
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。
「音楽の著作権の保護期間は何年?」「音楽の著作権の保護期間はどのように計算すればよい?」といった疑問をお持ちの方も多いのではないでしょうか。
本記事では音楽の著作権の保護期間について、年数や計算方法、著作権切れの代表的な楽曲、保護期間に関するよくある質問とその回答を紹介、解説します。
著作権を侵害せずに楽曲を利用したいと考えている方は、ぜひ参考にしてください。
音楽の著作権の保護期間(存続期間)は、原則として著作者が死亡してから70年間です。かつては50年間でしたが、2018年の改正により70年間に延長されました。作者不明や団体名義の楽曲は、創作あるいは公表してから70年が経過するまで保護されます。
著作権とは、著作物の利用に関して著作者に認められている権利のことです。音楽の場合は作曲・作詞者が著作者であり、無断で楽曲や歌詞が利用されないように著作権法によって保護されます。
音楽を含むすべての著作物には、著作権を保護する期間が定められています。保護期間を超過した著作物は「パブリックドメイン」と呼ばれ、誰もが自由に利用可能です。
参照:e-Gov「著作権法」
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
著作権の概要やパブリックドメインについて詳しく知りたい方は、以下の記事もご覧ください。
音楽の著作権の保護期間が50年間から70年間に延長されたのは、各国との足並みを揃えるためです。
近年は著作権の保護期間を70年間以上とする国が増え、ベルヌ条約(著作権の保護に関する国際条約)に加盟する国の4割以上を占めています。そこで国際的な調和を図るため、日本においても2018年12月30日より保護期間が50年間から70年間に延長されました。
このため、著作者の死後や作品公表後から50年以上経過した楽曲も、著作権が残っている場合があります。ただし、2018年12月29日までに50年間の保護期間が経過し、著作権が消滅した作品については、さかのぼって著作権が復活することはありません。
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
参照:文部科学省「3.保護期間の在り方について」
音楽の著作権の保護期間は、著作者が死亡した年の翌年の1月1日から70年後までです。
たとえば、2024年に著作者が死亡した作品の著作権は、2025年1月1日から数えて70年後の2094年12月31日までが保護期間です。
ただし次の著作物については、公表または創作された年の翌年から起算します。
著作権の保護期間を知りたい音楽がある場合は、著作者の逝去、あるいは作品の公表・創作から70年が経過しているかを確認しましょう。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?」
第二次世界大戦中に創作・発表された海外の音楽の著作権の保護期間は、戦時加算によって70年間からさらに延長されることがあります。
戦時加算とは、戦時に相当する期間を著作物の保護期間に加算する制度です。戦時下の日本が交戦国の著作物の著作権を保護しなかったことを理由に、サンフランシスコ平和条約で規定されました。
戦時加算の主な対象国と、その期間は以下のとおりです。
対象国 | 加算期間 |
---|---|
アメリカ、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア | 3,794日 |
ブラジル | 3,816日 |
オランダ | 3,844日 |
ノルウェー | 3,846日 |
海外の古い楽曲を利用したい場合は、それが第二次世界大戦連合国の楽曲かどうかを確認し、戦時加算も考慮して保護期間を計算しましょう。
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
参照:文部科学省「著作権の保護期間に関する戦時加算について」
音楽を利用する際は、著作権以外の保護期間にも注意しなければなりません。
著作物には著作権以外に著作隣接権があり、これにも保護期間があります。著作隣接権とは、著作物を伝える役割を担っている者が持つ権利です。
音楽の場合はレコード会社や実演家(歌手や演奏家、アーティスト)に認められており、それぞれ以下の保護期間が存在します。
対象者 | 保護期間 |
---|---|
レコード製作者 | レコードに最初に音を録音した年の翌年から起算して70年 |
実演家 | 実演を行った年の翌年から起算して70年 |
作曲者の死後から70年経過していても、音源を利用する場合は著作隣接権が残っていることがあります。CD音源などを利用する場合は、著作隣接権の保護期間にも注意しましょう。
