マネージャーは世界で一番のファンであり、厳しい客になるべき。多種多様な時代を迎えた業界をどう見るか
#インタビュー
2023.09.13

マネージャーは世界で一番のファンであり、厳しい客になるべき。多種多様な時代を迎えた業界をどう見るか

3回にわたる中井秀範さんのインタビュー。2回目の今回は、マネージャーへのアドバイスを中心に、現在のタレントさんのSNSなどの意見をお聞きしました。吉本興業に入社した経緯など、普段お聞きできないようなお話も出てきます。

INDEX
  1. 目の前で売れていく経験はプライスレス
  2. いいところを伸ばす、弱点は消していく
  3. タレントにとって多種多様な時代がやってきた
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中井秀範/なかいひでのり日本音楽事業者協会

1958年10月22日生まれ。富山県高岡市出身。1981年に吉本興業に入社。笑福亭仁鶴、六代桂文枝、桂文珍、明石家さんま、ダウンタウンらのマネージャーを歴任。心斎橋筋2丁目劇場の創設、吉本新喜劇プロジェクト等にたずさわり、よしもとファンダンゴ代表取締役社長、吉本音楽出版代表取締役などを歴任。2015年に吉本興業を退社し。一般社団法人日本音楽事業者協会専務理事、映像コンテンツ権利処理機構理事に就任。情報経営イノベーション専門職大学超客員教授や関西大学専任講師、大阪・関西万博催事検討会議の委員も務める。

目の前で売れていく経験はプライスレス

そもそも吉本興業に入社したきっかけはなんですか?

これがまた話せば長いんですけど(笑)。大学に入るまであんまり勉強しなかったんだけど、大学に入ってから勉強が面白くなってね。憲法とか行政法をやっていて、大学院に行こうかなと思ったんですよ。京都大学の大学院に行こうかなと。
学部では入れなかった学校なので、大学院は京都に行こうと思っていたんですけど、入試試験直前に体調を崩しちゃって、試験を受けられなくてね。全然就職の準備していなかったのでどうしようかなと思って。

当時は、みんな銀行とか内定がすでに出ていて、間に合うのはマスコミぐらいしかなかったんですよ。マスコミっていっても、マスコミに入る勉強もしてないし、テレビ局入ったってお笑い番組やりたいけど営業とかやりたくないし、報道とかも柄じゃないし、と思って学校をブラブラ歩いていたら、今はマイナビとかで見るんだろうけど、昔は学校の掲示板に求人表が貼ってあったんですよ。西校舎の壁いっぱいに。何百枚ある中から1枚なんとなく目に入ってきた。光ってみえたというか。それが、吉本興業。「すごい!吉本って求人してるやん」って。当時は、当塾出身者ゼロってあって。そりゃそうですよね。

仕事としては、舞台とかテレビ、ラジオの番組制作って書いてあって、これだ!と思って応募した。案の定、通りまして今日に至るっていうね。親には「吉本興業ってお前!」って言われましたけど、当時まだ一部上場だったんで「一部上場会社やぞ!」って言って入社したっていう程度の話なんですけどね。(運命なのでは?)いや、ちょっとドラマチックにしようと(笑)。ただ、ぼーっと見ていただけで(笑)。あの1枚の求人にこれは縁だなと思って。

マネージャーをしていて、一番のやりがいは何ですか?

やりがいはね。もうあれですよ!目の前でスターになっていくんですよ。それはね、なにものにも変えられないというか。もうね、見る見るこう売れていくんですよ、ぐわっと。もう街は歩けなくなるんですよ。番組終わった後も出待ちが多いから。もう本当に日々売れていくのが実感できるんですよね。心斎橋筋2丁目劇場始めたときは、チケットが14枚しか売れなくてというところから始まって、満杯になる、そして次の月にはもうその倍になるみたいな。で、テレビが始まりました。始まってしばらくちょっと苦戦をしつつ、でも夏休みになった途端に爆発して、女子中高生のみんなも心斎橋に来る。近所から「朝から並ばれたら商売にならん。なんとかしてくれ」みたいな苦情が来て。もう実感できるんですよね。わー!売れてきたー!スターになってきたー!っていうのがね。これはなんでしょうね。なにものにもお金に代えられないプライスレスな経験ですよね。

マネージャーは担当のタレントさんに惚れ込んでいるってことなんですか?

