マネージャーとして一番大事なのは、人間としての総合力。明石家さんま、ダウンタウンを支えた中井が語るマネージャー論
#インタビュー
2023.09.25

マネージャーとして一番大事なのは、人間としての総合力。明石家さんま、ダウンタウンを支えた中井が語るマネージャー論

吉本興業で、数々のタレントのマネージャーを務め、現在、日本音楽事業者協会の専務理事を務める中井秀範さん。3回にわたって、その豊富な経験や貴重なお話を語ってもらいました。第1回目は、マネージャーとしての心がまえ。ダウンタウン誕生秘話も必見です。

INDEX
  1. 仕事の原則はタレントにとってプラスなのかマイナスなのか
  2. ダウンタウンが売れていないときは、できることを仕込んだ
  3. すごいマネージャーは自分で本を書ける
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中井秀範/なかいひでのり日本音楽事業者協会

1958年10月22日生まれ。富山県高岡市出身。1981年に吉本興業に入社。笑福亭仁鶴、六代桂文枝、桂文珍、明石家さんま、ダウンタウンらのマネージャーを歴任。心斎橋筋2丁目劇場の創設、吉本新喜劇プロジェクト等にたずさわり、よしもとファンダンゴ代表取締役社長、吉本音楽出版代表取締役などを歴任。2015年に吉本興業を退社し。一般社団法人日本音楽事業者協会専務理事、映像コンテンツ権利処理機構理事に就任。情報経営イノベーション専門職大学超客員教授や関西大学専任講師、大阪・関西万博催事検討会議の委員も務める。

仕事の原則はタレントにとってプラスなのかマイナスなのか

インタビュー、いつぶりですか?

インタビューはもうしょっちゅう。昨日は音事協の違法薬物撲滅動画記者会見でしゃべったし、この間は、ラジオ関西で僕の友達のCEO(セオ)くん、佐藤俊介って友達がやっているラジオでしゃべったし。しゃべりはね、もう仕事の一部なので。ガキの使いに出演したときには、浜田に「芸人よりしゃべりが上手い」と言われた(笑。

それは経験上身につけたスキルなんですか?それとももって生まれた才能ですか?

元々の素質もありますけど(笑)、基本的には口だけで何億稼いでいる人を、この口で説得して仕事させているという経験で身につけたものだと思います。それはなまじなトーク力では、日本のトークの頂点の人を納得させられないですから。

マネージャーとして、心掛けていたことはありますか?

僕自身は、今までのマネージャーがやってきたこととは全然違うやり方を編み出してタレントを売ったとかっていうことはないんですよ。なぜかというと、自分が担当した人たちって、とてつもなく才能のある人ばかりで小細工がいらなかったから。

入社して初めてついたのが今の6代桂文枝師匠。この人は当時も大スターだった。その後は、東京事務所行って、大阪から東京に来ている人たちのフォローをするっていう仕事をしていて、また、大阪に戻って明石家さんまさんのマネージャーをやって。この頃にはさんまさんも、東京でも顔が売れていてとても忙しい状態。別に僕じゃなくても誰でもできたっていうか。文珍さん、仁鶴さんという大御所のマネージャーが東京に転勤になったので、僕がさんまさん担当から御二人の担当に変わったんです。

年上の大先輩だし、心がけていたことといえば、この人たちにとってこの仕事はプラスになるかマイナスになるかということ。ギャラが高いけどやってもしょうがない、ギャラは安いし、時間も食うけど将来のためにやっといた方がいい仕事とか、いろんな仕事があるわけですよ。幸いなことに、吉本興業という会社は、口はばかった言い方ですけど、お金があったんで(笑)。目の前のお金を取りに行かなくてもよかったんですよ。だから、スケジュールいっぱい取られてギャラもそんなに高くないけど、でもやっぱりドラマ出しておこうとか。営業で地方行って呼ばれたところでわっと一回しゃべればドラマ1話分くらいもらえちゃうみたいなことがあったんですけど、今この時期は、ドラマやっとけば将来にもつながる話だからっていうようなことだけは常に考えていましたね。この人にとってプラスなのかマイナスなのかってことですよね。

上司から当時言われたのは、例えば「局から仕事の依頼があって、本人がやりたいって言っても、お前がこれやるとマイナスだと思ったら、それは断れ」と。逆に「本人がやりたくないと思っていても、お前がこの仕事をやるべきだと思ったら、タレントを説得して受けろ」と。仕事の原則って、それだけなんですよ。

当時の吉本興業は売れっ子にしかマネージャーがつかないんで、変な話ですけど選別するのが仕事だったともいえます。

ダウンタウンが売れていないときは、できることを仕込んだ

新人のマネージャーの経験は?

新人を売り込むってこととか、あんまりやったことがないんですよ。文珍さん、仁鶴さんという超大御所のマネージャーをやりながら、まだマネージャーのいないダウンタウンと出会ったんです。吉本興業ってマネージャーやりながら劇場のプロデューサーみたいなこともやるんですね。担当として京都花月という京都の劇場の担当をやっていて、そのときの上司が、この間まで吉本興業の会長をやっていた大﨑さん。この2人でやっていたんですけど。その京都花月チームで、本社の下にある当時南海ホールって呼んでいた、後に改装して心斎橋筋2丁目劇場というのをやることになって。114席しかない小さな劇場で、到底黒字化は難しいから将来性に賭けようじゃないかと。大﨑さんが「ダウンタウンの劇場にしようや!」って言って。そこからなんとなくダウンタウンのマネージャーも始めることになってね。それが売れてない若手のマネージャーとして初めてやった仕事ですね。

ダウンタウンは売れると思っていましたか?

