東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。
『クイズ!ヘキサゴン』シリーズや『全力!脱力タイムズ』など数々の人気番組を世に送り出し、フジテレビ人気を支えてきた神原孝さんへのインタビュー。後編の当記事では、“テレビ離れ”が問題視されて久しい昨今、テレビ業界が抱える課題についてお話しいただいています。
神原 孝
フジクリエイティブコーポレーション(FCC)執行役員。1991年にフジテレビに入社後、『とんねるずのみなさんのおかげです』をはじめとする人気番組のディレクターを務め、『クイズ!ヘキサゴン』シリーズ(総合演出・チーフプロデューサー)、『爆笑レッドカーペット』(チーフプロデューサー)、『アイドリング!!!』(制作)など数多くのバラエティ番組を生み出してきた。現在は『全力!脱力タイムズ』(チーフプロデューサー)などに携わる。
「テレビ離れ」が懸念されていたり、コンプライアンスが厳しくなったり、テレビ業界は変革の時を迎えていると思いますが、こと制作スタッフがキャリアを積むという面においては、どのように変化してきましたか?
昔はADさんから始めて、ディレクターの仕事を覚えてディレクターになって、全体のコンセプトを作ってパーツを組み立てられる演出家になって、そこからもっと人を集めたり、お金を集めたりできるコントロールできるプロデューサーになっていくという流れが、ある程度決まっていたんですが、今ではADさんからAPさん、つまり一足飛びにアシスタントプロデューサーになって、そこからプロデューサーになる人がいたり、いろんなルートができてきましたね。
ADさんの経験がほとんどないままいきなりディレクターになる人もいます。「動画編集」というと昔は特殊な作業というイメージがありましたが、今はもうパソコンで、下手するとスマホで簡単にできる時代なので、ADになってディレクターの仕事を覚えるという時間が必要なくなってきているんです。
特にAD時代が一番作業的にきついから、その期間が長いと「私たちいつになったらディレクターになれるんですか」って辞めていっちゃう子もいて、ここを簡略化していかないと続かないという傾向もあるかなと。動画を作るのが好きでテレビ業界に入ったのなら、テレビにこだわらなくてもYouTubeで似たことはできますからね。
早く打席に立たせてあげることが大事だと思っています。でもまだ「ADを5年やって、ロケ企画のディレクターを3年やって、深夜番組を作って、そこからようやくゴールデンの番組へ」という感覚が残っている大人たちがいるから、そのあたりを変えないと夢のない業界になっちゃうと懸念もしています。
僕らの時代と比べると、やっぱり圧倒的に画作りのうまい子が増えてきていますもんね。でもテレビ番組を作るにはそれだけじゃなくて、構成を立てたり、企画を回したりっていう部分も必要なので、そこを我々がサポートして足りないところを補完していくことで経験を積んでもらう、そうやって若い子たちが楽しくクリエイティブできる環境を作ることが大事だと思います。
テレビ離れが進んでいるといわれることについてはどう思われますか?
テレビ離れの原因は、観たい番組がないからだと思いますよ。
ずっと番組制作をされてきた方がそんなことを言っちゃうんですね(笑)。
でも実際そうじゃないですか。家に帰って観たい番組がないんですよ。特にうちは子どもがまだ小さいんですけど、家族で一緒にワイワイ話せる番組が少ないと感じます。
YouTubeを観ていると「こういうのを今の子たちはおもしろがっているんだな」というのがわかると同時に、「この世界はやっぱり今のテレビにはないな」とも思いますね。
実際いまのテレビのメインターゲットってやっぱり40歳以上の人たちで、その人たちにササらなかったらスポンサーにお金をもらえなくなっちゃうから、どうしてもそこをターゲットに絞らざるをえなくて、まぁ悲しいかな、そうなれば若い層は余計に観なくなっちゃいますよね。
「テレビが視聴者を育てなくちゃいけない」ってずっと言いつづけているんです。でも育てるのを一時期放棄してきてしまった、そのツケがいま回ってきているんじゃないかなと。
昔は今と違って、夜の7時台にアニメとか、子ども向けの番組がいっぱいあったんですよ。これは僕個人の意見なんですけど、特にフジテレビは一番子ども向けの番組が少ないと思います。
もちろんアニメ番組はありますけど、たとえば『ワンピース』や『サザエさん』って子ども向けかどうかといわれると、ちょっと違う気がするんですよね。そうなると、子どもが「8」を押す習慣を忘れてしまうと思っています。
だから子ども向けの番組を作るべきだし、中高生向けの番組も作るべき。フジテレビといえば、かつては『夕やけニャンニャン』(フジテレビ系、1985年〜1987年)や『オールナイトフジ』(フジテレビ系、1969年〜1975年、1983年〜1991年)、『オレたちひょうきん族』(フジテレビ系、1981年〜1989年)とブランド化するほどの人気番組がたくさんあって、「8を押すとなにかあるんだろうな」と思われてきました。
でも今はいい時間帯に若い子向けの番組を放送していないから、子どものころから8を押す癖がなくなってしまって、大きくなってからも選択しないようになってしまったと思います。どんなにおもしろいものを作っても、選ばれなければ観てもらえないので、数字は落ち込んでいき、特に今の時代は数字にシビアだから「子ども番組は視聴率とれないよね」「じゃあやらないほうがいいね」と悪循環を生み出しているわけです。
どこかで立ち返って、今から子ども番組を作って、それでようやく10年後に視聴者が戻ってくる感じかなと。結局「若者がテレビ離れしている」っていわれていますけど、魅力的な番組があれば観るんですよ。だから僕は、投資だという気持ちで今から始めたほうがいいと思っています。
つい企業活動よりも目先のことを重視しちゃいがちですけど、これだけなんでも選べる時代なので、「テレビは今後どうなっていくのか」というビジョンを持って、未来に向けてモノづくりをしていくことが大事なんじゃないでしょうか。
僕自身は今56歳なんですけど、50代の人間が一から番組を立ち上げたとして、もちろんおもしろいものを作る自信はあるけれど、「それって、だれに向けた番組なの?」って思いません(笑)?
