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「パブリックドメインって自由に使えるの?」「著作権が切れた作品ってどのように使えるの?」「パブリックドメインの作品でビジネスできるって本当?」
「パブリックドメイン」という言葉は聞いたことがあるけれど、具体的にどのようなものか、どう活用できるのか、疑問に思う方も多いのではないでしょうか。
パブリックドメインとは、著作権の保護期間が終了した作品や、そもそも著作権が発生しない作品のことです。これらの作品は、誰でも自由に利用できるため、クリエイターやビジネスパーソンにとって大きなチャンスを生み出すことになるかもしれません。
しかし、自由に使えるからといって、注意点がないわけではありません。とくにビジネスで利用する場合には知っておくべきルールがあります。
この記事では、パブリックドメインの基礎知識から、商用利用時における注意点、そして具体的な活用事例まで、わかりやすく解説します。パブリックドメインを正しく理解し、あなたのビジネスや創作活動に役立ててください。
パブリックドメインとは、著作権などの知的財産権が消滅し、誰でも自由に利用できるようになった著作物のこと。
著作権は一定期間保護されますが、保護期間が終わると共有財産(パブリックドメイン)となり、これには画像、音楽、映像、絵画、小説など、さまざまなジャンルの知的創作物が含まれます。
パブリックドメインの作品は、著作権などの制限がないため、個人利用はもちろん、商用利用の際も、複製、出版、改変などを自由にできます。
ただし注意が必要なのは、パブリックドメインの作品であっても「著作者人格権」は消滅しないことです。著作者人格権とは、著作者の名誉や作品への敬意を守る権利であり、パブリックドメインの作品を利用する場合も、著作者の人格を傷つけないよう配慮する必要があります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?]
著作物がパブリックドメインになる条件は以下です。
著作権の保護期間が終了すれば、著作物はパブリックドメインになります。
保護期間は、著作権によって著作物が保護される期間のことです。原則として著作者が逝去した翌年から起算して70年間と定められています。たとえば、著作者が1970年に死亡した場合、その作品は2041年1月1日からパブリックドメインとなります。
なお、著作者が無名・変名の著作物、映画や団体名義の著作物の保護期間は、著作者の死後ではなく、公表後または創作後70年間です。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?]
なお、アンパンマンの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
著作者が明確に著作権を放棄した場合、その作品はパブリックドメインになります。
著作者が自身の意思で著作権を放棄することは、その作品を社会全体の共有財産とすることを意味します。これにより、誰でも自由にその作品を利用できるようになるのです。
著作権の放棄は、通常、著作権放棄声明や特定のライセンスを通じて明示的に行われます。
著作者が亡くなり、相続人がいない場合、著作物はパブリックドメインになります。
著作者が亡くなった際に相続人が存在しない場合、保護期間中であったとしても、相続人がいない場合は著作権が消滅することになります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?]
パブリックドメインの具体例としては、以下のようなものがあります。
くまのプーさんは、日本では2017年5月21日、アメリカでは2022年にパブリックドメインとなりました。パブリックドメイン化された内容は、日本と海外でそれぞれ異なります。
具体的には、日本ではシリーズ1作目の小説『クマのプーさん』および2作目『プー横丁にたった家』の文章部分のみがパブリックドメインとなりました。一方、アメリカでは『クマのプーさん』の文章および挿絵がパブリックドメインです。
しかし、ディズニー作品としての「くまのプーさん」の著作権は切れておらず、パブリックドメインではないので注意してください。
ディズニーは1961年に赤いTシャツが特徴的な「くまのプーさん」の権利を獲得しており、この権利は2024年8月現在も有効です。
なお、くまのプーさんの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
1928年に制作されたアニメーション作品『蒸気船ウィリー』に登場するオリジナルのミッキーマウスは、2024年1月1日よりパブリックドメインとなりました。
