東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。
日本でも徐々に認知が広まってきた「インティマシーコーディネーター(IC)」。映画やドラマなど映像作品の制作現場において、ヌードシーンや擬似性行為といったインティマシー(親密)な場面の撮影をサポートする仕事です。
演出側と演者側の間に立ち、それぞれの意向を調整したうえで、作品も演者の尊厳も守ることが求められるその役割は、2017年に始まった#MeToo運動をきっかけに需要拡大に拍車がかかり、比較的新しい職種ながらも年々認知度も高まりつづけています。
今回インタビューさせていただいた浅田智穂さんは、2020年に米国Intimacy Professionals Association(IPA)にて資格を取得し、日本で初めてインティマシーコーディネーターとして活動を始めた、いわば第一人者。
もとは通訳として数々の映像作品に携わっており、2021年に配信開始されたNetflix映画『彼女』を転機に(インティマシーコーディネーターとして撮影に参加されていたのは前年2020年の夏ごろ)転身されたそうです。
日本の映像業界というと労働環境が過酷だといわれることも多く、また同時にこの国の性教育は世界的に遅れているという指摘も絶えません。
そんな市場においてインティマシーコーディネーターという道を選んだ浅田さんの決意や現在の日本の映像業界への思いについてお聞きしました。
インティマシーコーディネーターの認知は徐々に拡大していると感じますが、改めてどういうお仕事か教えていただけますか?
一言で言うと、映像制作においてヌードや性的描写があるときに俳優の皆さんが精神的にも身体的にも安心・安全に演じることができるように、かつ監督の求めているビジョンを最大限実現するためにコーディネートする仕事です。
浅田さんはどういった経緯でインティマシーコーディネーターになられたのでしょう?
最初から興味を持っていたわけではなく、2020年の春に知り合いのNetflixの方からインティマシーコーディネーターになってみませんか?というお話をいただいたんです。
以前からNetflixでは導入を検討されていたんですが、当時は日本で日本語でインティマシーコーディネートをしている方がいらっしゃらなくて、コーディネーターのトレーニングが英語でしか行われていないこと、それから映像制作の現場を知らないと難しいということで、20代、30代とずっとエンターテインメント業界で通訳をしていた私にお声がけくださったんです。
当時40代前半で、子育て中で、まさかそんなタイミングで自分がまたなにか新たに勉強するということは考えていなかったので正直少し悩みました。あと、そのときはこの職業が日本の映像業界で簡単に受け入れられるものだとも思っていなかったので、二つ返事というわけにはいきませんでした。
でも「素晴らしいチャンスをいただいた」と思ったんです。通訳として映像業界を内部から見ていて、いろいろ改善されるべきところがあると感じていましたので、インティマシーシーンにおいてだけでも、俳優の皆さんを少しでも守ることができるかもしれないと思ったら、すごく意義のある職業だなと、引き受けることにしました。
いち映画ファンとしてはインティマシーコーディネーターが導入された作品が急速に増えているのを感じますが、浅田さんが活動を始められたばかりのころと比べると世間の認識などに変化は感じますか?
「2022ユーキャン新語・流行語大賞」にノミネートされたときに、この「インティマシーコーディネーター」という文字を皆さんが目にする機会が増えたのかなと感じました。
最初のころは1本やってはまた1本といったペースだったんですけど、一度一緒にお仕事をした方が別の作品にも呼んでくださったり、俳優の方が「本当にいてくれてよかった」とクチコミで広げてくださったりして、同時に数本関わるようにくらいの依頼数になり、徐々に反応が大きくなっているのを感じます。
ただ日本で製作されている映画の数は今だいたい年間600本以上で、もちろんその中にはアニメ作品も含まれますが、そこに連続ドラマ作品をふくめるともっと膨大です。私が関わっている作品は本当にわずかなんですね。そう考えるとまだまだだと感じます。
でも現状日本でインティマシーコーディネーターの資格を持っていらっしゃるのは浅田さんふくめて2名だけだと思うので、そう考えると本当に多くの作品に参加されていると感じます。
実は今年2024年8月にさらに2名増えて、すでにもう一緒に仕事をしています。
今までもスケジュールを理由にお断りをしたことはなかったんですが、とはいえパンパンではありましたし、これからもっと求められるだろうと感じてIPAとトレーニングのライセンス契約をして、日本でインティマシーコーディネーターを育てられるようにしました。
今後も導入作品は増えていくと思うので、それに伴って増やしていきたいと思います。
先ほど「インティマシーコーディネーター」が流行語大賞にノミネートされたというお話もありましたが、ちょうどその2022年の春ごろ日本でも#MeToo運動の地続きで映像業界における性暴力被害について声を上げる方が出てきて、それまで明るみになっていなかったことが表面化したという事実もあったと思います。お仕事に影響はありましたか?
