
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。
「パブリシティ権について詳しく知りたい」「どのような行為がパブリシティ権の侵害に該当するのだろうか」「パブリシティ権の侵害と認められた判例を把握しておきたい」とお考えの方も多いのではないでしょうか。
タレントや芸能人など有名人の肖像権を保護する権利のことを「パブリシティ権」といいます。タレントやスポーツ選手の名声、イメージを守るために定められた権利です。
パブリシティ権を侵害すると、訴えられたり損害賠償請求をされたりするケースがあります。パブリシティ権の侵害にあたる行為を正しく把握しておかなければなりません。
そこで本記事では、パブリシティ権の概要と権利侵害にあたる行為について解説します。パブリシティ権を正しく理解するために、ぜひ最後までお読みください。
パブリシティ権は、タレントや芸能人など有名人の肖像権を保護する権利のことを指します。
パブリシティ権は、主にタレントや芸能人、その他著名人に対して適用される権利です。著名人の名声やイメージを守るための、重要な権利といえます。
有名人や著名人の肖像を商業的に利用する際に規制を設けることで、無断で商業利用されることを防ぐ目的で定められています。
参照:文化庁「登録制度について」
パブリシティ権と混同しやすい以下の権利との違いを解説します。
権利侵害を主張できる状況も異なるので、正しい違いを知っておきましょう。
肖像権とパブリシティ権の違いは、以下のとおりです。
肖像権とは、人が他人からみだりに写真を撮られたり、撮られた写真を世間に公表されたりしないように保護する権利のことです。有名人以外の一般人にも当てはまります。
一方パブリシティ権は、写真や動画などの肖像だけでなく氏名や芸名、サインなども保護の対象です。有名人の名前や芸名を、本人の許可なしに商業利用されないために、重要な役割を担っています。
参照:文化庁「登録制度について」
参照:スポーツ法政策研究会「スポーツ選手の肖像権・ パブリシティ権」
なお、肖像権については、以下の記事で解説しています。
著作権とパブリシティ権の違いは、保護する対象が著作物か人物かという点です。
著作権は著作者の著作物を保護するための権利のことを指し、著作権法で規定されています。パブリシティ権は法律では定められていない権利で、著作物の人物を保護することを目的としています。
たとえば、著作権では人物が撮影された写真は著作物として保護されますが、写っている人物の権利の保護は対象外です。芸能人が許可なしに写真や名前を使用されたと主張しても、著作権での保護は難しいでしょう。
パブリシティ権は、写真や名前を無断で使用され、顧客誘引力が発生した際に権利を主張できます。法律で定められていないパブリシティ権は、民法709条の不当行為による損害賠償請求を根拠に訴えることになります。パブリシティ権の侵害があった場合、侵害した相手に対して、写真の削除や損害賠償請求が可能です。
参照元:e-Gov法令検索「民法」
参照元:文化庁「登録制度について」
パブリシティ権の侵害にあたるとされている行為は、以下の3つです。
パブリシティ権の侵害にあたる行為と認められた場合は、賠償金の支払いが必要になるケースもあります。侵害にあたる行為をしないように、必ず目を通しておきましょう。
パブリシティ権を侵害する可能性のある行為として、芸能人やタレントの肖像を商業広告や宣伝活動に使用することが挙げられます。
たとえば以下の行為は、パブリシティ権の侵害になる可能性が高いです。
個別の了承を得ずに、有名人の名前や写真をメディアに掲載した場合、パブリシティ権の侵害にあたる可能性が高いです。芸能人やタレントの絵や写真、動画を使用したいときは、本人の許可が必要になります。
参照:一般社団法人日本音楽事業者協会「プライバシーの権利、肖像権、パブリシティ権とは」
タレントや芸能人の肖像権を含む商品やサービスを販売すると、パブリシティ権の侵害にあたる行為になる可能性が高いです。
パブリシティ権の侵害にあたるのは、プロスポーツ選手やタレントの写真、名前が使われている、以下の商品を販売したときです。
使用許可を得ていないタレントやスポーツ選手などの名前、写真を使用した商品を販売するのは避けましょう。
参照:一般社団法人日本音楽事業者協会「プライバシーの権利、肖像権、パブリシティ権とは」
タレントや芸能人の絵や写真を無断でSNSなどに投稿する行為は、パブリシティ権の侵害だと見なされる可能性があります。
SNSなどにタレントや芸能人の写真を投稿する際は、以下のような適切な方法を選択することが重要です。
悪意のある使い方をすると、名誉毀損で訴えられる可能性もあります。有名人の顔やプライベートな写真の取り扱いには注意が必要です。
参照:情報の科学と技術「インターネットにおける肖像権の諸問題 :裁判例の分析を通じて」
芸能人の写真を使うケースについては、こちらの記事でご紹介しています。
ここでは、パブリシティ権の侵害にならないケースについて解説します。
有名人の写真や映像が報道に使用される場合、パブリシティ権の侵害には該当しません。
報道に対する顧客誘引力が発生するためです。報道時には、芸能人やスポーツ選手の肖像による影響力が薄れます。誹謗中傷を目的とせずに、事実に沿った報道であれば、写真や動画の利用を認める必要があるでしょう。
参照:一般社団法人発明推進協会「著名歌手のパブリシティ権の侵害が 認められないと判示した事例」
伝記に使用されるケースも、パブリシティ権の侵害に該当しません。
伝記自体に顧客誘引力があるためです。有名人やスポーツ選手ではなく、文章自体が伝記の価値と見なされます。有名人やスポーツ選手が持つ顧客誘引力に頼った使用ではないため、パブリシティ権の侵害となる可能性は低くなるでしょう。
参照:一般社団法人発明推進協会「著名歌手のパブリシティ権の侵害が 認められないと判示した事例」