僕が思うマネージャーというのは、やっぱり世界で一番のファンにならなきゃいけないし、同時に世界で一番厳しいファンでなければいけないと思っているんです。ダウンタウンのことは、俺が一番世界の誰よりもダウンタウンのことが好きで、でも一番厳しいのも僕で、というつもりでやってきました。だから、いまだにあれですよ。テレビ見てもマネージャー視線で見ています。「浜田。それはあかん!」とか(笑)。これはもうもうサガですね。

ダウンタウンにはそのことを言ったりしないんですか?

本人には言いませんでしたけど、高須君という放送作家がいてダウンタウンの同級生なんですよ。彼のラジオに呼ばれてしゃべったときに、それを言いましたね。そこに食いついた聴取者の方がいらっしゃって、その話を東野のラジオに投稿していました。

いいところを伸ばす、弱点は消していく

現在マネージャーをされている方にもしアドバイスするとしたら?

さっきも言った通りで、まず一番のファンになってあげる。そして、一番厳しいお客さんにもなる。それを努力してみてできなかったら、担当替えした方がいい。これはね、人間対人間なんで、相性があるんですよ。もちろん、強烈な個性を持った人が、言葉は悪いですけど商品なわけですよね。そうなると、やっぱり評価っていうのはすごく難しいんですよ。同じものをみんなで売っていたら、一番たくさん売ったやつが一番有能な営業マンですけど、タレントってそれぞれ違いますから

さんまさんのマネージャーやっていたやつが、今年は去年より1億円以上上積みしましたっていうのと、全然無名だったやつを年収1000万円にしました。1億と1000万だけどどっちが値打ちがあるのかって、それはねあんまり判断できないというか、基本的には0→1のやつを評価したいっていうのがあるんですけどね。でも、トップまで行っちゃっている人を、まだ上積みさせたっていうのは、これもやっぱりすごいので。

マネージャーの趣味思考もあるし、タレントさんのやりたいこととマネージャーがやってもらいたいことがバシッと合えば一番理想的なんですけど。そこがあってうまくいかないんだったらやっぱり、それはもう変わったりした方がいいかもしれない。

でも、まずは一番のファンになってあげる、そして一番厳しい客になるということを実践してみたらどうかなと思うんですね。そのタレント、アーティスト、役者なんかの一番の大ファンになると、その人のいいところが全部見えるんですよ。この特性はどうやって生かしたらいいのかって。一番厳しい客になると、このタレントの欠点がわかるんですよ。じゃあ、この欠点弱点をどうすればいいかって考えるのがマネージャーの仕事なんで。いいところを伸ばす、弱点を消していく、それしかないんですよね

今はマネージャー希望って多いんですか?

どうなんでしょう。ここ10年以上は、採用にはあまりかかわってこなかったので。僕もマネージャーなんか別にやる気なかったですし、一人っ子で我がままだし(笑)。他人のために働くなんて真っ平だと思っていたので。でも、いざやってみて、自分より業界の大先輩の芸人さんから学んだことを活かしながら、若手芸人が目の前でスターになっていくっていう、それは自分のことのように嬉しいっていう達成感みたいなもの味わえた。こんなマネージャーは、本当に幸せで、全部のマネージャーが味わえるかどうかはわからない。
僕は本当にとんでもない幸せ者。ダウンタウンに関しては、売れていない頃からマネージャーして、大阪で天下を取るまで自分ができたんで。そういう意味では、みんながみんな、こんな幸せなマネージャー人生を送れるわけではないと思う。

業界に入りたいという人たちにマネージャーの仕事の内容を伝えるという基本的なことがとにかく難しい。銀行マンだったらどんな仕事をするのかなってなんとなくわかるじゃないですか。銀行マンならこんな感じ、商社マンだったら海外に行って色んなものを売ったり買ったりしてとか、なんとなく仕事のイメージって見えてくるんですけど。テレビのディレクターもそうですよね、わかりますよね。なんとなくね。でも、マネージャーってなにをやっているのかわからないですよ。大方の人が、マネージャーと付き人というのとごっちゃにしちゃっているんで。タレントがさっそうと歩いていく後ろに、いっぱい荷物持って歩いている人がマネージャーだと思っている。みんな違うというか捉え方が間違っている。かといって、事務所側がやりたくもない仕事を無理やりやらせているみたいな、そういうマネージャー像も間違っているし。マネージャーの仕事はこんな仕事なんですよ!っていうのを伝えにくい。もともと皆さんが想像しにくい仕事なので、本当に難しいですよね。

