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中井秀範さんの3回目のインタビューは、日本音楽事業者協会専務理事の立場から現在のIPについてお聞きしました。日本のIPの現状から未来のことまで、忌憚のないご意見は、Sketttとも関係してきます。今の若者たちへのアドバイスもお見逃しなく!
中井秀範/なかいひでのり日本音楽事業者協会
1958年10月22日生まれ。富山県高岡市出身。1981年に吉本興業に入社。笑福亭仁鶴、六代桂文枝、桂文珍、明石家さんま、ダウンタウンらのマネージャーを歴任。心斎橋筋2丁目劇場の創設、吉本新喜劇プロジェクト等にたずさわり、よしもとファンダンゴ代表取締役社長、吉本音楽出版代表取締役などを歴任。2015年に吉本興業を退社し。一般社団法人日本音楽事業者協会専務理事、映像コンテンツ権利処理機構理事に就任。情報経営イノベーション専門職大学超客員教授や関西大学専任講師、大阪・関西万博催事検討会議の委員も務める。
日本音楽事業者協会では、タレントの肖像権や著作権など権利者の環境改善をされていますが、IPについてどう思いますか?
我々の武器って言うと、言葉的にどうなのかわからないですけど、守るべきはIPで、そのタレントのレピュテーション(評判)とかも含めてのIPだと僕は思っていて、肖像とかね、パブリシティ権だけじゃなくて、この人の人気みたいなものも含めてIPだと思っている。それを守って、かつ活用する、というのがやっぱり大事なんだろうなと。例えば、四ツ谷とか新橋に行ったら、スナックとかでね、昔のテレビ番組の歌唱シーンが流れて中森明菜さんのDESIREとか、森高千里さんが出てきたら中高年の大人たちがみんな、わー!とか盛り上がって。それって勝手にYouTubeに上げられていたやつを勝手に上映しているだけで。テーブルの上に「SNS一切禁止」みたいなのが書いてある。でもこれって、SNS禁止って書いているってことは、お店も違法だってわかっているやつだってこと。だったら、そんなドキドキしないで、ちゃんと大手を振ってできるようにこっち側で整備した方がいいんじゃないかと。テレビ局、音事協、レコード会社の3社でちゃんと管理して、1曲いくらってちゃんと取って、それを局にも事務所にもレコード会社にも分配して活用していくことを考えていった方がいい。
今もシティポップブームとかで80年代、90年代の歌謡曲ってすごいんじゃないですか。若い子がめちゃくちゃ盛り上がっている。「君、生まれてないだろう。『わたしの彼は左きき』とか歌っているけど、それ俺が中学生のときだけど。50年前じゃん。君のお母さんすら生まれているかどうかヤバイよ」みたいなね。でもやっぱり盛り上がっている。だったら旧譜の活性化も含めてできたらいいんじゃないかと。そこを単に音事協の専務の名刺を持っていって、これやめろ!って言うんじゃなくてね。一緒に連れて行ってもらったやつに、「中井さん絶対名刺出さないでね」って言われてびっくりしたんだけど、「出さないよ、そんなの」って。だって、あれだけみんな喜んでいるのに水をかける必要もない。
ただ、それは機会損失じゃないですか。正規のライセンスにしたら、ちゃんとみんなにそのお金が戻ってくるのに、その機会を潰しちゃうっていうのは、本望ではない。みたいなことを思っているんです。守るだけじゃなくて活用するっていうのは著作権法の理念でもあります。今の日本の現状には、やっぱり満足してない。
日本のIPは遅れているんですか?