これは、『蒸気船ウィリー』の著作権保護期間が終了したためです。しかし、ここで注意が必要なのは、パブリックドメインとなったのはあくまでオリジナルデザインのミッキーマウスのみである点です。
現代のデザインのミッキーマウスについては、ディズニーが著作権や商標権を保持しているため、パブリックドメインではありません。
したがって、現代版のミッキーマウスを無断で使用すると、著作権侵害としてディズニーから訴えられる可能性があります。
なお、ミッキーマウスの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
青空文庫は、著作権が消滅した日本の文学作品を、誰でも無料で利用できる電子図書館のようなサービスです。
著作権の保護期間が終了した作品や、作者が許諾した作品を収集しており、ウェブサイト上で作品を閲覧、ダウンロード、コピーできます。
青空文庫の作品は、著作権の制約がないため、読者は安心して作品を読むことが可能です。教育や研究の分野でも、著作権にとらわれずに活用できるため、幅広く利用されています。
参照:青空文庫「青空文庫」
メトロポリタン美術館のWebサイトでは、著作権が切れた芸術作品の画像をパブリックドメインとして公開しており、画像は誰でも自由に利用可能です。
メトロポリタン美術館は、以下のようなアーティストの作品の画像をパブリックドメインとして公開しています。
作品の画像は、個人利用、商用利用に関わらず無料でダウンロードして使用可能です。高解像度の画像は、教育や研究、クリエイティブプロジェクトなどにも役立てられます。
参照:メトロポリタン美術館「The Met Museum Art Collection」
パブリックドメインの素材は以下のサイトなどから簡単に探せます。
パブリックドメインRは、カラー・モノクロの絵画や写真のパブリックドメイン素材を豊富に取り揃えたサイトです。
とくに、AI技術を活用して色付けされたモノクロ絵画など、ユニークな作品が特徴です。各作品ページには、公開時期や著作権消滅時期などの情報が明記されており、安心して作品を利用できるでしょう。
パブリックドメインRで提供される作品は、著作権フリーのため、個人利用はもちろん、商用利用も可能です。
参照:GAHAG「パブリックドメインR」
パブリックドメインQは、写真、イラスト、画像などのパブリックドメイン素材を豊富に取り揃えたサイトです。
掲載されている素材は、すべて著作権保護期間が終了しているか、著作権放棄が表明されているため、安心して利用できます。ユニークな点は、素材をダウンロードする前に3択クイズに正解する必要があることです。
パブリックドメインQは、パブリックドメインRと同じ運営元が提供しており、高品質でカラフルな素材を、著作権の心配なく利用できるのが魅力です。
参照:GAHAG「パブリックドメインQ」
パブリックドメイン作品利用における注意点は以下のとおりです。
パブリックドメインの作品も、著作者人格権は保護され続けます。著作者人格権とは、著作権に含まれるもので、著作者の人格的利益を守るための権利です。
この権利には、以下のような権利が含まれます。
著作者人格権 | 内容 |
---|---|
公表権 | 自分の著作物で、まだ公表されていないものを公表するかしないか、公表するとすれば、いつ、どのような方法で公表するかを決めることができる権利 |
氏名表示権 | 自分の著作物を公表するときに、著作者名を表示するかしないか、表示するとすれば、実名、変名のいずれを表示するかを決めることができる権利 |
同一性保持権 | 自分の著作物の内容または題号を自分の意に反して勝手に改変されない権利 |
パブリックドメインになったからといって、著作者の名誉を傷つけるような利用の仕方はしないように注意しましょう。
参照:e-Gov法令検索「著作権法」
パブリックドメインの作品をもとに新たに創作された作品は、二次的著作物と呼ばれ、新たな著作権が発生します。そのため、二次的著作物を使用する際には、その著作権をもつ人の許諾を得ることが必要です。
二次的著作物とは、既存の作品を土台として新たな創作性を加えた著作物のことを指します。たとえば、パブリックドメインの小説を原作として映画を制作した場合、その映画は二次的著作物となります。
パブリックドメインとなった著作物の利用の際には、著作隣接権の有無の確認をすることも重要です。著作隣接権とは、創作物の伝達において重要な役割を果たす演奏者やレコード会社などに与えられる権利を指します。