僕のときは、吉本興業の内定者懇談会みたいなのがあって、5人いた中の1人が「僕ら吉本入ったらどんな仕事するんですか?」って聞いたら、「まあ、こんなとこで会議したり、そんな感じやねん」って。「どんな感じやねん!ええかげんな会社やな」って思った(笑)。それを言っていたのは総務の人だったんで、「このおっさんも仕事わかってへんやろな」っていう話を新入社員みんなでしたことがありました。適当すぎるやろって(笑)。

タレントにとって多種多様な時代がやってきた

タレントさんも当時と今で、変化はありますか?SNSも普及していますが?

僕は吉本興業でしか働いたことがないのですが、吉本は結構ちゃんと管理できているなと思う。SNSをアップする前に吉本のマネージャーとか配信関係の部署の連中がみんなちゃんと携わっていているから。

タレントのSNSは積極的にやるべきだとお考えですか?

そうですね。SNSはなにが画期的かっていうと、昔はマスメディアしかなかったので、売れてラジオ番組とかテレビ番組に出してもらえるようになって、初めて自分の存在とか自分の意見を一般に伝えられた。ところが、今SNSがあるので、全然売れていないペーペーでも自分の表現活動ができるわけですよね。そういう意味で言うと、そこで離されちゃうやつもいるし、マスメディアには向いてないけど、こういうところでちゃんと仕事もできるやつもいるし。あとちょっと賢いやつは、テレビには忘れられない程度に顔だけ出しておいて、本ちゃんはこっちで儲けていたり、YouTubeで頑張りますみたいな人もいたりね。それも、多種多様で、ダイバーシティじゃないですけど、とってもいいことだなと思っている。

働き方も色々多種多様で、特にコロナで劇場がしばらく閉まっちゃったりしたときに、自分たちで自宅劇場みたいなことを家から配信して、それをネットでお客さんが見てくださって、劇場のギャラよりもたくさん稼いだりという人も出てきた。表現するメディアが増えれば増えるほど、働き場が増えるんで、それはウェルカムですね。

吉本の場合、6,000人くらい芸人がいるけど、それが全員テレビや劇場に出られるわけじゃないので。だったらどうする?地方に住んでみるのもいいだろうし、ネット中心にやってみるのもいいだろうし。色々みんな考えて試行錯誤してやっていくと、その選択肢が多ければ多いほどいいと思っている。だから、吉本興業はテレビに出たかったらBSよしもとっていう放送局もあるし、よしもとミュージックっていうレコード会社もあります。配信部門もあるし、出版社もあります。劇場も15個あります。このプラットフォームの上で楽しんで、自分たちの表現をやりましょうっていう恵まれた環境があるから、みんな辞めないんでしょうね。事務所辞める子が少ない。

最近のYouTuberについてはどう思われますか?

素人さんでもすごく面白いことやっている方もいらっしゃるし、意義のあることをやっている方もいらっしゃるので、それは全然否定するものではないですね。やっぱり一番よくないのは、稼ぐためにだんだんエスカレートしてきたり、迷惑系とか称される人たちとか、あるいは暴露系と称される人たちはあんまり歓迎できない。そういう人たちにはそれなりの末路は待っているとは思います。だって、そんなのは続くわけがないじゃないですか。人を呪えば穴二つではないですけど、必ず逆襲されたり、自分が言ったことでガンジガラメになっちゃったり、知らず知らずのうちに法の一線を踏み越えていたりして、パクられる人が出てきますので、まあよくないですね。それより一番よくないのは、匿名というところを利用して誹謗中傷を暇つぶしみたいにやっている人たち。これはちょっと大いに気をつけてもらわないと。今一番頭痛いものですね。

続きはこちら。

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