティングを目指しています」と。
先ほどお伝えしたように、私たちはみんなロボットよりも人間と話すことに慣れているので、人間と話すようにバーチャルヒューマンと話すこと、これを一番にやってのけた会社がリードすると思っています。
そのためにはやっぱり見た目、それからIPとしての価値は絶対的に必要だと思っています。immaにはそれが備わっているからNVIDIAも興味を持ってくれたんじゃないかなと思うんですよね。
それでバーチャルヒューマンの外側と内側と、それぞれのトップクラスの技術が集結したわけですね。
最初にimmaちゃんが世に出てきたとき、ぶわっと勢いよく注目はされたんですけど、今のAIブームでさらに「バーチャルヒューマンってなんだ?」って広がっていっているのを感じます。
TED Talksで話したあと、アメリカのメディアに取材されたものが秋に放送される予定なんですけど、ほかにもサンフランシスコでインタビューされたり、Appleにも招待していただいたり、AIブームによってみんな未来が気になるのかなと強く感じます。
日本でもApple Vision Proの販売が始まりましたけど、この中にimmaちゃんが入るなど、やっていきたいことがたくさんあります。
(Apple Vision Proを身につけるimmaちゃん)
今後Awwとしては、やっぱりAI immaちゃんの開発、それからグローバルなバーチャルスターを発信するというのが大きな予定ですか?
そうですね、あと同時にコミュニティの新しいかたちを模索しながらプラットフォームを作ろうとしています。
そのうえで、もちろんどんどん熱狂を生むコンテンツを届けていくというのは継続的に行っていきます。この2年くらいでライブ配信もできるように整えてきたので、immaちゃんの動画制作の体制も変わってきました。
やっぱりバーチャルヒューマンのライブ配信というのは、ひとつの大きな壁だったのでしょうか?
本当にいろいろな壁がありました。VTuberだったらアニメ顔なので比較的早くできるんですけど、immaちゃんみたいなフォトリアルなバーチャルヒューマンをライブで動かすっていうのは、技術者に見せるとみんな「こんなの見たことない!」って驚いてくれるので、Awwだけが持っているテクノロジーかもしれないです。
たしかにほかで見たことないです。ちなみにSaraさんご自身は今後どういったことを目指していますか?
今まで触れてこなかった国やコミュニティにもっと触れていきたいですね。immaちゃんのフォロワーってもちろんアメリカや日本も多いんですけど、ブラジルや韓国、インドにもいてくれて、私行ったことないんですよね。
だからそのあたりの理解を深めて、その土地にあったコンテンツを考えていきたいです。めっちゃ若者が多いんですよね、インドやブラジルは。
みんなスマホを持っていて、TikTokを撮ったりしていて、流行も早くてすぐに去っていっちゃうので、そういうのはやっぱり実際に行ってみて肌で感じたいと思っています。
日本の場合は真逆で高齢者が多いので、どんどんAIがサポートする社会になっていくと思うんです。さっき他国と比べて日本はAIに対して恐怖心があまりないって話になりましたけど、そこには「必要だから抗えない」という側面もあるかもしれません。
たしかにそうですね。そうなるとさらにインド版immaちゃんが登場したとき、日本とは違う反応が得られそうですね。
また違う熱狂が生まれそうですよね。最近LAに住んでいる友だちがメキシコに初めて旅行してきて、「意外とimmaちゃんのファンいたよ」って言っていたんです。そういうのって、やっぱりその場に行って体感してみないと、理解が深まらないですよね。
東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。