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「ミッキーマウスの著作権は切れたのか」「誰でもミッキーマウスの作品を自由に使用できるのか」
2023年12月にアメリカでミッキーマウスの著作権の一部が切れました。それによって、ミッキーマウスの著作権に関して上記の疑問を持つ方もいるのではないでしょうか。
しかし、日本においてはミッキーマウスの著作権切れについて複数の解釈があり、確定していません。
当記事では、ミッキーマウスの著作権の扱いについて解説しています。ミッキーマウスの著作権がフリーになって発表された作品や、著作権に関する事件例も紹介しており、より理解が深まるでしょう。
ミッキーマウスの作品使用における著作権が気になっている方は、ぜひ参考にしてください。
ミッキーマウスの著作権は、アメリカでは2023年12月31日に切れています。ただし、初代作品である『蒸気船ウィリー』についてのみです。
2024年1月1日よりアメリカ国内では、『蒸気船ウィリー』に登場したミッキーマウスの二次使用が可能となっています。『蒸気船ウィリー』は、1928年にアメリカで公開された映画で、ミッキーマウスのデビュー作です。
ミッキーマウスのデザインは、これまで何度も変更されています。たとえば、初代ミッキーマウスと現代のミッキーマウスのデザインの違いは以下のとおりです。
一方、日本ではミッキーマウスの著作権切れについて、さまざまな見解があり明確になっていません。詳細は後述しますが、解釈の違いにより、すでに切れているとする意見と、まだ切れていないとする意見に分かれています。
そのため現時点では日本において、ミッキーマウスを二次使用することは難しいでしょう。
参照:CNN「初代版ミッキーマウスの著作権が失効、パブリックドメインに」
アメリカでミッキーマウスの著作権が切れた理由は、著作権の保護期間が終了したためです。アメリカでの著作権保護期間は95年間であり、作品ごとに著作権保護期間が設定されます。
『蒸気船ウィリー』が公開されたのは1928年です。1928年から起算して95年後の2023年に、著作権保護期間は終了となりました。
『蒸気船ウィリー』より後に公開された作品は、まだ95年が経過していないため著作権保護期間内です。しかし今後、各作品の著作権保護期間が切れることで順次二次使用可能となるでしょう。
参照:NHK「初代ミッキーマウス 登場アニメ著作権切れで米で2次創作可能に」
日本での著作権保護期間の終了例は、2017年5月21日に著作権が切れた『くまのプーさん』があります。
『くまのプーさん』の事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
アメリカと日本では、ミッキーマウスの著作権の扱いが異なります。アメリカと日本との違いを以下のとおり解説します。
アメリカでは、これまで何度も著作権保護期間が延長されています。最初は14年間でしたが、改定を繰り返し56年間まで延長されました。
そのため1928年に公開された『蒸気船ウィリー』の著作権は、1984年に失効するはずでしたが、1976年著作権法により保護期間が2003年まで延長されました。同改定により、公表から75年もしくは作者の死後50年に著作権保護期間が延長されたためです。
さらに1998年に著作権法延長法が制定され、著作権保護期間が95年間に延長された結果、2023年までとなりました。
もともと著作権の保護には申請が必要であり、一部の有力者が行っていただけでした。そして、その有力者たちが働きかけて国の法律を動かし著作権を改定してきたといえます。
これらの期間延長は、ミッキーマウスの著作権を守るためともいわれており、「ミッキーマウス保護法」と一部で揶揄されています。
参照:THE GOLD ONLINE「アメリカ合衆国が「ディズニー社」の著作権を保護し続ける理由」
参照:文部科学省「諸外国(独・仏・英・米)における著作権の保護期間延長の際の利用円滑化方策に関する議論について」
日本では、アメリカと異なりミッキーマウスをどのような著作物ととらえるかで保護期間が異なります。対象となる著作物は以下のとおりです。
映画の著作物であれば映画の公開から70年、美術の著作物であれば作者の死後70年後に著作権保護期間が終了します。さらに、団体名義の著作物であれば保護期間は作品の公表後70年です。
また戦時加算と呼ばれ、戦争の期間分を延長する日本独自の制度があり、ミッキーマウスの場合は約10年5ヶ月あります。
上記のように、日本では著作権の扱いが複雑化しており、判断が難しくなっているのが現状です。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?」
