肖像権とは?侵害の基準やプライバシー権との関係をわかりやすく解説
#学ぶ
2024.02.02

肖像権とは?侵害の基準やプライバシー権との関係をわかりやすく解説

「肖像権とはどのように定義された権利のこと?」

「肖像権とプライバシー権の違いは何?」

「肖像権を侵害したかどうかをどう判断すればいい?」

このように肖像権について気になっている方も多いのではないでしょうか。

肖像権とは、個人が他人から無断で私生活の写真を撮られたり、公表されたりしないための権利です。法律による規制がなくても守る必要がある特殊な権利といえます。

SNSやブログなどで写真の共有が容易となった昨今、肖像権侵害の事例が増加傾向にあります。肖像権を侵害した際には、民事責任を負い、損害賠償請求や差止請求を要求される可能性があるため、注意が必要です。

そこで本記事では、肖像権の基礎知識や肖像権の侵害を判断する基準、注意点について解説します。肖像権を正しく理解したい方は、ぜひ最後までお読みください。

INDEX
  1. 肖像権とは?意味・定義を簡単に解説
  2. 肖像権の2つの種類
  3. 肖像権侵害の判断基準は?どこまでが侵害にあたるか紹介
  4. 肖像権の侵害があった場合どうすればいいのか
  5. 肖像権についてよくある疑問
  6. 【まとめ】写真の撮影・公開時には肖像権への配慮を忘れずに

肖像権とは?意味・定義を簡単に解説

肖像権とは、他人から無断で私生活の写真を撮られたり、撮られた写真を無断で公表・利用されないための権利です。

法律で明文化されているわけではなく、人格権にもとづくものとして、裁判例上認められてきました。SNSの普及で、インターネット上での写真の公開が容易になったことをきっかけに、肖像権侵害が問題視される機会が増加しています。

たとえば、他人の顔写真を許可なしに撮影する行為や、撮影したものをネット上で公開する行為は肖像権の侵害行為になり得ます。自分で写真に収めたわけではなくとも、他人の写真を無断で公開する行為は、肖像権侵害となる恐れがあります。

他人の顔が映っていたり、私生活が他人に知られたりしてしまうような写真の扱いには、十分に注意しなければなりません。

参照:関西消費者協会「肖像権・プライバシー権

肖像権の2つの種類

肖像権には、以下の2種類の権利が存在します。

  • プライバシー権(人格権)
  • パブリシティ権(財産権)

それぞれ保護される肖像権の内容が異なります。肖像権を正しく理解するためにも、目を通しておきましょう。

プライバシー権(人格権)

プライバシー権は、自分の容姿・外見などを他者から無断で撮影・公開されないための権利です。日本国憲法13条で保障される人権であると定義されており、私生活上の情報を、みだりに公表されないためにある権利といえます。

たとえば、名前や住所、家族構成など、自身に関する情報を勝手に公表されると、以下のような不利益を被る可能性があります。

  • 名前を悪用される
  • 住所を勝手に使用される
  • 家族がストーカー被害に遭う

プライベートな情報を公開されたことによる、精神的な苦しみを受けないための権利がプライバシー権です。SNSの普及により、気軽に情報発信が可能となった現代では、意図せず他人のプライバシーを侵害している可能性があります。

他人を写真や動画に収めるときには、肖像権への配慮を忘れないようにしましょう。

参照: e-Gov法令検索「日本国憲法

参照:衆議院「知る権利・アクセス権とプライバシー権に関する基礎的資料

パブリシティ権(財産権)

パブリシティ権は、芸能人やスポーツ選手などの著名人の肖像や氏名がもつ経済的な利益・価値を保護するための権利です。プライバシー権とは異なり、肖像に顧客吸引力を有するような著名人に発生します。

著名人の肖像や氏名には、顧客を商品などに引きつける力(顧客吸引力)が生まれ、経済的価値が生じるためです。

たとえば、以下の行為はパブリシティ権の侵害にあたる可能性が高まるでしょう。

  • タレントの写真を無断で使用し、ブロマイドとして売る
  • 商品の広告に許可なしに著名人の氏名や写真を使用する

悪質な使い方をした場合、損害賠償を請求されるケースもありえます。個人だけではなく、著名人の写真の取り扱いにも気をつけなければなりません。

肖像権侵害の判断基準は?どこまでが侵害にあたるか紹介

肖像権侵害であるかは、以下の観点から総合的に判断されることが多いです。

  • 撮影・公開許可の有無
  • 撮影目的や必要性
  • 個人が特定可能か
  • 撮影場所はどこか
  • 拡散性は高いか
  • 被撮影者の社会的地位
  • 撮影の態様