なんていうか、IPの活用という意味では、すごく権利者の判断が大事なんです。例えば韓国って、芸能プロダクションとレコード会社が一体なんですよ。だから、BTSの会社のHYBE(ハイブ)は事務所であり、レコード会社でもある。HYBEからリリースするんですね。韓国以外のグローバルではユニバーサルミュージックが発売するんですけど、韓国国内ではHYBEがレコードを作って売っているんですね。HYBEの社長がOKっていうと、楽曲の権利もアーティストの権利も全部OK。だからすぐ対応できる。吉本興業もそうなんですよ。いろんなところに許諾を取るのが嫌だから、レコード会社を作って、タレントももちろん吉本なんで、吉本内でライツ担当の責任者の僕がOKって言ったら1秒でOKという組織にした。でも、ほとんどが、事務所はOKなんだけどちょっとレコード会社のOKが・・・って。逆もあり、レコード会社はOKなんだけど事務所の方がダメでしたみたいな事をしているうちに、ピューンって韓国のK-POPがすり抜けてずいぶん向こうまで行ってしまった。背中見えるうちに追いつかなきゃていうのがあるんですよね。だから、そのIPの活用の仕方とか割り切り方みたいなものってすごいんですよ。ネットでバンバン動画出していくとかね。
一番違うのは、ファンダムの作り方。ファンダムって、いわゆるファンの塊のことで、キングダムのダムでファンダム。これがアーティストを支えているんですよ。Weverse(ウィバース)っていうタレントとかアーティストに特化したSNSがあるんですが、BTSのウィバースだとBTSのファンだけがいて、そこでは映像も見られるし、お互いにチャットもできる。コミュニケーション機能が全部備わっていて、そこに定期的にアーティストが入ってくるんですよ。そこで、アメリカのファンたちに、「今度リリースするから応援してね」みたいなことを言うと、アメリカのファンたちは、どうやったらBTSのアルバムがアメリカで売れるかと、みんな真剣に考える。やっぱりアメリカはラジオでかからないとダメだと。じゃあ、どうやってかけてもらおうみたいなことを、一生懸命やるんですよ。全員がマネージャーみたいなことですね。全員がスタッフなんですよ。いわばDAO的な組織とも言える。そのくらいのことをやっているんですね。
日本はどうしても伝統的にアーティストとファンをダイレクトで繋がらせるのを嫌がるんですよね。吉本興業は平気ですけど、やっぱりアイドルとかっていうと、ちょっと雲の上の人にしておかないといけないっていうのがあるでしょうし。あんまり物言うと叩かれたりとかするから、滅多なことを言わないようにするっていうのもあるんでしょうけど。日本は、なかなかそこで強固なファンダムが形成できない。いまだに日本のファンクラブって、基本的にはファンクラブに入っていると、一般の方より先にチケットの抽選に参加できるみたいなことなんですよね。そのためだけにファンクラブに入っている。そうなるとなにが起こるかっていうと、ちょっとでも当選確率を上げたいんで、友達とか家族の名前を使って複数のアカウントを取るんです。それって本当のファンクラブなの?って。もちろん、ファンクラブナンバー1番の人と35,000番の人と全くイコールですからね。1番の人が当たる確率高いのかっていうと、そうじゃないんです。日本のファンは大人しいなというのもあるし、ファンの方のパワーとか熱をうまく伝えきれてないというか、使い切れてないというかっていう気もします。
日本の国民性もありますし、韓国とは事情が一緒ではないんで、一概に韓国のマネをしろとも言わない。けれど、もうちょっといろいろ考えるべきことがあるんじゃないかと。CDが売れなくなってきているし、もちろんサブスクは普及してきていますけど、アーティストにとってはそんなに大きな収入にならないんですね。そうなると、やっぱりライブとかグッズとか、あとは面的に広げて東アジア、東南アジアに出て熱狂的なファンをオーガナイズして支える、ベーシックなものを作るというようなことをしていかないとミュージシャンは食っていけないなっていうのもあるんで。そこをどうすればいいのかが、一番頭悩ましているところです。
日本にはアニメーションとか漫画とか素晴らしいIPがいっぱいありますがどう考えていますか?
多分、政府も力を入れてらっしゃると思うんですよ。クールジャパンというと、アニメとゲームが出てくるんで。たまたま大ヒットしたアニメの主題歌がまたヒットしたりとかって、たまたまじゃダメだと思っている。ちゃんと戦略的に出していかないといけないんだろうなと思うんですよね。だから、アニメも意外に海外でも受けちゃったよ、みたいなのではダメ。最初からちゃんと、ヨーロッパでもアメリカでも受けるように作らなきゃいけないだろうしっていうところはありますよね。
とはいえ、アニメだって、中国とかものすごく超速の進歩というか制作費も高いし、そもそも見ている人の数も違うし。いずれ日本のアニメスタジオが中国の会社に買われちゃったりね。でも、あっちの方が、労働条件が全然いいから移っちゃったり。だから、そこは政府が言っているクリエイターへの利益還元みたいなことはちゃんとしないと。
うちの娘がよく言うんですけど、好きな作業をやっていると、別に給料安くても頑張る!みたいなのはもうダメなんじゃないかって。我々の業界もそういうところありましたからね。助監督って食えないけど、いつかは映画撮りたいから、監督になりたいから、バイト以下の賃金でも頑張ろうみたいな。それってどう?って話。そこも考えていかないとね。労働問題も考えていかないと。
マネージャーって24時間勤務なんです。夜の10時半以降にタレントに電話するなとか言っているみたいですけど。僕が若い頃は、海外旅行行くか病気にならないと休めなかった。当時は携帯電話なかったんで、海外行っちゃったらねっていうのはありましたけど。
そこは僕の口からないとは言えないですね。ないとは言えないんですけど、ひとつは特にテレビなんかは本当イメージ戦略じゃないですか。15秒でその製品のよさとか詳しいスペックとかそのまま伝えられるわけではないんで。商品に対して注意を引きつけたり、好感を持ってもらうとかっていう役割ですよね。これは開発者のおじさんが出てきて、15秒スポットでこれすごいんですよ!って言ったところで、この人、誰やねん!って。でも、小栗旬が出てきていいじゃん!って言うと、いいのかなって説得力があるんですよね。やっぱり好感度と注意を引きつける説得力みたいなものが、タレントには備わっていると思うんですよ。それ以上でもそれ以下でもない。
Sketttの事業に関してどう思われますか?
