東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。
金井球さんという人物をご存じでしょうか。講談社が主催するオーディションプロジェクト「ミスiD2022」のグランプリを受賞し、今年2024年に満を持して芸能プロダクションMIXUSに所属こそしたものの、それより以前にトークイベントを開催したり、元アイドルユニット「むくわれるう」のリンチこと園凜(配信開始時は「凜」)さんとラジオ「知らねえ単語」を配信したり、その活動は多岐にわたります。
あまりのマルチタレントっぷりに「金井球」と検索すると「何者」とサジェスト表示されるほど。今回はインタビューを通じてそんな彼女の魅力を解きながら、芸名の由来や「知らねえ単語」結成のきっかけ、自身が「異常に好きかもしれない」と気づいた意外な“フェチ”などを知ることができました。
個人的に「知らねえ単語」のファンなので、その結成のきっかけからお伺いしてもよろしいですか?
ありがとうございます。凜ちゃんとの出会いはX(当時はTwitter)だったんですよ。
3,4年くらい前、私はすでに「金井球」として、凜ちゃんは「むくわれるう」っていう2人組アイドルの「リンチ」として活動していて、かわいいからフォローしたら向こうもしてくれて、そのうちDMで話すようになって仲良くなりました。
初めて実際に会ったのはそれから1,2年くらい経ってからで、以来よく遊んでいるんですけど、ある日2人で下北沢で遊んでいたんですよ。下北沢って最近再開発でどんどん変わっていっているじゃないですか。
もちろんそれもいいんですけど、正直ちょっと“しゃらくさい”と思っているところもあって(笑)、でも私は基本悪口は言わない、言えないタイプなのでとくに触れていなかったのに、凜ちゃんがスパスパ斬っていくんです。
私が思っていたことをはっきり言葉にしてくれて「言語化うまいね〜」なんて言ったら「大学行ってるんで」って返されたのがすごくかっこよくて「もしかして私たちおもしろすぎるんじゃないか?」と思いました。
2人で話すだけにとどめておくのはもったいない、対外的に発信していったほうが世界のためになるんじゃないかと思って「ラジオやろう」って声をかけたんです(笑)。
でもそのとき凜ちゃんはもうアイドルを辞めていて、彼女からすると私のほうがSNSのフォロワー数も多くて……、なんというか「おそれおおい」みたいなことを思ってくれていたらしくて最初は断られてしまい、めげずにもう一度誘ってOKをもらいました。
だからただ友だち同士で話しているだけのラジオなんですよね(笑)。
おふたりが楽しんで話している様子が「知らねえ単語」の最大の魅力だと思っています(笑)。もともとお話しすることは好きだったんですか?
人前に出るのは好きなんですけど、実家にいたころは「しゃべるのが下手」って言われていましたね。自分の気持ちを言葉にするのが下手くそで、でもSNSで発信しはじめたり、それこそラジオを始めてからは結構うまくなったと思います。
今も悪口だけは人に言わせて「わかる、わかる」ってうなずくだけっていう一番たちの悪いタイプなんですけど(笑)。
今のこのインタビュー中もそうなんですが、ラジオでもSNSでもすごく自然体だなと感じます。そう意識しながら自己発信されているのでしょうか?
言葉を選ばずにお伝えすると「しゃらくさい」と思われたくないんですよ(笑)。なのでありのまま、本当に思ったことを思ったまま言っています。
あまり緊張されることもないですか?
緊張はあんまりしないですね、最近はとくに。トークイベントのときとかはしているかもしれないです。
おとなしい子だったんですけど、もともと人前で話したり、みんなから注目を集めたりすることが好きで、小4のときに国語の教科書に載っている小説を丸々覚えて「ちょっといいですか?」って教卓の前で暗唱したことがあったんですけど、気持ちよかったですね(笑)。
すごい!それは計画的に「前に出て発表しよう」と思って覚えたんですか?
好きな作品だったから覚えちゃったんですけど、ちょっと目立ちたいという気持ちで自分から手を挙げて前に出ました(笑)。
「目立ちたい」という気持ちって本当はそう思っていても隠したがる人も多いと思います。そういうの全部出しちゃえるの素敵です。
隠していてバレるのが一番“シャバい”と思っているんです(笑)。隠したいことこそオープンにしたいというか。
先ほどから「しゃらくさい」や「シャバい」など、選ぶ言葉にもセンスがあふれています(笑)。
あっ(笑)。綺麗な言葉に変換するとどうなるんだろう……。「かっこつけていると思われたくない」ですね!