また、編曲を行う場合は著作者人格権にも注意しなければなりません。著作者人格権とは、著作者の人格や名誉を守るための権利です。
著作者人格権は著作者の死亡によって消滅しますが、消滅後も著作者人格権の侵害にあたるような行為は著作権法第60条により禁止されています。
著作者人格権侵害と見なされる行為の例は以下のとおりです。
参照:JASRAC「レコード会社やミュージシャンはどんな権利をもっているの?」
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作権は永遠に保護されるの? | 著作権って何? | 著作権Q&A」
著作権が保護されている楽曲を利用する際の注意点は次の2つです。
上記のケースについて、それぞれ説明します。
市販の音源を利用する場合は、著作権だけでなく、著作隣接権も含めて利用手続きが必要かどうか確認しましょう。
確認が必要な権利は以下のとおりです。
市販の音源を商用利用する場合は、申請が必要となることがあります。利用シーンに応じて、どのような内容で申請が必要なのか都度確認しましょう。
参照:JASRAC「音楽の著作権とは」
参照:JASRAC「Music Users|利用者の皆さま」
SNS(YouTube、Instagram、TikTok)で楽曲を使用する場合の著作権については、以下の記事を参照してください。
楽曲を改変する場合は、著作権だけでなく著作者人格権にも注意しましょう。
編曲や替え歌、詩の翻訳を行うと、著作者人格権を侵害する可能性があります。なお、著作者人格権は譲渡ができません。そのため著作権とは権利者が異なることもあります。
楽曲改変時は、作詞・作曲者などの関係権利者に直接交渉しましょう。
参照:JASRAC「音楽の著作権とは」
保護期間が終了し、著作権が切れている有名曲の例を挙げます。
先述のとおり、著作権の保護期間は終了していても、著作隣接権の保護期間は継続していることがあります。上記の楽曲であっても市販の音源を利用する際は、著作隣接権の保護期間にも注意しましょう。
参照:Pf Anniversary「著作権の保護期間がわかる 作曲家一覧 没年順」
参照:青空文庫「著作権の消滅した作家名一覧」
参照:教育芸術社「中山晋平」
参照:国立国会図書館「本居長世|近代日本人の肖像」
参照:教育芸術社「岡野貞一」
参照:教育芸術社「滝廉太郎」
参照:OLDBADBOY「パブリック・ドメイン名曲集」
以下の、音楽の著作権の保護期間に関する「よくある質問」に回答します。
著作権が切れていない楽曲も、以下の条件をすべて満たす場合は著作者の許諾なしに演奏できます。
また、私的利用のための複製も著作者の許諾なしに行えます。ただし、違法にインターネットにアップロードされたものを複製する行為は、私的利用を目的とした複製であっても法律違反となるため注意しましょう。
参照:JASRAC「音楽の著作権とは」
クラシック音楽には作曲者の死亡から70年以上経過している作品も多く存在しますが、そのすべてが必ずしも自由に使えるとは限りません。
たとえばベートーベンやモーツァルトが作曲したクラシック音楽は、すでに著作権が切れています。しかし曲自体は自由に利用できても、著作隣接権は保護されている可能性があるため、市販の音源を利用する場合は実演家やレコード会社から許可を得なければならないことがあります。
また歌詞をつける、メロディーをアレンジする、など改変されたクラシック音楽は、作詞者や編曲者が著作権を持っている可能性があります。
クラシック音楽の著作権については、以下の記事をご参照ください。
海外の音楽にも著作権の保護期間が定められているものの、日本で使用する場合は日本の著作権法に従えば問題ありません。
著作権の保護期間は国によって異なります。
海外の著作物を使用する場合、ベルヌ条約などの国際条約に従い、使用国の法律を考慮するべきと考えられます。海外の楽曲を国内で利用する場合は、日本の著作権法に従って保護期間を計算しましょう。
なお日本の著作物も、海外で利用する場合は現地の法律に従う必要があります。
参照:CRIC「文学的及び美術的著作物の保護に関するベルヌ条約パリ改正条約(抄)」
音楽の著作権の保護期間は、著作者の死亡、作品の創作、発表の翌年から起算して70年です。
保護期間が終了した楽曲は、著作権者の許諾なしに利用できます。ただし市販の音源を使用する場合は、アーティストやレコード会社が持つ著作隣接権の保護期間にも注意しましょう。
とくにクラシック音楽のCDなどは、著作権の保護期間が終了していても、著作隣接権は切れていないことがあります。
保護期間の確認が必要な権利は、使用する用途などによって変わります。音楽を利用する際は、著作権を侵害しないように正しく手続きをしましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。