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「地図に著作権があるのか知りたい」「地図を利用することで著作権侵害になったケースや事例を教えてほしい」と考えている方もいるのではないでしょうか。
地図は著作物として保護されており、無断で使用すると著作権侵害になる可能性があります。とくにWebサイトや印刷物に地図を使用する際には、注意が必要です。
本記事では、地図の著作権に関する基本的な考え方や、どのような行為が著作権侵害に該当するのかについて詳しく解説します。さらに地図の利用が著作権侵害にならないケースや、実際の著作権侵害の事例も紹介します。
本記事を読むことで、著作権を侵害せずに地図を利用する知識を身につけられるでしょう。
地図は著作権によって保護されており、無断で使用すると著作権侵害に該当します。
地図は客観的な情報を表現しているため、創作性が少ないと考えられることが多いです。しかし、実際には情報の選択や表示方法に作成者の独自性や経験が反映されています。そのため地図にも創作性が認められ、著作物として保護されるのです。
たとえば、オンライン地図や紙の地図を無断でコピーし、Webサイトにアップロードしたり、チラシに貼りつけて配布したりする行為は著作権侵害となります。
過去の判例でも、地図の情報選択と配置の創作性が認められ、著作物としての保護が確認されています。地図を利用する際には、著作権法にもとづく適切な手続きを取ることが不可欠です。
参照:大阪弁護士法人苗村法律事務所「住宅地図の著作物性を認めた裁判例 -東京地裁令和4年5月27日判決(ゼンリン住宅地図事件)-(2023年1月6日)」
参照:e-Gov 法令検索「著作権法」
なお、著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
地図の著作権侵害が発生する具体的なケースは、主に以下の3つです。
地図を無断でコピーし、印刷物やWebサイトに転載することは、著作権者の複製権を侵害する行為です。
著作権法第二十一条の複製権は、著作権者がその著作物を再生産する権利であり、この権利を侵害すると法的な制裁を受ける可能性があります。
たとえば、Web上の地図画像を無断でチラシに使用することや、出版物に転載することは避けましょう。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
地図をトレースしたり加工したりして再配布することは、著作権法に定められた同一性保持権を侵害する行為です。
著作権法第二十条の同一性保持権は、著作物の内容や形式を改変せず、維持することを著作権者が要求できる権利です。
たとえば、住宅地図をコピーして切り貼りし、ポスティングチラシ用に再利用する行為も、法的な責任を問われる可能性があるでしょう。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
地図を無断で印刷物やWebサイトに掲載することは、著作権法の公衆送信権の侵害に該当します。
著作権法第二十三条の公衆送信権は、著作物をインターネットなどを通じて公衆に送信する権利です。著作権者は、自分の著作物がどのように使用されるかを管理する権利を専有しており、第三者による無断使用は権利侵害となります。
たとえば、Googleマップのスクリーンショットを無許可で印刷広告やWebサイトなどに使用することが該当します。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
地図の利用が著作権侵害にならないケースは、以下の5つです。
地図サービスが提供するガイドラインを遵守することで、著作権侵害を避けられるでしょう。
多くの地図サービスは、利用規約やガイドラインを公開しており、商用利用や印刷物などの使用に関する具体的な許容範囲を規定しています。
商用利用やWebサイトへの掲載を考える際は、地図サービスのガイドラインに従うことで、著作権を侵害せずに地図を利用できるでしょう。
ガイドラインが公開されていない場合も、著作権者から直接許可をとることで、著作権を侵害せずに地図を使用できます。
地図提供元の公式サイトやサポート窓口を通じて連絡し、使用目的や範囲を明確にして許可をとりましょう。
以下の詳細を具体的に説明するとトラブルを避けやすいです。
許可をとる際には、地図の利用に関するあらゆる条件を明確にし、双方の誤解を避けることが重要です。