地方の会社をやっていて広告だしたいなと思っても、そもそもどこに頼んだらいいかわかんないっていうのが今までの現状でしょ。大きな会社で、ちゃんと電通などの代理店の担当者が張りついているような会社だと全然いいんですけど、それこそ「電通?なにそれ?」みたいな中小の会社が全国にいっぱいあって、日本の9割以上が中小企業でしょ?そんなときに、とてもいい商品ができたから広告を打ちたいな、できれば社運かけているからタレントを使ってみたいなときにどこに行くの?地方の代理店に行ったところで、東京とか大阪の事務所にルートがあるわけでもないし。
こういうときに、Sketttはすごいよね。よくつけたなと思って、ネーミングをね。そういう存在意義はすごくあるなと思っている。HPには見たことある人がいっぱい並んでいる。ひとつはタレントさんの数が多いっていうところ。有名な人が10人ぐらい並んでいたとしたら、それはそれでいいんですけど、選択肢が10しかないってことじゃないですか。10人みんなすごい人なんだけど、違う!こういう人じゃないんだよっていうときにちゃんと選択肢がある。何百とあると、「実はこの人、昔から好きなんだよね」とか、「この商品にぴったりなのはこの人なんだよね」っていうのが選べる。お客様の選択肢が多ければ多いほどいいに決まっているので、そこは言葉が悪いかもですけど、数で勝負しないと。
タレントの選ばれ方は今後変わってくると思いますか?
あのね、これはクライアント側の事情とかもあって、昔は宣伝部みたいなのが一個あって、そこの宣伝部の部長さん以下スタッフが会社全体の宣伝を取り仕切るわけですよ。だから、このプロダクトは綾瀬はるかさんにやってもらったけど、こっちのプロダクトはじゃあ石原さとみさんにやってもらおうとか、みたいなことをやっていたんですけど、今はどっちかっていうとプロダクトマネージャーみたいな人たちが、どうやってマーケティング費用を出していくのかみたいなことになると、どうしても手堅くなってしまう。
ミスっちゃ嫌だから思い切った抜擢とかってあんまりないんですよ。だから、同じような人ばっかり。この人何本CM出ているのって人ばっかりじゃないですか。でも、まあ選ぶときも広告代理店の総研リサーチで、この商品はM1向けだからM1に好感度があって人気のあるのはこの人ですよ!みたいなのを出してきて、じゃあその中から選びましょうかっていう選び方なんで。あんまりバリエーションが広がらないっていうかね、これ多分そのうちダメになると思います。差別化できないっていうか、同じ人ばっかりがいろんなコマーシャルやっていると頭に残らないんですよ。それじゃあ高い金出して契約したかいがあるのか、みたいな話もあるし。そういう意味では、こんな人使うの?っていう方が、本当はインパクトあったりするんですよね。芸人さんとかよくそういう使い方しますよね。チョコレートプラネットとかいい使い方をされていて、それ当たったらみんなまたマネするでしょ。またチョコプラばっかりになってね。追っかけるのも2匹目くらいしかドジョウはいない。せいぜい3匹目くらいで。それ以上追っかけてどうすんだよと思うけど、やっぱり失敗したらイヤだからチョコプラいいねって言うと、みんなチョコプラ、チョコプラって。追いかけすぎたほうが大事になると思うんですけどね。長田に歌を歌わせて面白かったら、他のシーンもまた歌を歌わせてって。吉本は儲かるからいいけど。
ちゃんとした訴求力っていうのは、クリエイティブディレクターの腕だと思うんです。ちょっと信じられないようなコマーシャルもやっぱりある。これ本当にいいと思って作っているの?みたいなね。コマーシャルとかわかんない、商品の訴求をしていないみたいなのもありますからね。そういう意味で、黒字減らして税金払うよりもコマーシャルやっといた方がいいんだよ、社名だけ頭に残りゃいいからってことならまあいいんですけど。本気で物を売ろうとか、マーケティングしようと思ったときに、じゃあ今のCMでいいんですか?と問われると思いますね。
Sketttへのアドバイスはありますか?