ありがとうございます(笑)!「かっこつけたい」と思っている自我に気づいていない方も少なくないと思うので、知っているうえであえて表出させるというのはすごく自分のことをわかっていらっしゃるんだなと感じます。
「かっこつけていると思われたくない」っていうかっこつけをやってはいるんですけど、そこはまだ世間にバレていないみたいなんですよね。
以前「知らねえ単語」の企画で、リスナーの方々から私と凜ちゃんに対する偏見を募集したんですけど、見事にアホちゃんだと思われている内容ばっかりで、それもそれで驚いたんですけど、ブランディングがうまくいっていて、かっこつけていないって思われているのかもしれないなって思いました。
もちろんその偏見の回も拝聴したんですけど、積極的にファンとコミュニケーションを取られていますよね。その距離感も意識されているのでしょうか?
私たち2人ともラジオが好きなんですけど、ラジオパーソナリティーとリスナーって物理的な距離は遠くても精神的な距離が近いイメージがあって、それに憧れているんです。
気軽に「お前〜!」「お前ら〜!」って言えてしまう関係というか。なので実際にそういうことを言ったり、メールも募集したりして積極的に距離を詰めてはいますね。
でも金井球としては、適度に昔の恋の話をしてふるいにかけているというか……うーん、狙ってやっているというより自然と恋バナが出ちゃうだけなんですけど(笑)、正直ちょっと「怖いかも?」と思ってしまうような距離の詰め方をするファンの方もいて、そういう方は恋バナによって離れていきましたね……。そんな話をしても残ってくれている今のファンたちは最高です!
熱狂的なファンの行動がエスカレートすることなくてよかったです……。金井さんが積極的に距離を縮めようとしているなか、思いが募りすぎて境界線をあいまいにしてしまう人が現れてしまっては、望むとおりの活動ができなくなってしまいますもんね。
以前DMでマイナスな発言を送ってくる人もいて、「自分も落ち込んでいるときにそういうのを見てしまうと本当にへこんでしまうのでやめてください」って返したら、それ以来こなくなりました。
周りを見ていると私はまだ苦労していないほうだと思います。私の場合はこちらが意思表示することで相手に伝わることも多いし、本当にファンとの関係性で悩んでいる人も多いので……。
ふるいにかけるという戦略もあって、本当に金井さんがおっしゃるように素晴らしい人間性の方々が集まっているんですね。
ものづくり専用のXアカウントもありますが、やはり手を動かすことはお好きなんですか?
好きです!高校はデザインの学校を選んだんですけど、そこでも毎日遅くまで制作していました。でも「がんばって作るぞ!」というタイプじゃないから、あのアカウントも楽しい範囲でしか載せられていないんですけど。
ずっといろんなことに興味があって、なにかを作るのも好きだし、自分のことをするのも好きだし、いろんなものを見て「お〜!」って感動する瞬間も好きだし、どれを一番がんばったらいいんだろうってずっと思っています。
最近はそれで「金井球をがんばるぞ」って決めて、これをメインにすることにしました。まだ「金井球って結局女優なの?なんなの?」みたいなところで、どう分岐するかは決められていないんですけど。
そういう思いで今年の5月にプロダクションに所属されたのでしょうか?
そうですね、おばあちゃんになっても金井球としてやっていけたらいいなと思ったんです。今のままだと5年以内にアカウントを消しかねなかったので(笑)。
仕事として金井球をやるっていうのが、一番金井球の命を延ばす方法として正しいと思ったんです。そのタイミングで奥原さん(現マネージャー)から事務所に入らないかとお誘いいただいたので「はい!」って言って入りました(笑)。
いい方向に進むときってそういうふうにすべてのタイミングが合致することありますよね。先ほどから奥原さんとの関係性がとても素敵だなって思っていました(インタビュー時同席されていました)。出会いはもともとイベントでしたよね?
そうです。事務所がもともとイベント運営も行う会社なので、私がイベントを開催するときに担当してくれて、そのうち気づいたら“マイメン”になっていました。
もしかしたら奥原さんに出会っていなかったら芸能事務所に入っていなかったかもしれません。それまでは事務所に入ったら、一番に優先させたい「自分が今までやってきたこと」、「自分がこれからやりたいこと」が制限されるんじゃないかって思っていたんです。
でも「金井ちゃんは金井ちゃんのまま、今までどおりやっていったらいいんだよ!」って言ってくれて「それをサポートさせてほしい」と背中を押してくれたので「お母さ〜ん!」って甘える感覚で入りました。なので奥原さんは、私が金井球になってからのお母さんなんです。
いろんな方向に目が向いているので頭の中が毎日忙しそうです。インプットとアウトプットのバランスはどうやって整えていますか?