参照:骨董通り法律事務所「ミッキーマウスの著作権保護期間~史上最大キャラクターの日本での保護は2020年5月で終わるのか。2052年まで続くのか~」
参照:文化庁「著作権の保護期間に関する戦時加算について」
日本でミッキーマウスの著作権保護期間が確定しない理由は、著作権保護期間の解釈が複数存在するためです。
日本においてミッキーマウスの著作権の解釈は主に6種類あり、そのなかで5パターンの著作権保護期間が考えられます。
ミッキーマウスの著作権保護期間の解釈6種類は以下のとおりです。
引用:骨董通り法律事務所「ミッキーマウスの著作権保護期間~史上最大キャラクターの日本での保護は2020年5月で終わるのか。2052年まで続くのか~」
6とおりの解釈のうち4例の解釈については、すでに保護期間が終了しています。しかし残りの2例では、まだ保護期間が終了していません。
そのため、日本ではミッキーマウスの著作権保護期間が切れていると確定できない状態です。最短と最長の期間では63年もの開きがあります。
ミッキーマウスの著作権保護期間が切れてから発表された二次創作作品の例は、以下のとおりです。
同じく著作権の切れた『くまのプーさん』同様に、どれもホラーテイストの作品です。それぞれの概要を紹介します。
『Mickey’s Mouse Trap』は、『蒸気船ウィリー』のミッキーマウスを二次利用した実写版のホラー映画です。
配給会社は決まっておらず、どのようなプラットフォームでの配信になるかは現在未定です。公開に先立ってYouTubeで予告編が配信されています。
ゲームセンターに勤務する友人を驚かそうと集まった若者達に、ミッキーマウスの覆面を被った殺人者が襲いかかる設定です。
登場する殺人者は、たしかにミッキーマウスがもとになっていることはわかります。しかし、その恐ろしい容姿は従来のミッキーマウスのイメージではありません。
監督はジェイミー・ベイリー、主な出演者は以下のとおりです。
参照:THE HOLLYWOOD REPORTER「Trailer for Mickey Mouse Slasher Film Drops on Same Day ‘Steamboat Willie’ Character Enters Public Domain」
同じくホラー映画として『The Return of Steamboat Willie』も発表されています。
『The Return of Steamboat Willie』も『蒸気船ウィリー』のミッキーマウスの二次創作作品です。
内容に関して詳細は発表されていませんが、YouTubeで予告編が配信されています。
白黒の蒸気ボート内でミッキーマウスのシルエットをした怪物から襲われるという内容です。
参照:IGN Japan「初代ミッキーマウスが登場する『蒸気船ウィリー』の新作ホラー映画の映像が公開 著作権切れでミッキーもホラーに」
映画以外では、Nightmare Forge Games社が『Infestation: Origins』を発表しました。Nightmare Forge Games社は2010年以来、ホラーゲームを専門に作成してきた制作チームです。
2024年リリース予定の『Infestation: Origins』は、YouTubeでトレーラー映像が公開中です。
非常にリアルなグラフィックで、ホラーテイストのミッキーマウスから追いかけられる様子が確認できます。
参照:Nightmare Forge Games「ABOUT US」
『Captain Willie』は、インディーゲームの販売サイトでリリースされた3Dホラーアドベンチャーゲームで、ミッキーマウスが登場します。
『蒸気船ウィリー』に登場するミッキーマウスによく似た、ウィリー船長と冒険の船旅に出るというストーリーです。
引用:Game*Spark「『蒸気船ウィリー』インスパイアなホラーADV『Captain Willie』公開―ネズミ船長の下で楽しくお仕事!しかしてその実態は…」
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ウィリー船長と過ごすうちに不穏な出来事が起こっていくというホラーゲームで、日本語は非対応ですが、実質無料でプレイ可能です。
参照:Game*Spark「『蒸気船ウィリー』インスパイアなホラーADV『Captain Willie』公開―ネズミ船長の下で楽しくお仕事!しかしてその実態は…」
ミッキーマウスの著作権に関しては、建物などに描いたキャラクターを消すようにディズニーから要求された例があります。
一つ目は、1987年に滋賀県の小学校で、プールの底に描かれたミッキーマウスを消すようにディズニー側から要求された例です。卒業記念に描かれたものですが、塗りつぶすこととなりました。