個人的な目的や家庭内のみでの共有など限られた使用の場合、地図の複製は著作権侵害にはなりません。たとえば家族旅行のために自宅で地図を印刷し、旅行の計画に利用することは合法です。
私的使用は非営利目的であり、第三者に公開しない場合に限り、著作権法の保護対象外となります。ただし、私的使用の範囲を超える利用は、著作権者の許可が必要となるので注意しましょう。
たとえば地図を印刷して販売する場合は、私的使用の範囲を超えていると判断されます。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
著作権フリーの地図を使用することで、著作権侵害をせず利用できます。著作権フリーとは、著作権が生じていない状態のことです。パブリックドメインともいいます。
パブリックドメインは、著作権の保護期間が終了した、または著作者が権利を放棄したことで保護の対象外となった状態です。
著作権は、原則として著作者の死後70年で消滅します。非常に古い地図は著作権の保護期間を過ぎていることが多く、自由に利用できるでしょう。
ただし、著作権フリーの地図は、最新の情報が反映されていない場合があるため、使用する際に注意が必要です。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
なお、パブリックドメインについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ロイヤリティフリーの地図を利用することで、著作権を心配せずに地図を使用できます。
ロイヤリティフリーは、著作権は放棄していないものの、規約範囲内なら使える状態です。代表的な著作権に関する表示として、クリエイティブ・コモンズ・ライセンスがあります。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンスは、著作権者が作品を他者に利用される際の条件を設定するための仕組みです。利用者はクレジット表示などの条件を守れば、地図を自由に使用できます。
たとえば、OpenStreetMap(OSM)は、誰でも自由に利用できる地図データです。地図データを使用する際に、「©OpenStreetMap contributors」といったクレジットを表示させれば商用利用もできます。
参照:OpenStreetMap Japan「OSM利用入門」
代表的な4つの地図サービスのガイドラインを解説します。
サービス名 | ガイドラインの概要 | 商用利用 | 印刷物の商用利用 | Webサイトの商用利用 |
---|---|---|---|---|
Googleマップ | 個人利用に限られ、商用利用や印刷物での使用には許可が必要 | 許可が必要 | 許可が必要 | API利用規約に従う |
Yahoo!マップ | 個人利用に限られ、商用利用や印刷物での使用には許可が必要 | 許可が必要 | 利用不可 | 埋め込み以外は許可が必要 |
ゼンリン地図 | 商用利用や印刷物への使用には詳細な規約があり、許可が必要 | 許可が必要 | 許可が必要 | 利用規約に従う |
地理院地図 | 公共利用は比較的自由だが、商用利用や加工・改変には許可が必要 | 許可が必要 | 許可が必要 | 公共利用は出典明示 |
Googleマップの利用規約においては、商用利用や特定の印刷物への使用には許可が必要です。
具体的には、収益を得ることを目的としてGoogleマップを使用する場合や、印刷広告や販促物に使用する場合に、Googleからの書面による許可が必要になります。
一方で、WebサイトにGoogleマップを埋め込むだけであれば許可は不要です。利用する際には「Map data ©2023 Google」などの出典を明記することが義務づけられています。
参照:Google「Google Maps, Google Earth, and Street View」
Yahoo!マップの利用規約においては、商用利用や印刷物への使用に対しては許可が必要です。
たとえば、印刷広告やチラシなど紙媒体での利用は基本的に認められていませんが、個人利用については許可されています。テレビ放送や新聞・雑誌での利用に関しては、利用目的によって許可される場合もあり、個別に問い合わせる必要があるでしょう。
Webサイトの「共有」機能を利用してYahoo!マップを掲載するときは、個人利用、商用利用に関わらず許可は必要ありません。
参照:Yahoo!マップ「リンク・転載・二次利用について」