あったと感じます。ただそのとき告発が続いていた性暴力というのは、監督やプロデューサーなどキャスティング権などを持った人たちが撮影現場ではないところで行っていたものが多かったので、インティマシーコーディネーターが直接関われる部分ではないことにもどかしさも感じました。
作品の準備段階から撮影にまつわるところであれば私たちにもできることがあるんですが、たとえば監督やプロデューサーのプライベートに口出しすることは難しく、胸が痛かったです。
でも声を上げてくださった方がいたことで、俳優たちの尊厳を守らなくてはいけないという認識を広めることにはつながったと思いますし、それによってインティマシーコーディネーターの導入につながったというケースもあったと感じています。
おっしゃるとおり気をつけないとそうなってしまう可能性はあると思うので、伝えることを限定していくことが必要だと感じています。
私は基本的にインティマシーシーンにしか関わらないですし、そのうえで感情面や演出方法ではなく、動きや露出について監督が思い描いていることを俳優に正確に伝えるよう努力しています。
それ以外のコミュニケーションにおいては、相手の立場になって考えることを重視しています。
監督が思っていることに対して、私個人の考えを入れずに、きちんと聞いたことを伝える。それに対して俳優がどう思うかということも、もちろん私の意見を入れずに、しっかり当人の考えを理解して監督に伝える。第三者の立場でいることが大事だと思っています。
監督も俳優も、そしてインティマシーコーディネーターもゴールは「いい作品づくり」だと思うんですよね。いい作品を作るうえで俳優が不安に感じている部分があれば、彼、彼女たちの気持ちになってどう不安を取り除こうか考えます。
このときあまりケアが必要ないという方もいれば必要な方もいるので、そういったことを見極めるという点でも相手の立場になって考えることが必要だと感じます。
インティマシーシーンを演じる際、最初は「大丈夫」と思っても、あとから「やっぱり不安」と感じる俳優もいるのではないかと思います。そういった際のケアはどう行われているのでしょうか?
まず俳優の皆さんと面談をして、できることとできないことをお聞きして同意をしていただきます。でも、このときに「できる」と言ったことを撮影当日に「やっぱりできません」と同意を覆すことは、もちろん彼、彼女たちの権利なのでまったく問題はありません。
ただ、当日になってできないということになると、撮影にある程度影響が出るのも事実です。なので、もし気持ちが変わったらいつでも相談してくださいとお伝えしています。そうすると、そういった場合は事前にご相談してくださるので、撮影日までに解決策を考えることができます。
信頼できる相手でなければすぐに相談するというのは難しいと思うのですが、インティマシーシーンの撮影までに俳優の方々と信頼関係を築くために工夫されていることなどはありますか?
しっかり対話することが大切だと思っています。やっぱり初対面の「はじめまして」の関係で普段話さないようないろんなお話をしなければならないので、まず自分の役割について、またどういう気持ちでこの仕事に取り組んでいるかを理解していただけるようにお話しします。
俳優を守る立場でありつつ、そのうえでいい作品づくりをするために皆さんからいいお芝居を引き出せるように、本当に安心・安全な環境をつくりたいと本気で思っているので、それをお伝えすることが大切だと感じています。
今後ますますインティマシーコーディネーターという仕事は需要が高まっていくと思いますが、これから目指す方はどういったスキルを身につけておくとよいと思いますか?
