東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。
2005年日本国際博覧会「愛・地球博」公式キャラクターのモリゾーとキッコロ、株式会社ベネッセコーポレーションが発行する情報誌『たまごクラブ』『ひよこクラブ』のキャラクター たまちゃん、ひよちゃん、中部国際空港セントレアのキャラクター セントレアフレンズ、そしてオリジナルキャラクターのカッパやパンダ、わるものなど多くの人気キャラクターを生み出してきたアランジアロンゾ。
実は、中の人は姉妹。“つくるの担当”のさいとうきぬよさんと“えをかく担当”のよむらようこさんに、デビューから30余年が経ったいま思う、お互いの距離感や働き方の変化、キャラクターのモデル、これからの発信の仕方などについてお話をうかがいました!
アランジアロンゾ
1991年、姉妹であるさいとうきぬよさんとよむらようこさんが立ち上げた有限会社アランジアロンゾ。オリジナルキャラクターにくわえて、2005年日本国際博覧会「愛・地球博」や株式会社ベネッセコーポレーションが発行する情報誌『たまごクラブ』『ひよこクラブ』、中部国際空港セントレアなどの公式キャラクターのデザイン、オリジナルグッズの企画販売などを行う。国内にとどまらず、台湾やフランス、ロシアなどにもショップ、イベント展開している。
クリエイターというと個人で活動される方も多いですが、法人化されたきっかけを教えていただけますか?
さいとうさん:私たちにとっては「仕事をする=会社を作って始める」という感覚だったんです。
よむらさん:もともとキャラクターがいたわけではなく、会社を作ってから「なにしようか」「じゃあ作りたいものを作ろう」と活動を始め、その「作りたいもの」のなかにキャラクターというかイラストがあったという感じです。
最初からキャラクターを作ろうとしていたのではなく、たとえば「カッパのイラストが人気だからいろいろ商品を作ってみようか」と展開していったことで、だんだんイラストからキャラクターが生まれてきたんですよ。
さいとうさん:子どもが会社ごっこをしている感覚に近いかもしれません。特にやり方があるわけでもなく、どっちかが「こういうの作りたいね」って言って「いいね」って決まったら、それを作っていく。そういう感じでやってきました。
発想の源はどういうところにありますか?
よむらさん:いろいろですね。ぬいぐるみに関してはもともと好きだったので、人気のあったカッパやパンダのイラストを使った商品をいろいろ作っているうちに「ぬいぐるみもあったらいいな」と思って作りはじめ、それを「写真に撮ったらかわいいよね」と撮影して、それをまた商品化したり。
よむらさん:ぬいぐるみを一つひとつ手作りしていたら、どうしても多くは作れないし価格も高くなってしまうので「じゃあ業者さんにお願いしてマスコットを作ってもらおう」と話が広がっていって……。
さいとうさん:「ぬいぐるみはみんなも作りたいかも」と手芸の本を作ったり。
子どものころ、まさしくアランジアロンゾのフェルトマスコットの本を見ながらよく作っていました。
さいとうさん:子どもも作れる本を出したかったのでうれしいです。自分たちが作りたいと思うものって、子どものころの記憶に基づいていることが多くて、実際に昔、フェルトでいろいろ作っていて「もっと簡単なもののほうがかわいいのに」って思っていたんですよね。
それでアランジアロンゾとして「簡単に作れるフェルトの手芸本を出したい」と言ったら、よむらも「じゃあ作ったらいいよ」と言ってくれたので実現できたんです。
デビューから33年経ち、企画の立て方や考え方、アウトプットの仕方など変わった部分はありますか?