自分でも気になります(笑)。なんでも「よいしょ」って動かないとできないので、「やるぞ!」って決めた日にたまっているものを全部やるっていう感じです。
今抱えているのは、「知らねえ単語」の公開収録、大阪でのイベント(どちらも詳細は後述)の詳細を固めたり、告知の画像、フライヤー、グッズを作るっていう……。常に考えながら生活しています。
インプットはどうしているんだろう……?映画は好きなんですけど、結構同じ作品を繰り返し見ちゃうタイプなんですよね。
どんな作品が好きですか?
『コララインとボタンの魔女 3D』っていうストップモーションアニメが小さいころから好きで、めちゃめちゃおもしろいから見てほしいです。
『ナイトメアー・ビフォア・クリスマス』のヘンリー・セリック監督作品ですね!未鑑賞だったので見てみます。どういうところに惹かれたんですか?
粘土細工をするのが好きでクレイアニメも好きっていうのが前提としてあるんですが、とにかく全部かわいいです。
あとなんか今思ったんですけど、元の世界があってそのコピーが存在する世界観が好きなんですよね。偽物……模倣したものが好きというか。元ネタのアニメを知らないのに二次創作を見るのが好きだったり。
たとえばポケモンにくわしくないんですけど、ニャオハとホゲータ、クワッスが初登場したときに、ファンの方々がSNS上にそれぞれの進化した姿を予想してイラストを投稿していて、一日中見ていました。何フェチっていうんですかね、これは(笑)?
並行世界が好きってことですかね?
並行世界!ゲームの世界でも主人公に似たキャラクターが動いているのを見ると「最高!」って思っちゃいます。
おもしろいですね。本物がいないかぎり成り立たない存在なので、一種の入れ子構造というかメタ構造的でもあり、二重にフィクションを楽しんでいるという感じなんでしょうか。金井さんの真髄を垣間見たような気がします。
これ、今日の気づきです。何フェチなのか調べておきます。
私も調べてみます。(後日談:それらしい言葉が見つからなかったので、読者の中にくわしい方がいらっしゃれば教えてください……)
もしまだ名前がついていなかったら私がつけてもいいってことですかね?「金井球シンドローム」にしようかな(笑)。
なにをしているときが一番楽しいですか?
うーん、ちょっと答えがずれちゃうかもしれないんですが「こういう1日が一番楽しい」と感じるのは、「なんとなく外に出かけてみたら次々に『あ、ちょうどいい時間にやりたいことに出くわした!』」みたいな状況ですね。
こないだ原宿で用事を済ませたあと、「このあとどうしようかな」って思いながらSNSを見ていたら、その日が千秋楽の演劇の舞台について友だちがつぶやいていて、もともとその作品を知っていたわけではないんですけど、時間がちょうどよくて「ちょっと行ってみるかー」って急に下北沢まで見に行ったの楽しかったです。
すごい行動力です。「行っちゃえ!」みたいな感じですか?
そうです「行っちゃえ!」みたいな感じで、映画とかもその場のノリで「メガネ忘れちゃったけどいっか!」って見に行っちゃいます。そういう自分の行動力を感じる瞬間がすごく楽しいんですよね。
その日も下北沢で演劇を見終えて出てきたら、ちょうど阿波おどりのイベントが始まっていて「私が来たから〜?」って思いました(笑)。それでそのまま参加して気づいたら20時くらいになっていましたね。
お友だちと遊ぶときもあまり最初に予定は立てないですか?
そうですね、予定を立てるのが苦手なんです。急に誘われて行くほうが得意というか、うれしいんですよね。友だちもみんなそれをわかってくれているから、急に「もしもし、今◯◯にいるんだけど来る?」みたいな感じで誘ってくれます。
もしかして弾丸で一人旅もできちゃいますか?
できそうな気はしているんですけど、まだやったことはないです。“できたい”ですね(笑)。アメリカとか……パスポートを持っていないので、まずそこから。
これからどんどんテリトリーも視野も広がりそうですね。
ミスiD2022グランプリを受賞されましたが、実は3年連続で受けていらっしゃるんですよね。同じコンテストに続けて応募されたのはやはりミスiDに対してこだわりがあったからでしょうか?