まずはコミュニケーション能力。あとはありきたりな話になってしまうかもしれませんが、引き出しはたくさんあったほうがいいですね。なので人生経験も多いほうがいいと思っています。
もちろん年齢で区切るつもりはありませんが、新卒の方が60代のベテランの監督と性行為について話せるかというと、できる人もいるとは思いますが、多くの場合は簡単ではないと思います。
映像業界の撮影現場での経験も大事です。どの仕事もそうだと思いますが、知識だけでできるわけではないので、現場での立ち位置やどういう順序でなにがどう行われているかなどの現場を知っていることも必要ですね。俳優経験も重宝すると思います。たくさん映画を見て、いろいろな描写の知識があることも必ず役立ちます。
インティマシーシーンの境界線についてもお聞きしたいです。たとえば実際に肌と肌が触れ合ったり露出が多かったりするだけではなく、間接的に描くこともありますよね。そういうシーンにはどのように関わっているのでしょうか?
私たちはあくまでも撮影現場におけるコーディネーターなんです。見る方の想像に任せるといった描写や過去にそういったことが行われていたと台本に書かれていても、そのシーンを実際に撮影しないのであればインティマシーコーディネーターの出番ではありません。
インティマシーコーディネーターという職業はアメリカ発祥といわれていますが、アメリカにはSAG-AFTRAという大きな俳優の組合があります。
ここでさまざまなルールが設けられていて、インティマシーシーンについては、ヌードと擬似性行為のあるシーンは確実にその対象なんですが、それ以外は描き方などによってゆらぎがあるんです。
たとえば着衣であっても、ずぶ濡れで下着のラインが出て、ご本人が不安であればインティマシーシーンにしますし、キスシーンは演じる方に不安がなければインティマシーシーンにする必要がなかったり……。
とはいえ未成年の場合は、本人が大丈夫と言ってもインティマシーシーンになります。そういったSAG-AFTRAのルールもトレーニングで学びます。
まずは「ト書きの部分を具体的にする」というところがすごく大事です。台本に「ふたりは愛を確かめ合った」と書いてある場合、なんとなく何をするのかは伝わりますが、実際にどのような描写になるのかはわからないですよね。
なので監督にどのようなビジョンをお待ちなのかヒアリングをして、それを俳優に共有して、できるかできないかを聞きます。
俳優が「この程度の描写だったら大丈夫です」と言うのであれば、インティマシーシーンに見なさないこともあります。でもそれはそのシーンを演じるすべての人が大丈夫である場合のみで、だれかひとりが少しでも不安だったらもちろんインティマシーシーンに該当します。
素人の意見として、監督によってはその場で生じる熱に応じてアドリブで撮影されるケースもあるんじゃないかと思ってしまうのですが、実際はどうなんでしょうか?
インティマシーコーディネーターとして作品に携わる際に、監督とプロデューサーには必ず私が設けているルールをお伝えします。
それは「インティマシーシーンの内容は事前に俳優に同意を得て、強制強要しないこと」「性器の露出がないように前張りなどを着けること」「インティマシーシーンの撮影は必要最小限の人数のクローズドセットで行うこと」の3つ。
これらが守られないということであれば、私も入りません。なので、事前に俳優から同意を得たことしかできないというのが前提としてあります。
もちろん当日変更が出てくることもありますが、どこをどう露出するか、疑似性行為のありなしに関しては事前に同意を得た内容で進めます。変更に関しては、必ずNOと言える状況で話をする、というのも大事ですね。
あと控えていただいているのが「とりあえずやってみて」という指示です。それは「あなたのプライベートな部分を見せてください」と言っているのと同じ、「普段どうやっているんですか?」と聞いているのと同じだと思います。
男性の俳優は、どこかで「自分が相手をリードしなきゃいけない」と思っている方も多いので、そうなるとプレッシャーに感じますよね。
インティマシーシーンというと女優への配慮と捉えられることが少なくないですが、本当に演じるすべての方への配慮が必要ですね。
『怪物』には、少年同士がお互いを好きになる、そして作品の中でそれが大人からいけないことだと否定されるシーンがあります。
彼らがLGBTQ+をしっかり理解して、どんな性自認であっても悪いことではないし、人から揶揄されることでもないということを知ってもらわないと、あの役を演じるのはとても危険だと思いました。
なのでそういったことと性教育についてしっかりケアさせていただいたんですけど、とにかくきちんと知って、それをお芝居につなげていくのが大事かなと思います。
とくにインティマシーシーンについてもそうですが、子役を守るルールというのが日本には不足しているので、いま実は私が重点を置いているのはそこなんです。
浅田さんはアメリカでインティマシーコーディネーターの資格を取得されましたが、子役や未成年への対応はやはり日本と大きな違いがありますか?