参照:Yahoo!マップ「Yahoo!地図ガイドライン」
ゼンリンの地図を利用する際には、以下の基本条件を満たしたうえで、事前に利用申請書の提出が必要です。
ゼンリンの地図をWebサイトで使用する場合は、専用ソフト「AreaCutter」を使うと便利です。ソフトを活用すると、地図の複製許諾番号が自動で付与されるため、許諾を得た地図をスムーズに使用できます。
参照:株式会社ゼンリン「地図複製等利用のご案内」
参照:ゼンリンデータコム法人向け地図・位置情報サービス「複製許諾付きでゼンリン製地図画像作成|AreaCutter」
国土地理院が提供する地理院地図は、公共利用が認められている一方、商用利用する際には承認申請が必要です。
商用利用や地図の内容を加工して配布する場合には、国土地理院長へ承認申請をしましょう。承認申請が不要な場合も、出典を明示することが義務づけられています。
教育目的や研究目的、非営利団体による利用においても、国土地理院の地図であることを示し、出典情報を正確に記載すれば、許可を取る必要はありません。
参照:国土交通省国土地理院「国土地理院コンテンツ利用規約」
参照:国土交通省国土地理院「地図の利用手続パンフレット」
地図で著作権侵害した場合には、以下2つのリスクがあります。
地図の著作権侵害が認められた場合、著作権者から次の法的請求を受ける可能性があります。
著作権者には、著作権を侵害する行為の停止を請求する権利が認められており、侵害者はその請求に応じる義務があるためです。
著作権を侵害した場合、個人であれば10年以下の懲役や1,000万円以下の罰金、法人だと3億円以下の罰金が科されることもあります。
参照: e-Gov法令検索「著作権法」
参照:経済産業省特許庁「著作権侵害への救済手続」
地図の著作権侵害は、法的な罰則を受けるだけでなく、企業や個人の社会的信用を失う可能性があります。
著作権を侵害したことが広く認知されると、企業や個人の信頼が大きく損なわれるでしょう。とくに、顧客や取引先との関係に悪影響をおよぼし、ビジネスチャンスの喪失につながることがあります。
たとえば、企業が著作権侵害で訴訟を受けた場合、取引先が契約を見直したり、新たな取引を避けたりすることがあるでしょう。
著作権侵害は法的なリスクにとどまらず、長期的な信頼関係にも深刻なダメージを与える可能性があるため、地図の使用には十分な注意が必要です。
地図の著作権侵害を判断された事例を2つ紹介します。
2016年、香川県と香川県警が運営するホームページに、無許可で地図が掲載されていたことが問題になりました。外部通報により、Googleや国土地理院が著作権をもつ地図が、許可を得ずに使用されていたことから発覚したのです。
具体的には、ホームページ内で公開されていた地図のうち、合計147件、1,562枚の地図が無許可で使用されていました。
著作権者からの指摘を受け、香川県は直ちに地図を削除し、Googleや国土地理院に謝罪しました。
参照:毎日新聞「香川県:県や県警HP、著作権者の許諾なく地図掲載で謝罪」
参照:日本経済新聞「香川県、HPで地図無断使用 足りぬ著作権意識、対策急ぐ」
2022年5月27日、ゼンリンが保有する住宅地図を無断で複製したA社に対し、著作権侵害として3,000万円の支払いを命じる判決が下されました。
A社はゼンリンの住宅地図を購入後、無許可で縮小・複写し、商用利用していました。さらに、フランチャイジーに配布し自社のWebサイトにも掲載していたのです。
ゼンリンは、一連の行為が著作権の譲渡権や公衆送信権の侵害にあたるとして、差止請求と損害賠償請求をしました。
判決として、裁判所は計2億1,296万200円の損害が原告に生じたと判断し、請求した3,000万円の範囲で損害賠償を命じました。
参照:大阪 弁護士法人苗村法律事務所「住宅地図の著作物性を認めた裁判例 -東京地裁令和4年5月27日判決(ゼンリン住宅地図事件)-(2023年1月6日)
地図にも著作権があり、無断で使用すると法的なリスクを伴います。地図を利用する際には、必ず各地図サービスが提供するガイドラインを守りましょう。
具体的には以下の行為が、地図の著作権侵害に該当します。
多くの地図サービスは、利用に関するガイドラインを公式ホームページに公開しています。ガイドラインを読めば、使用許可の必要性や許可を得る方法がわかるため、必ず確認しましょう。
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