よむらさん:やりたいことは都度変わってはいますが、大きな変化はないかもしれません。しいていうなら働き方かな。最初の10年くらいはお正月2日間と風邪を引いたときだけ休んで、ほぼ休みなしの生活だったんです。
さいとうさん:眠くなったら帰って寝るけど、やりたいことが山盛りにあって終わらないし、それもまた楽しいから次々に「これやりたい」って自分で仕事を増やすという毎日がずっと続いていました。
でも今は家のことにも目が向くようになったし、なにより疲れたので(笑)、そこまで途切れずに仕事をするっていう感じではなくなりましたね。
人とのつながりができて、いろんな作り方を学んだというのも理由だと思います。昔は「お金をかけずに自分たちだけでどれだけ安く作るか」ということを考えていたけど、いろんな作り方を覚えたし、いろんな付き合いもできて「あそこだとこういうのが作れる」っていうのがわかってきたんですよね。
よむらさん:あと私が東京に出てきたことで物理的に距離ができたっていうのもあるかもしれません。結婚、妊娠、出産もあったので「仕事100%!」ではなくなりました。
さいとうさん:でも子どもも大きくなって離れていったら、また仕事のほうにどっぷり浸っちゃうのかもしれない。
今の若い人たちって真面目な方が多いので、たぶんすごくいい加減なやり方だと思われそうです。直接言われなくても「ちゃんと決めてほしい」って思っているんだろうなと感じることもあります。
「やりたい」と思ったら次の日には始めてしまうので、もしかしたらほかのスタッフはやりにくいかもな、自分でやったほうがいいのかな、と思うこともありますね。
それは2人で活動を開始してどんどん拡大していったからこそ生じたことかもしれませんね。アランジカフェをオープンし、店舗数も増やしていたのでピーク時は特に大変だったのではないですか?
さいとうさん:カフェは私たちが運営していたのは日本の1店舗のみで、台湾ではフランチャイズで営業していたんです。
よむらさん:もともと台湾でアランジアロンゾの雑貨店を運営してくださっていた方がおもしろい方で、「やろう!」「やっちゃえ!」「やった!」っていうスピード感で物事を進めてくれたんですよね。
さいとうさん:いつの間にか10店舗くらいに拡大していて、台南には「アランジホテル」っていうホテルまでできて、私たちは直接的には関わっていなかったので楽しかったです(笑)。
やっぱりおもしろい人が「一緒になにかしませんか?」って言ってくれるのは楽しいですね。
姉妹で活動されることの楽しさなどはありますか?
よむらさん:楽しさというか楽なのは意思の疎通ですね。でも近くなりすぎると息苦しくなるような気もします(笑)。
さいとうさん:姉妹じゃなくても、だれかと2人で一緒にずっと続けていくってやっぱり困難があることだと思うんです。私たちの場合は12〜13年目くらいのときによむらが東京に出てきたことで距離が保てたので、今まで続いているのかなっていう気はします。
10年間くらいずっとべったり、朝から晩まで一日中隣にいる感じだったから、いいのかどうかわからないけど脳の中までシンクロすることもありました(笑)。
よむらが考えたことなのか、私が考えたことなのか、どっちが言ったことだったかわからなくなってきちゃって、それはさすがに「やばいね」「離れてよかったね」って思っています。
先ほど仕事もほぼ休みなく行っていたとおっしゃっていましたし、それだけ長い時間をともにして一緒に活動していると、そうなるのもわかる気がします(笑)。
法人化されてから30年以上経ち、ショップも国内に4店舗構え、ほかのクリエイターさんだったら企画だけ自分たちで行って工場でどんどんグッズを製作するといったことも検討しそうですが、今でもハンドメイド商品を販売したり、「手作り」というものにこだわりを感じます。
よむらさん:手作りは楽しい、でも手で作ったものだけを売りつづけるのは難しい。大量生産して多くの方に知ってもらうことと、1点ずつ手作りしてコアなお客さんだけに買ってもらうということの中間というのがあると思うんです。そこにいたいですね。
さいとうさん:手作りのものだけを生み出しつづけたかったら手作り作家さんになってもいいと思うんです。でもそれだと私たちの場合は自己満足に終わってしまいそうで、もちろん自己満足も大事なんですが、実際に手に取って購入してもらえたら自分が認められたような気になるので、売りたい、売って買ってもらいたいんです。
最初は全部1点ずつ自分たちで作っていたんですけどね。でもそのときも手作りとは思われたくなくて言わなかったんです。
2人で寝ずに30個とか40個とか小さいグッズを作って、ビニールに入れてセットして納品して、「これ売れるからまた追加で50個お願いね」って言われると「はい、ありがとうございます!」って返事しながら内心は焦っていました(笑)。
しばらくはそういうことをやっていましたが、そんな働き方は限界があるっていうのを身をもって知ったので、今は「手作り」であることよりも「自分たちが作りたいもの」を優先して、やってもらえる部分はやってもらっています。
私たちってすごく中途半端で、アーティストじゃないんです。アーティスト仲間には入れない。もしかしたら「商売しやがって」と思われているかもしれないし(笑)。
でも、かといって起業家というわけでもない。だから仲間があんまりいなくて、いなくてもいいんですけど、寂しくなるときもあるんですよ。
普段、肩書きはなんと紹介しているんですか?