たとえば、クラシック音楽の多くは作曲者の没後70年を超えており、パブリックドメイン作品が多いです。ただし楽曲を演奏しているピアニストなどの演奏家やCDを発売したレコード会社は著作隣接権を保持しています。
そのため、著作隣接権を確認せずにクラシックのCDに収録された楽曲を使用すると、権利侵害を起こしてしまいかねません。著作隣接権の存在の有無も事前に確認するのが重要です。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作隣接権とは?」
海外の著作物は、国ごとに異なる著作権保護期間や特例が適用されるため、その違いに注意しなければなりません。
各国で著作権の保護期間は異なります。たとえば、日本では著作者の死後70年ですが、メキシコでは死後100年と定められています。
また一部の国では、戦時中に著作権の保護期間が延長される「戦時加算」の特例が存在する点にも注意してください。たとえば、アメリカでは戦時加算として3,794日が著作権保護期間に追加されます。
さらに、多くの国がベルヌ条約に加盟しており、相互に著作権を保護する原則が存在します。ベルヌ条約は、加盟国間で著作物の著作権を相互に保護することを目的とした、国際的な著作権保護の枠組みを提供するものです。
海外の著作物を利用する際には、その国の著作権法を考慮しなければなりません。国ごとの著作権保護期間や特例を理解し、適切に対応することで、著作権侵害を避けられます。
参照:公益社団法人日本写真家協会「Q:著作権の保護期間が著作者の死後70年以上の国は何処ですか?」
参照:公益社団法人著作権情報センター「外国の著作物も保護されるの?」
参照:JASRAC「戦時加算対象国および戦時加算日数一覧」
パブリックドメインと混同しやすい用語として以下の2つが挙げられます。
ロイヤリティフリーは、特定の条件下であれば都度許諾を取らずとも利用できる素材のことを指します。いわゆる「フリー素材」も、基本的にはロイヤリティフリーに該当します。
ただし、ロイヤリティフリーの素材は著作権を放棄していないため、規約の範囲内で利用しなければなりません。
ロイヤリティフリーの種類は、大きく分けて以下の2つです。
前者には「いらすとや」などが該当します。いらすとやの素材は基本無料ですが、21種類以上の素材を商用利用すると有料になるなど、利用に関するルールが定められています。
参照:いらすとや「ご利用について」
後者は、「PIXTA」や「アマナイメージズ」などが該当し、規定の料金を支払えば画像などが商用利用可能です。
クリエイティブ・コモンズ・ライセンス(CCライセンス)は、著作権を保持したまま特定の条件下で利用を許可するものです。
以下はそのうちの4つの主要な使用条件です。
表示 (BY) | 原作者の名前をクレジットとして表示する必要がある。 |
---|---|
非営利 (NC) | 非営利目的でのみ使用することが許可されており、営利目的での使用は禁止されている。 |
改変禁止 (ND) | 作品をその原形でのみ使用でき、いかなるかたちの改変も許可されていない。 |
継承 (SA) | 改変後も同じライセンス条件下のみ共有が可能。改変作品も元のライセンスと同じ条件で配布する必要がある。 |
上記の条件を組み合わせて、作品の利用範囲が表示されています。たとえば、CC-BY表示は原作者のクレジットを表示すれば、改変や営利利用も可能であることを意味します。
CCライセンス作品においては、著作者は著作権を保持し続けるため、条件を守って利用する必要があります。一方パブリックドメインは、著作権が消滅しているか、著作者が明示的に権利を放棄している状態を指すものです。
参照:クリエイティブ・コモンズ・ジャパン「ライセンスの執行」
著作権が消滅した知的財産であるパブリックドメインは、誰でも自由に利用できるという大きな特徴を持ちます。個人利用から商用利用まで、幅広い用途で活用できますが、その特性を正しく理解することが重要です。
たとえば、著作者の人格を尊重する観点から、著作者の名誉を傷つけるような利用方法は避けなければなりません。
また、パブリックドメインの作品をもとに新たな創作物を生み出す場合には、二次的著作物として新たな著作権が発生するため注意が必要です。
さらに、音楽や映像作品などには著作隣接権が発生する場合があり、権利者の許諾が必要となるケースもあります。
国によって著作権の保護期間が異なるため、海外の作品を利用する際には、その国の法律を確認することも忘れてはなりません。
これらの注意点を守り、パブリックドメインを正しく利用することで、創造的な活動やビジネスチャンスを大きく広げられるでしょう。
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