そうですね、『怪物』にも子役のインティマシーシーンはありませんが、まずアメリカでは子どもに性的なシーンを演じさせることはルール上できません。
なぜかというと子どもは同意ができないと考えられているからです。日本でも保護者のサインが求められますが、アメリカでは成人になって初めて同意ができるので、未成年の性的なシーンを撮影することはできません。
それは今の日本では考えられないほど厳しいですね。そこまで違いがあると、日本の撮影現場でインティマシーコーディネーターとして参加されていて苦労されたこともあるのではないでしょうか?
先ほど申し上げたようにアメリカにはSAG-AFTRAのルールがあり、それを守らないとペナルティが科されます。でも日本にはそういったルールがないので、すべてお願いベースなんです。
なので、もちろん先ほどの3つのルールが破られないように徹底はしていますが、もし仮に破られてしまってもなにも罰することはできません。
あとはインティマシーシーンに関することだけでなく、アメリカは映画が産業のひとつとしてしっかり成り立っているのに対し、日本の映像業界はすごく貧乏で、そうなると労働環境に無理が生じるケースもあるという点も気になっています。
本当に皆さん長時間労働で休みなく働かれているので、疲弊しているんですよね。そこを変えていかないとクリエイティビティにも影響する部分があるんじゃないかなと感じます。
しかも心にゆとりがなくなってくると、やっぱりハラスメントも起きやすい環境になっていくと思うんですが、そんななかインティマシーシーンにだけルールを設けるということにバランスの悪さを感じます。日本の映像業界の現状は不健康だなと感じますね。
日本の映像業界の労働環境がなかなか改善されないというお話はよく聞きます。そんななかインティマシーシーンのようなセンシティブなシーンを撮影するのは本当に困難もあることなのではないかと察します。
でももしかしたら皆さんが思っているほどは大変じゃないのかなって思うこともあります。もちろん大変ですよ。大変なんですけど、なんだかんだできているし……。
って思ったんですけど、私自身いい作品を作りたいという思いで無理しているところもありますね。本当にいろんな意見を持った人の間に立って、協力し合ってゴールを目指しているので大変だなっていま話していて思いました。慣れって怖いですね(笑)。
現状インティマシーコーディネーターを導入していても、どういう思いで入れているかは作品によって異なります。
「いい作品づくりのために必要」と思って導入を決めたのか、「とりあえず入れとけばいいや」と思って導入したのか。その点でお話しすると、去年くらいから仕事しやすい作品が増えた気がします。
一度一緒にお仕事をした方から「もう一度」とお声がけいただく機会が増えたことが大きいです。やっぱりすでに理解されている方とご一緒するお仕事は困難なことが少ないです。
あとは「インティマシーコーディネーターがいてくれたおかげでいい撮影になった」という評判が広がり、それが次のお仕事につながるケースもやっぱり自分の役割を果たしやすいです。
たしかに同じことを伝えるにしても、すでに理解されている現場とそうでない現場ではやりやすさに違いがありそうです。でもやはり「とりあえず入れておこう」という気持ちであっても導入を決めるというのは改革の一歩になりえるのでしょうか?
なると思います。インティマシーコーディネーターを入れるって、やっぱり大きな第一歩だと思うんです。なかなか理解できなくても必ず学びはあると思います。なぜインティマシーコーディネーターを入れる必要があるのかに気づいて、次に生かしてもらえたらと思います。
インティマシーコーディネーターについての理解が発展途上という現状では、もしかして俳優は導入してほしかったけど制作サイドの判断で導入しなかったというケースもあるのでしょうか?
あると思います。予算が理由のケースもあるのではないでしょうか。限られた予算の中でなにを優先するのかはそれぞれなので、そこでインティマシーシーンへの配慮よりも優先するものがあったんだなと思うこともありますが、日本の映像業界が貧乏なのも事実です。
予算がなくてもご相談いただければ、もしかしたらなにかお手伝いできることもあるかもしれないなとは思いますね。
日本の映像業界というと若手が少ないイメージがあります。年齢で区別するのもナンセンスだとは思いますが、ある程度属性によってインティマシーシーンの見せ方や撮り方に違いが見られることもあるんじゃないかと推測します。どうなんでしょうか?