さいとうさん:それが難しいので会社を立ち上げたんです。そのうえで肩書きはなしにしています。なのでイベントを開催するときも「お手伝いのスタッフさんですか?」って聞かれたら「はい」ってなりすましています(笑)。
最近はばれちゃいそうですが、若いころはスタッフに交じって一緒にやっていました。それはそれで楽しかったですね。
愛・地球博のモリゾーとキッコロや『たまひよ(たまごクラブ・ひよこクラブの総称)』のたまちゃん、ひよちゃんなど、ほかの企業や団体のためにキャラクターを生み出すこともありますが、アランジアロンゾのキャラクターを作るときと異なる部分はありますか?
よむらさん:依頼してくださった方がいるときは、その方の意向を尊重しますが、そのくらいかな。モリゾーとキッコロの場合は、万博のコンセプトがあったので、それを意識しながら作りました。
あのときは代理店を通じて何人か作家さんが指名されるというコンペだったんですよ。でも具体的に「こういうキャラクターが欲しいです」って言われることもありますし、ケースバイケースですね。
とはいえ、だいたい依頼してくださる担当者の方に雰囲気が似ていたりします。モリゾーも決定権を持っているおじさんがいて、その方の雰囲気に引っ張られました(笑)。本人はそのことをご存知ないんですが。
ほかにもモデルのいるキャラクターはいますか?
よむらさん:『ちちんぷいぷい』(毎日放送、1999年〜2021年)のキャラクター、ぷいぷいさんとひーさんとわんわんは、最初にお話をうかがった、番組を作っている3人がモデルです。
さいとうさん:そっくり(笑)。見た目が似ているというわけではないんですが、なんとなく雰囲気がそっくりなんです。
本来いわゆる「裏方」といわれる方々が実はメインキャラクターになっているの、すごくいいですね。
いまお話に挙がったモリゾーもキッコロも、ぷいぷいさん一家も、いずれも性別が不明だったり、男性でも女性でもありどちらでもなかったり、すごくフレキシブルな印象があり、そこもアランジアロンゾの世界の魅力ですよね。
よむらさん:そう言っていただけるとうれしいんですが、ちょうどこないだメールをいただいたんですよ。公式サイトに載せているキャラクター紹介ページをご覧になって、「わざわざ『男の子』と書いているキャラクターはいないのに『女の子』がいるのはなにか意図があるんですか?」と。
なるほど。でも個人的には「女の子」と「男の子」をバランスよく配分しようと決めてキャラクターを作るのは作為的な気がします。いろんなキャラクターがいるなかで、たまたま女の子と認識しているキャラクターがいたんだな、と受け止めていました。
よむらさん:私も特に気にせず設定をつけていたんですが、たしかに言われてみるとそういう捉え方もあるのか、と学びになりましたね。センシティブな問題といいますか……。
たしかにこれからどんどんそういう意見は増えていきそうですね。個人的にはむしろ早い段階からダイバーシティ&インクルージョンを意識していらっしゃったのかなと思っていました。
よむらさん:楽しく作っているだけなんですけどね(笑)。でも今回のそのメールの内容については、おもしろい視点だなと思いました。
最初のころは真剣にお手紙やメッセージを読んでいたんですけど、それを真に受けてなにかを作ってもおもしろくないなと気づいてからは、よっぽどなにか知っておいたほうがいいときだけ教えてもらって、あまり見ないようにしている部分があるんです。
SNSで発信されている方などは、もっとたくさんいろんなご意見を受け取っていると思うので、本当に大変ですよね……。いちいち見ていたら身がもたないと思います。