ひたすら才能があって、こいつらが一番面白いと思っていた。そのうちどっかで売れるだろうと思いながらで、同期のハイヒールとかトミーズが先に売れちゃって。お笑い好きの大人の人たちはすごいダウンタウンのこと好きだったんですけど、若い女の子が来てくれないと劇場的には盛り上がらないし、儲からない。で、なんとか色々試行錯誤というかそのうち絶対売れるんだから、今の暇なうちにできることを仕込んでおこうみたいなことがあって。寄席をやりつつも2ヶ月に1回『心斎橋筋2丁目物語』というお芝居をやらせて、その中でダンスをやらせたり、歌をやらせたりしながら、今のうちにちゃんと身につけておこうと。それが、将来のドラマの演技とかにも役に立っているというか。

松本はね、中居君とやった『伝説の教師』しかドラマはないんですけど、映画では自分で主演したりしているじゃないですか。正直、ひいき目も大きいですけど、そんなに役者さんと比べても遜色ないというか。演技力に関しては浜田もそうですけど、松本もね。浜田なんかたくさん連続ドラマ出て、松本も映画とかテレビで演技している。そのあたりのことは、売れる前に忙しくなる前にやっとこうみたいなことがあったから。

でも、そのころ相変わらずやっぱり収入的にはしんどくて、ある日、松本が「中井さん、今月12万しかなかったんですよ。やっていけませんわ」って言うから「なに言ってんねん!お前、来年から倍々ゲームや」って言って(笑)。その場だけ取りつくろって(笑)。ちょっと今から考えたらひどいヤツだな(笑)、何の根拠もなかったんですよ。来年から倍々ゲームやでって言っても。でも、なんか信じてたって感じですかね。松本もなんとなく納得はしてないけど、これ以上言ってもムダか!みたいな感じだった。実際はもう倍々どこじゃなかったんですけどね

ただ、そのときにすごくよかったなと思ったのは、文枝師匠の現場をやって、さんまさんやって、仁鶴さん、文珍さんのマネージャーをやっていたんで、局の人たちには顔ができているわけじゃないですか。で、それなりに人となりもわかっていただいているし、大きな芸人さんのマネージャーもやっているんで頼みやすいんですよね。「ダウンタウンもどこか出してくださいよ」って。そこだけが売り込みのときに有利だったかな。

すごいマネージャーは自分で本を書ける

タレントを売り込むときの基本は人脈ですか?

マネージャーの信用が結構大きくて、こいつが言うんだったら大丈夫だろうと思ってもらわないと。マネージャーが嫌われていると、タレントさんにいくら資質があっても頼まれたら嫌だよっていう人が出てくる。ここが面白いところなんですけどね。僕はいまだにすごく嬉しかったのは、やしきたかじんさんがラジオをやっていて、『心斎橋筋2丁目物語』の告知を兼ねてダウンタウンがゲストで行ったんですよ。ラジオでね、たかじんさんが「お前ら絶対売れるで!」って言ってくれて。「なんでわかるんですか?」って聞いたら、「中井ちゃんがマネージャーやっているからや」って言ってくれたんですよ。本当に泣きそうになりましたよ。やっぱりそれまでに築いてきた人間関係みたいなのが、ちゃんと伝わっていて嬉しかったなあ。

マネージャーに向いている人はどういう人ですか?

マネージャーとして一番大事なのは、人間としての総合力みたいなことなんですよね。大事なのは教養だったりするわけですよ。ある種ゼネラリストがいいのかな。スペシャリストではなくて、いろんなことを知っていないと。ドラマの話が来ました。そうすると、ちゃんと台本を読んでいい話か悪い話か、いい本か悪い本か、ヒットするかしないか、役者に合っているか合っていないかみたいなことを、ちゃんと判断できないとダメですしね。

役者さんのマネージャーで、この人やっぱりすごいマネージャーだなと思う人は、みんな自分で本を書ける人たち。本を作れる人、というか平田崑さんっていうヒラタオフィスの創立者の方なんかは、ちゃんと自分で台本作ったりできるんですよ。書くのは脚本家ですけど、脚本家と打ち合わせして、自分のマネジメントしている役者さんを主人公にして本を作れる人。僕の身近で言うと、國村隼さんのマネージャーの尾中さんっていう僕の演劇での師匠みたいな人がいるんですけど、その人もやっぱりちゃんと本が作れる。『吉本百年物語』って吉本興業100周年でお芝居やったんですけど、その本は脚本家は別ですけどほとんどその方が作っている。そういうお芝居を作るときでも、ちゃんと歌舞伎もミュージカルも浄瑠璃も見ておかないとわからないんで。人形浄瑠璃の文楽とかって、東京の方はあんまり見ないかもしれないですけど、大阪はもっと身近なものですね。中学とかでみんなで見に行ったりするんです。ちゃんと見たら面白かったりするんですけどね。本をたくさん読んだり、映画もいっぱい見たり、お芝居もいっぱい見たりとか、そういうインプットがすごくないと、やっぱりアウトプットもできない

社会人になってからなんですか?

いや、学生の時からですね。本を読むのは中高生からですけど、お芝居とかは大学に入ってから。でも、全然エンタテインメントの仕事に就くつもりもなかったので。どっちかというと学者になろうかと思っていたタイプなので。

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撮影/小野博史

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