もともとミスiDは「うっすら好き」くらいの感じだったんですけど、ミスiD2019に出場されていた方の中に心臓がえぐられるくらいめちゃくちゃかわいい子がいて、その子に会いたくてイベントに行ったんです。
それで入り口付近でうろうろしていたら、出場者の方に「ここが出場者の入り口で合っていますか?」って聞かれたので、「えっ私ってミスiDを受けていてもおかしくないってこと?」って思って受けはじめました。
1回目は書類で落ちちゃって、2回目はセミファイナルまで行って、「じゃあ次はファイナリストになれるかも」と思ってもう1回受けたらグランプリ受賞できて「やったー!」って感じでした。
ファイナリストになってなにかしらの賞をいただけたら、選考委員の方から選評をいただけるんです。それが欲しくて何度も受けたんです。自分がどのようにいいのか知りたくて(笑)。
当時パーカーにデニム、スニーカーという「普段着」といった装いでグランプリ受賞されていたので驚きました。
なにかしらの賞はいただけるかもしれないと思いつつ、まさかグランプリとは思っていなかったので油断していました(笑)。あと当時「こういう場にも普段着で来る私」が気負っていない感じがしてかっこいいと思っていたんですよね。
先ほどのお話につながりますが、やっぱり「かっこつけていると思われたくない」というかっこつけをやっているわけです(笑)。
事務所に所属された際のメッセージの中で「何がしたいのかわからない人の中で1番ビッグになれるよう、がんばっていきます」と書かれていたのが印象的でした。
金井さんと同世代の方から「社会生活を送るうえで自分の道筋を決めなきゃいけなくて焦る」というお声を聞く機会が多々あり、そんななか真逆を目指しているのがかっこいいなと思ったんですが、もともと考えていたことなのでしょうか?
そうですね、もともと考えていたと思います。飄々としている人がかっこいいと感じているんです、たとえばリリー・フランキーさんのような。
それで一昨年の時点で「何がしたいのかわからない人の中で1番ビッグになりたい」って投稿しているんですよね。
何がしたいのかわからない人の中で1番ビッグになりたい
— 金井球 (@tiyk_tbr) May 22, 2022
焦ることはないですか?
正直たまに「私ってどうしたらいいんだろう?」って焦ることもあります。でも友だちに相談すると「でもずっと金井球をやっているじゃん」「なにをしていても金井球っぽいことはしているよ」って言ってもらえるので「じゃあいいのか」と。
本名から「金井球」に変わるときにスイッチが入る感じですか?
なんかアバターみたいな感覚かもしれないです。「自分」と「バージョンアップした自分」みたいな。……さっきの話とつながった!やばいですね(笑)!
綺麗な伏線回収!ちなみに「金井球」というお名前はどうやって決めたんですか?
あまり覚えていないんですけど、9月生まれっていうのと、「きゅう」っていう響きがなんだか動物の鳴き声みたいでかわいいなって思ったのと、あとお笑い芸人のキュウさんが好きっていうのと……。
最初はひらがなで「きゅう」って書いていたんですけど、漢字を当ててみようと思ったときに「球」が浮かんで、地球が好きなので「いいじゃん!」と決めました。
でもちょっと寂しいなということで「金井」をつけたらバランスもよくて「こんなにいい名前はない」という精神で今活動しています。
最初から本名で活動する予定はなかったんですか?
中学生くらいのときに本名でアイドル活動をしていて、そのときの私と今の私をつなげたくないっていうのと、母もクリエイティブな活動をしているんですけど、仲はいいんですが芸風が私とは全然違うのでビジネス上は切り離しておきたいという理由で芸名で活動しています。
だからミスiDグランプリを受賞したときは、もしかしたらそういう個人情報が特定されるんじゃないかと焦りました。意外と大丈夫だったので安心しましたね(笑)。
今後も安心して活動を続けられますね!これから新たにやっていきたいことなどはありますか?
やっぱり「知らねえ単語」をもっと大きな存在にしていくっていうのと、金井球として書き物をもっとちゃんとやっていきたいです。「ちゃんとやっていきたいならもっとたくさん書いたほうがいいよ」ってアドバイスをいただくこともあるんですけど、本当にいっぱい書いて文筆家になりたいです。
金井さんのnoteを拝読していますが、文章から受ける雰囲気が好きなのでぜひがんばってほしいです。
ありがとうございます。私も「もっと書くぞ!」って思っているんですけど、書こうと思うとなかなか書けないんですよね……。でもがんばります(笑)。
(最後に、弊社オフィス内で初めてセグウェイに乗ってはしゃぐ姿がキュートすぎる金井さんをご覧ください。すぐに乗りこなして「意外となんでもできるんです」と笑顔を見せてくれました)
東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。