肖像権を侵害して訴訟を受けることがないように、判断基準を把握しておきましょう。

撮影・公開許可の有無

被撮影者から許可を得ていない状態で、撮影・公開した場合、肖像権侵害と判断される可能性が高くなります。

仮に公開する許可を得ていたとしても、肖像権の侵害に該当する可能性があるため、注意が必要です。許可をした相手の想定していた公開の範囲を超えて公開すると、肖像権侵害に当たる可能性が高くなります。

たとえば、個人的に使うと言っておきながら、SNSで不特定多数に公開する行為は、肖像権侵害にあたる可能性が高いです。

他人の写真や動画を使用する際は、公開の範囲まで話し合う必要があります。

撮影の目的や必要性

撮影の目的に悪意があったり、必要性が感じられなかったりした際に、肖像権侵害が認められる場合があります。

たとえば、望遠レンズで室内を撮影するような行為は、一般的に盗撮として判断される可能性が高いです。また公開を前提としないプライベートな写真を、SNSなどに公表した場合も、肖像権侵害が認められる可能性が高いでしょう。

しかし公共の場で写真撮影をするときに、以下の条件に当てはまった場合、肖像権侵害の主張を通すことは困難です。

  • 偶然他人が映り込んでしまった
  • たくさんの人が映っている
  • モザイクで隠されている

故意に特定の人物を撮影したケースや、前提条件を無視して写真や動画を公表した場合は、肖像権侵害が認められやすいです。

個人が特定可能か

個人(被撮影者)を断定できる写真や動画だった場合、肖像権の侵害になる可能性があります。

しかし、以下の事情がある場合は、肖像権侵害に該当しない場合もあります。

  • 写り込みが小さく個人を断定できない
  • ピントがぼけて個人を断定できない

またモザイク加工などで、個人の私生活に配慮されている場合も、肖像権侵害に該当しにくいです。個人がはっきりと断定できるケースでは、肖像権侵害になりやすいです。

撮影場所がどこか

被撮影者の自宅の敷地内など、プライベートな空間を無断で撮影・公開した場合、肖像権侵害に該当する可能性が高まります。

一般的に以下の施設は、プライベートな空間と判断されやすいです。

  • 自宅
  • ホテルの個室
  • 病室

実際に、病院で撮影された写真を無断で雑誌に掲載された人物が肖像権侵害を主張して、認められた判例がありました。

しかし以下のような、誰でも自由に行き来できるような場所での撮影は、肖像権の侵害になりにくい傾向にあります。

  • 公共施設
  • 道路
  • 公園

他人のプライベート空間を、許可なしに撮影・公開するのは控えたほうがいいでしょう。

拡散性が高いか

拡散性が高い状態で写真や動画を公開した場合にも、肖像権を侵害する可能性が高まるでしょう。

たとえば、LINEやメール、SNSのDMより、不特定多数の人が閲覧できる以下で公開するほうが「拡散力が高い」と判断されます。

  • Twitterの投稿
  • Facebookの投稿
  • Instagramのストーリー

写真や動画が、人の目に触れる機会が多くなればなるほど、肖像権の侵害となる可能性が高まるでしょう。

被撮影者の社会的地位

被撮影者の社会的地位によっては、プライバシー権とパブリシティ権の双方の侵害になる可能性もあります。

被撮影者が以下のような社会的地位にあった場合、その可能性が高まります。

  • 俳優
  • スポーツ選手

たとえば、街で見かけた芸能人をスマホを使い無断で撮影し、写真をそのままSNSに投稿することは避けたほうがいいでしょう。プライバシー権・パブリシティ権の侵害に該当する可能性が高くなります。

撮影の態様

被撮影者の撮影状況や写真の写り方も、肖像権侵害の判断基準です。

はっきりとした撮影の許可を得ていなくとも、肖像権侵害に当てはまらない場合があります。カメラに向かって笑顔で写っているなど、撮影を容認していると判断されたときです。