情報過多なこの時代に、他人に惑わされずにものづくりをすることは容易くないと思います。改めてご自身のキャラクターに対する思いみたいなものをおうかがいしたいです。
さいとうさん:ずっとそばにいすぎて、仲間だし、一緒に仕事をしてきたパートナーだし、難しいですね。時期によって人気のある子が変わるので、「今だったらパンダかな」とそのときに応じてグッズ展開するキャラクターを抜擢するんですが、そう考えると商売のことも意識しているから「思い」といわれるほど熱いものはあるのか?とも思います。
よむらさん:うちの場合、たとえばスヌーピーみたいにもともと『ピーナッツ』という漫画があってキャラクターが登場したわけではないので、バックグラウンドというものがないっちゃないんです。自分たちのなかにはあるんだけど、お客さんからするとわからないと思うので。
最初はそういった背景が伝わるような本も出していたので、カッパがどういうところに住んでいて、メカパンダと仲良しなんだ、とか知っている方もいるかもしれませんが、今は出していないし、読んでいる人も少ないと思うので、そういうのを前提に商品を作るのは不親切なのかなと思ったり、またそういう本を出したほうがいいのかなと思ったり……。
過去にはそれぞれのキャラクターの家の写真集のようなものもありましたよね。たしかに個人的には、そういった本から一人ひとりの背景を知ることで、より「好き」が強まったとは思います。
さいとうさん:そうですよね、たぶんお客さんはそういったものがあったほうがキャラクターに親近感を抱いたり、身近に感じてくれたりするのかなとは思いますが、「あったほうがいいから絶対作って」と言うのは違うと感じているので、よむらが描きたいと思ったときに描けばいいのかなと思います。
いちファンとしても「自分たちが作りたいものを作る」のコンセプトを続けてほしいです。ちなみにタピオカを生み出す「タピー」というキャラクターについて、タピオカブーム時に特に目立って打ち出すことはしなかったと思いますが、そのあたりに「商売することだけが目的ではない」という部分が見えた気がしました。
よむらさん:タピオカブームのときは息を潜めていましたね。やっぱり華やかな女の子たちの間で流行っているタピオカブームの空気感とはちょっと違うというか、うらぶれた中華屋の厨房にいるタイプなので……。かわいいタピーがいたらよかったかもしれませんが、あれは「かわいい」とは違いますよね(笑)。
最後に、今後の展開についておうかがいできますか?
よむらさん:今後についてもノーアイデアです(笑)。
さいとうさん:最近思うのは、30年以上も続けてきたので、普通の企業だったら次の世代に譲らないといけない年なのかなと。でもキャラクターはよむらが生み出していて、継ぐ人もいないし、「じゃあどうする?」って考えないといけないような気もするし、考えなくてもいいような気もするし(笑)。
よむらがどう思っているかわからないけど、今は原点に戻るというか、お店にしてもモノにしても、「作りたい」と思ってももうたくさんは作れないし、本当に作りたいものを絞っていけたらいいなと感じてます。それで落ち着くところに落ち着くのかなと。
よむらさん:やりたいことがあったから、ここまで続けられました。頭の中で「辞める」っていう選択肢が一度もなかったわけではないけど、「辞めたらなにもないね」って思ったんです(笑)。
さいとうさん:ここまでやってこれたから、死ぬまでアランジアロンゾでいられたらいいね。仕事がどうなっていくのかわからないけど、とにかくなにかを作りつづけるアランジアロンゾでいられたらいいかなと思います。
東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。