また1989年、フロリダの保育園では、壁に描かれたディズニーキャラクターを消すようにディズニーから要求されています。
上記のように、商用利用ではないとしても削除要求を受ける場合があり、著作物の取り扱いには十分な注意が必要です。
参照:ニッセイ基礎研究所『「著作権に厳しい」ディズニーがキャラクターを積極提供-どんなCSR活動をしているのか』
著作権が切れた著作物は、パブリックドメインになります。パブリックドメインとは、日本語では「公有物」と訳され、誰でも自由に使用できる著作物のことです。
著作権は適用される期間が定められており、その期間を保護期間と呼びます。保護期間が切れて著作権が消滅し、社会全体での共有物となったのがパブリックドメインです。
パブリックドメインは商用利用可能ですが、他の法律に触れることがあるため慎重に取り扱う必要があります。注意が必要な法律や権利は、後述します。
また、自由に使用できる点において、いわゆるフリー素材と混同しがちですが、フリー素材には著作権があり扱いは別です。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?」
ミッキーマウスがパブリックドメインになっても注意が必要な法律は以下のとおりです。
それぞれ解説していきます。
著作権が切れてもミッキーマウスには商標権があるため、作品の使用には注意しなければなりません。
商標権とは、商品やサービスのマークやネーミングなどを保護する権利のことです。商標権の種類は以下のとおりです。
2015年4月から、動きや図形等をつける位置などさまざまな商標が登録できるようになりました。商標権は、上記の識別標識と使用する商品やサービスを組み合わせて登録します。
ディズニーは、多くの商標を登録しています。一例は以下のとおりです。
商標登録された名称やマークなどを使用すると、商標権侵害にあたります。商標権を侵害していると、差止めや損害賠償を請求されるので注意が必要です。
参照:政府広報オンライン「知っておかなきゃ、商標のこと!商標をわかりやすく解説!」
参照:特許庁「商標権侵害への救済手続」
著作者人格権にも注意が必要です。著作者人格権とは、著作者の人格的な利益を保護する権利で、財産的な利益を保護する著作権とは別の権利です。
著作者人格権は以下の3とおり。
このうち、同一性保持権の侵害に最も注意が必要でしょう。パブリックドメインとなったミッキーマウスのデザインを改変して使用することは、同一性保持権の侵害となる場合があります。
著作者人格権は、著作者だけの権利であり譲渡や相続できないため、作者が死亡した場合に消滅します。
しかし、著作者の死後においても著作者人格権を侵害する行為は行ってはならないと定められており、実質永久の権利といえるでしょう。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作者にはどんな権利がある?」
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作権は永遠に保護されるの?」
著作権のある制作物などには著作隣接権があるため注意が必要です。著作隣接権とは、著作者ではないものの著作物を伝達し広めることに関与した者に認められている権利です。
楽曲でたとえると著作物である楽曲に対し、楽曲を歌う歌手やCD製作者などがもつ権利が著作隣接権となります。著作隣接権の保護期間は、実演が行われたときやCDが公表されてから70年間です。
そのため、あとから公表された著作物の場合、作品の著作権保護期間が切れても著作隣接権が保護期間内の場合があります。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作隣接権とは?」
アメリカでは、2023年12月にミッキーマウスの著作権が切れ、アメリカ国内において二次使用が可能となりました。
ただし、著作権が切れたのは初代作品である『蒸気船ウィリー』のみであり、それ以降のミッキーマウスはまだ保護期間内です。
一方、日本ではミッキーマウスの著作権保護期間はすでに切れているとする意見とまだ切れていないとする意見があります。そのため、著作権が切れたと確定できていません。
今後、ミッキーマウスの著作権が切れても商標権や著作者人格権侵害のおそれがあるため、著作物の使用には注意が必要です。
ミッキーマウスのように、キャラクターを活かしたビジネスの市場は拡大しており、今後も成長が期待できるでしょう。キャラクタービジネスについては、以下の記事をぜひご参考にしてください。
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