もちろん見せ方や撮り方は個人のセンスが大きく関わっていると思いますが、それでも年齢によって時代ごとにしみついたものがあるとも思います。それをアップデートしようとする人もいれば、正直そこにあぐらをかく人もいます。そこで大きな差が生まれると思います。
それは業界問わず共通していえそうですね。
そうですね。インティマシーシーンに限らずLGBTQ+への理解についても同じことがいえるんですが、「なんで自分が変わらなきゃいけないんだ」とアップデートしようとしない方はいらっしゃるものなので、なかなか伝え方が難しいです。
「この作品はインティマシーコーディネーターが導入されているから過激」といった認識をしている方をお見かけすることがあります。不躾な質問かもしれませんが、実際にそのお仕事をされている浅田さんとしては、そういった意見についてどう思われているかお聞きしたいです。
ありますねー。インティマシーコーディネーターという職業が知られてきたとはいえ、まだ日本で活動を開始して5年目なんです。5年を長いと捉えるか、短いと捉えるかは人それぞれだと思いますが、いろんなことを言う方はいるものです。
でもまだまだ認知が広まっている最中でもあるので、皆さんにちゃんと知ってもらうためにも、私自身は与えられた仕事を誠実に一つひとつやっていくことが大切だと思っています。
あとはインティマシーコーディネーターを導入した作品がもっと増えれば、そんなふうに特別視されなくなるのかなとも思いますね。
たとえばアクション映画じゃなくても、高いところからジャンプするシーンがあればアクションコーディネーターを導入する作品は多いです。インティマシーコーディネーターについても、今後それくらい自然なものになっていけたらいいですよね。
あとお伝えしたいのは、インティマシーコーディネーターがインティマシーシーンに関するすべてを決められるわけではないです。まず監督のビジョンがあって、あくまでもそれがベースになります。
お答えにくいところまでお話しくださり、ありがとうございます。最後に今後浅田さんがやっていきたいことについてお聞きしたいのですが、先ほど子役のケアに注視しているとおっしゃっていましたよね。
今はインティマシーコーディネーターという立場でインティマシーシーンを担当しているんですが、これまで作品づくりに関わっていくなかで、子どもを虐待するシーンやいじめのシーンによって子役にかかる負荷の大きさに気づいたんです。
やっぱりいい作品づくりをしていきたいですし、だれかが不安に感じたり心配事があったりする状態はお芝居に響くと思うので、今は子役のケアに関心があります。
そのうえで感じるのは、日本はメンタルヘルスケアに関する理解が低いということ。だれもが安全にお芝居ができるように、そして業界そのものが少しずつ変わっていけるように、できるだけお手伝いしていきたいですね。
たしかに海外だとカウンセリングを日常の中に取り入れている方も多く、広く普及していますね。
そうなんです。でもカウンセリングの立場が日本と海外で異なる部分もあるのと、日本人の気質によるところも大きいのかなとは思います。
真面目だったり、ひとりで抱えこんじゃったりする人は傾向として多いですよね。最近「自分の機嫌は自分でとる」といったフレーズをよく聞くようになりましたが、もちろんいい考えだと思う一方で、その言葉がいつか過剰な自責思考につながらなければいいなとも思います。
国民性や文化といったところはそう簡単には変えられないと思いつつ、自分たちが広められること、自分たちができることもあるのかなと思っています。
あとはトリガーワーニングに力を入れていきたいですね。作品の取り扱うテーマや描写に、気分を害す、傷つく可能性がある場合に事前に知らせることなんですけど、それもとても大事だと考えています。
津波のシーンなどはトリガーワーニングが表示される作品が多いですね。
配信の際は、喫煙シーンなどについてもきちんと注意がありますね。やっぱり映画って作って終わりではなく、見る方がいて成立するものなので、だれもが安心して見られるような仕組みづくりに取り組んでいきたいです。
映画を作る人にとっても、見る人にとっても安全な環境をつくる、それが今の目標ですね。
東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。