パブリシティ権の侵害と認められた判例は、以下のとおりです。
なぜこれらの判例がパブリシティ権の侵害と認められたのか、理由を理解することで同様の失敗を未然に防ぐことができるでしょう。
パブリシティ権の侵害に該当する判例に「光GENJI事件」があります。
アイドルグループ「光GENJI」のタレントAが、写真や氏名を許可なしに使用し、タレントグッズを販売していたB社に申し立てをした事件です。
これによりB社にはタレントグッズの販売を禁止する仮処分が決定しましたが、同社はこの取り消しを求めました。
しかしB社のグッズ販売を認めた場合、Aの被る損害額が肖像の利用料だけで済むとは速断できないとし、B社の申し立てを認めず、パブリシティ権の侵害にあたると判決が出ました。
参照:中川特許事務所「パブリシティ権(4)」
パブリシティ権の侵害にあたる判例に「王選手肖像メダル事件」があります。元プロ野球選手 王貞治さんの、メダル製造に関する事件です。
プロ野球・読売巨人軍の選手であった王貞治さんは、昭和53年8月30日に通算800号のホームランを放ちました。そこであるメダル業者が、800号ホームランを記念したメダルを販売しようとしたところで事件は起きます。
業者が王さんの許諾を得ず、メダルに氏名や立像、そして王さんを表す「BIG1」という言葉を刻印する計画をしていたためです。肖像の使用を許可していないグッズが製造・販売されることを防ぐため、王さん自身がメダルの販売の差し止めを求めました。
裁判所はパブリシティ権の侵害にあたるとして王さんの申し立てを認め、メダル業者に製造販売の停止を命じています。
参照:スポーツ法政策研究会「スポーツ選手の肖像権・ パブリシティ権」
ここでは、パブリシティ権の侵害と認められなかった以下の判例を紹介します。
パブリシティ権を深く理解するためにも、どのような場合なら侵害にあたらないのか把握しておきましょう。
ギャロップレーサー事件は、競走馬の名称についてパブリシティ権が認められるかが争点となった判例です。
ゲーム会社「コーエーテクモゲームス」は、競走馬の名称を使用してゲームソフトを製作・販売しました。その際に競走馬の所有者である馬主らに、馬の名称を使用することについて承諾を得ていませんでした。
馬主らは、コーエーテクモゲームスの行為は「パブリシティ権の侵害行為にあたる」と申し立てています。ゲームソフトの製作・販売等の差止めと不法行為による損害賠償をコーエーテクモゲームスに請求しました。
しかし最高裁は競走馬の名称を用いた本件について、パブリシティ権の侵害には該当しないと判決を下しています。
パブリシティ権の侵害に該当しなかった理由は以下のとおりです。
最高裁は、法律上「馬」は「物」にあたり、「物」にはパブリシティ権を認めないと判決を下しています。
参照:ミカン法律事務所「競馬に関する法律の話②(ギャロップレーサー事件 競走馬のパブリシティ権)」
パブリシティ権の侵害として認められなかった判例として「ピンク・レディー事件」が挙げられます。
ピンク・レディーのダンスの振り付けを利用した、ダイエット法を紹介する雑誌記事に関する事件です。発行された雑誌記事にピンク・レディーの写真が無断で使用されたとして、ピンク・レディーの2人が出版社に損害賠償を求めました。
最高裁は、写真に関してパブリシティ権があることを認めました。しかしピンク・レディーの肖像を有する顧客吸引力の利用を目的とするケースではないと判断して、パブリシティ権の侵害を否定しています。
仮に発行された雑誌の内容が乏しく、写真集と変わらない状態だった場合は、パブリシティ権の侵害と認められていた可能性が高いです。
ピンク・レディーの写真は、ダイエット法を紹介するための補足として使われていたため、侵害にならなかったといえます。
参照:一般社団法人発明推進協会「著名歌手のパブリシティ権の侵害が 認められないと判示した事例」
パブリシティ権を侵害せずに著名人の肖像や名前を使う方法は以下のとおりです。
所属事務所や本人が肖像、名前の使用許可を出している場合は、パブリシティ権の侵害には該当しません。
また私的利用の範囲内で著名人の写真や名前を使う場合は、パブリシティ権の侵害にあたらない可能性が高いです。パブリシティ権は著名人の顧客誘引力を保護する権利であるためです。
たとえば自分や家族のために著名人の画像を使ってTシャツやタオルなどオリジナルグッズを作成しても、パブリシティ権の侵害にはならないでしょう。
しかし、作成したオリジナルグッズをWeb上に公開したり、販売して利益を得たりするとパブリシティ権の侵害に該当します。
原則として、広告や宣伝などに著名人の写真や名前を使いたいときは、所属事務所や本人から使用許可をもらう必要があるでしょう。
タレントや芸能人の肖像権についてのよくある質問は以下のとおりです。
動物やキャラクターには、パブリシティ権が認められません。
動物やゆるキャラ、アニメのキャラクターは「物」と、考えられるためです。しかし無断で使用すると、著作権侵害や商標権侵害に該当するケースがあるため要注意です。
亡くなった人には、パブリシティ権は適用されません。
パブリシティ権は人格権として規定されており、原則、相続対象ではありません。つまり個人の経済的価値を保護するための権利なので、対象者が亡くなった場合は権利も失われます。
パブリシティ権は、タレント、芸能人など有名人の肖像権を保護する権利のことです。
タレントなどの著名人の写真や動画を使用する際には、事前にパブリシティ権の侵害にあたる行為を把握する必要があります。
パブリシティ権の侵害に該当する行為の基準は複雑で、写真を許可なく使用していても、パブリシティ権の侵害に該当しないとされた判例もありますが、適切に取り扱うために、可能な限り本人に許可を取るなど対策しましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。