とにかく多様性が大事。もっと協力者を増やしていくこと、それと一発でも二発でもいいから、どんハマりして、めちゃくちゃ売り上げが伸びましたよ!っていう事例を一個二個と積み上げること。うちもできるかもしれないという実績が全ての世界なので。結果が出てないと受注につながらない。無理でも結果出しにいくことをやるのと、お客様への選択肢をできるだけ広げる、ということですね。
いろんなお仕事をされてる中で、大学教授とか講師がありますが、今の若者に伝えたいことって何ですか?
本当に伝えたいことは、君たちの未来は可能性に満ちているからとりあえず焦らずに!ってこと。例えば、就職してから起業した方がよかったりもする人もいるし、いきなり人の下で働きたくないから起業したいっていう人もいるし。生き方自体がすごく多様性を求められている時代なので。僕らの頃は、今から42、43年前だと、やっぱり銀行、商社、損保が人気業種で、あとはテレビ局とか。ここに入っちゃえば生涯安心、一生安泰みたいな。それがどうですか?都市銀行が潰れちゃって、メガバンクがどんどん減って、商社は頑張っていますけど、テレビ局もフジテレビが100人近い50代を早期退職勧告したり・・・。今絶好調だからって、自分が引退する頃まで絶好調なわけがないんですよ。会社の寿命として、吉本興業が100年続いているっていうのは、稀有な例ですよ。100年企業って、やっぱりそれなりのことがあるんですよね。今はまだそんな花形企業じゃないけど、ここ面白そうだなって、選ぶのもよし!自分でやってみるのもよし!いろんな可能性があるので、あんまり慌てないでほしい。もちろん家庭の事情とかもあるので、そんな悠長に遊んでいられないという人はいると思うんですけど、それならとりあえずは就職しといて、あとで頑張ればいいかなと。
僕、一番感動したというか、座右の銘でもないですけど、ずっと心に留めている言葉があるんです。北山修さんっていうね、昔ザ・フォーク・クルセダースという人気のフォークグループがあったんですよ。加藤和彦さん、北山修さん、はしだのりひこさんらが一世を風靡した。その北山修さんという方が、作詞家で、かつお医者さんで、九州大学の教授もやってらっしゃったんだけど、朝日新聞でコラムを持っていたときに、「僕は自分の表現活動としてフォークソングがいいと思ってフォークをやったけど、今青年やったら吉本興業に入っているな」っておっしゃって、「二足のわらじをはけないような世の中は、僕はあかん世の中だと思う」って書いてあったんですよ。それを見て、吉本興業をやめて頑張ろうと思って。吉本やめようっていうのもあんまり大学と結びついてはいないんですけど、今の自分に結びつけると、音事協の仕事もちゃんとやって、芸能界のために働きます。で、この業界にちょっとでも興味持ってもらうために、大学の先生もやります。で、その大阪万博も大阪の最後のチャンスだと思って頑張りますよ。三足ぐらいのわらじをはかせてもらって、スタートアップの子たちと一緒にああでもない、こうでもないって、自分の子供より若い子たちと一緒にやっているっていうのは非常に楽しいですよ。
大阪万博催事検討会議の委員もやられていますが?
一般の方が、万博でやりたいイベントややりたいことを、テレビ局とか新聞社とか、芸能プロダクションとか、いろんなところに手伝ってもらって、万博を盛り上げてもらおうとしています。イベントの選考基準を満たしているのか、どんなイベントをやってもらうべきなのかとか、そういった基準を作ったり、審査をしたりっていうのが会議のテーマなんです。いざ入ってみたら、まだいろいろ決まってなくて、大丈夫かいなって。今、大慌てでやっているところです。とにかく大変だけど、楽しくやってます(笑)。
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