一方で以下のような行為は、肖像権侵害として認められる可能性が高いです。

  • 被撮影者が顔を隠すなど撮影を拒絶している
  • 被撮影者に撮影された自覚がない(隠し撮りなど)
  • 公共の場で特定の人物のみを撮影している

被撮影者が撮影を嫌がっていたり、撮られたことを認識していなかったりすると、肖像権侵害になる可能性が高まります。

参照:首相官邸ホームページ「肖像権ガイドラインの解説

肖像権の侵害があった場合どうすればいいのか

肖像権を侵害されたときの具体的な対応は以下の2つです。

  • 当事者への削除依頼
  • 民事訴訟を起こす

無断で写真をSNSなどに掲載されたり、個人情報を公表されたりしたときのために、対応の流れを把握しておきましょう。

当事者への削除依頼

自身の画像がインターネットやSNSに無断で公開されている場合、まずは当事者やサイトの運営会社などに削除を依頼しましょう。

放置しておくと、別の媒体に拡散されるなどの危険性が高まります。

運営会社は、利用規約で肖像権を侵す行動を禁じているケースが多いです。肖像権の侵害が運営会社に認められれば、削除してもらいやすくなります。

削除を依頼する場合は、サイト内のお問い合わせやヘルプページから行いましょう。

民事訴訟を起こす

肖像権の侵害があった場合、民事訴訟を起こすことも一つの解決方法です。

当事者間で解決しない場合、被害者は加害者に対して以下を要求できます。

  • 損害賠償請求(民法709条)
  • 名誉毀損による謝罪広告その他の回復処分(民法723条類推適用)
  • 差止請求

肖像権は法的に定められている権利ではないため、刑法で処罰する規定はありません。肖像権侵害に関することは、民事上の責任が問われるケースがほとんどです。

当事者間で解決できない場合は、民事事件を担当している弁護士や法律事務所を探して、相談することがおすすめです。

参照: e-Gov法令検索「民法

参照:民法「条文

肖像権についてよくある疑問

肖像権についてよくある質問は、以下のとおりです。

  • 自分の子どもの写真をSNSに載せると肖像権侵害になる?
  • 芸能人の写真を無断利用すると、パブリシティ権の侵害になる?
  • 著作権や表現の自由との関係は?

自身が抱える肖像権に関する疑問を解決するために、目を通してみてください。

自分の子どもの写真をSNSに載せると肖像権侵害になる?

親が無断で子どもの写真をSNS上に公表することは、子どもの肖像権侵害やプライバシー権侵害になりえます。

日本国憲法第13条では、子どもも含め、すべての国民に人権が認められているためです。

子どもが嫌がったり、乗り気でなかったりする場合は、無断で写真を掲載するのは避けたほうがいいでしょう。

参照: e-Gov法令検索「日本国憲法

芸能人の写真を無断利用すると、パブリシティ権の侵害になる?

芸能人の肖像や氏名を無断で使用したり、無断で写真集やブロマイドなどを制作し販売することは、肖像権(パブリシティ権)の侵害です。

本人もしくは、所属事務所からのクレームや訴訟につながる可能性があります。

著名人の写真や名前など、肖像の商用利用を考えている場合は、以下の手続きが必要です。

  • 本人と肖像の利用許諾契約やライセンス契約を結ぶ
  • 著名人の所属事務所と肖像の利用許諾契約やライセンス契約を結ぶ

芸能人の写真を使いたいけれど、肖像権が気になる…という方は、こちらの記事もぜひお読みください。

▼関連記事
芸能人の写真を使いたいけど無断使用でも大丈夫?法律や安心して使える方法を解説

著作権や表現の自由との関係は?

著作権や表現の自由は、写真の撮影者(=著作者)に認められている権利です。一方で肖像権は、写真の被撮影者を保護する権利になります。

表現の自由は、日本国憲法第21条で認められている国民の権利で、著作権は「著作権法」によって規定されています。

被写体がいる写真を扱う場合には、著作者との間で著作権や著作者人格権に関する権利処理が必要です。同時に、被撮影者との関係で肖像権に関する権利処理も行わなければなりません。

参照:e-Gov法令検索「日本国憲法

参照:e-Gov法令検索「著作権法

【まとめ】写真の撮影・公開時には肖像権への配慮を忘れずに

肖像権とは、私生活の写真を無断で撮影・公表・利用されないための権利です。肖像権は、以下の2種類の権利に分類されます。

プライバシー権(人格権)

自分の容姿・外見などを他者から無断で撮影・公開されないための権利

パブリシティ権(財産権)

芸能人やスポーツ選手などの著名人の肖像や氏名がもつ経済的な利益・価値を保護するための権利

肖像権の侵害を受けて、当事者が削除依頼に応じない場合、民事訴訟を起こすことも可能です。損害賠償請求や名誉毀損を訴えられます。

反対に肖像権を侵害した際には、民事責任を問われる可能性があるため、注意が必要です。写真の撮影や公開時には、肖像権への配慮を忘れないようにしましょう。

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