だから僕は枠だけ取ってきて、若い子に「はい、作って」って渡すっていうことをしたいんですよね。「それでおもしろいモノを作れたらおじさんにも参加させてね」って。
僕が『ヘキサゴン』を立ち上げたのは30代半ばで、そのときに大人はだれも管理しなかったんです。「ああしなきゃだめ」「こうしなきゃだめ」なんてことは一切言われませんでした。本当に野放しで、その代わり責任を取らなきゃいけないっていうプレッシャーはありましたけど。
今は業界内に大人が多くなりすぎちゃって、僕ら世代もまだまだ現役で番組を作れる立場だし、そうなると30代くらいの若手からすれば、50代の我々が「こうしなきゃいけないんじゃない?」って言ったら、こっちは「?」をつけているつもりでも、命令に感じてしまうと思うんです。
そうすると彼らの発想ではなく、結局僕らが思い描く“おもしろい”になってしまうわけで、それじゃ今の若い人たちの“おもしろい”とは絶対違いますよね。というか、同じだったら進化していないわけだから逆に怖いですよね(笑)。実際、家で子どもと同じ番組を観ていても、子どもが笑う場面と僕が笑う場面って違いますもん。
そういうのもあって、個人的にはこれから10年先に楽しくなりそうな、テレビ以外の界隈に首を突っ込んだり、話を聞きに行ったりしている感じです。なにかあれば一緒に立ち上げたいなと。
会社にいてもずーっと縦読みの漫画を読んで、映像化の原作になりそうなものを探したり、あとは新しいアイドルのお披露目イベントに行ったり、SNSとか、最近はライブ配信も見ているし、女の子のメイク動画のBefore / After見て「本当にこんなに変わるの!?」とか思いながら流行りを追っていますね。
感覚がずっと若いですね。
若いというより、おもしろいことが起きるその場に自分がいないのが悔しいって感じかな。だから周りのだれかが興味を持っていることを聞くと「どういうものかな?」ってすぐチェックしに行くし。
今の世の中はやっぱり「体験型」であることがコアになっていると感じるので、それに対してテレビはどっちかといえば「発信型」だから、もっと複合的になにかやっていかなきゃと思いますね。
ライブなんて正直そこそこチケット代が高いのに、しっかりお金を払って2,3時間思いっきり楽しもう!っていう人たちがたくさんいます。この熱量は本当にすごいと思うので、ここにテレビを結びつけたいですよね。
昔はテレビといえば流行を発信するものでしたけど、今はSNSやリアルの場こそが流行の発信地。今のテレビは最後に火をつけて「やっぱり流行っているんだ」と確認してもらうものかな。
でもまだ利用される価値は充分にあると思っています。たまにChatGPTとかSNSとかのオンラインセミナーをのぞくんですけど、実はそういう最先端の現場にいる人たちもテレビを利用したいと思ってくれているんです。
だから今のうちに、いろんな人と一緒になって新しいモノづくりの仕組みを生み出すことで、テレビというものがもう1段階上のエンターテインメントの提供の場に変わっていくんじゃないかなと思いますね。
そのためにも難しいのはやっぱり権利問題。たとえば今、テレビの切り抜き動画がSNSでも多く見られるけど、基本的に無断で載せているのは全部違法ですよね。でもそうやって話題になることが人気のバロメーターとして測ることもできるし、評価軸になる時代もやってくるんじゃないかなと。
そうなったら広告の価値も上がって、テレビそのものの価値が高まるだけではなく、切り抜く人たちにもコンプライアンスとかセンスが求められるようになるから、できない人は淘汰されていくという自浄作用がはたらくんじゃないでしょうか。
見ていると、テロップの入れ方ひとつとっても、センスのいい人もいるんですよ。こういう人たちが育ってくれたらもっとおもしろくなるなと思っています。
昔からよく「テレビとwebの融合」ってキーワードを聞くけど、お互いが相乗効果を生み出すことはあっても融合することなんて絶対ないと思うんです。だってテレビとネットを同時に見るなんて、そんなめんどくさいことしないでしょう。
だからSNSをどう遊べるか、どう利用できるか、あるいはSNSがどうテレビを料理できるかっていうところがクリアになることで、たぶんテレビという媒体は、もっとおもしろいものになっていくんじゃないかなぁ。
僕にとってはテレビというものは、仕事場であり、遊び場であり、という感覚なので、ずっと楽しいです。新しい番組を作るまで一生懸命時間をかけて会議をして構成を立てて、スタジオ収録しながらゲラゲラ笑って、編集をしながらゲラゲラ笑って、放送してまたゲラゲラ笑って……。
一度これを経験しちゃったらもうやめられなくなるので、本当はもっと多くの若い人たちにも体験してほしいなと思うけど、今はやっぱり就職先としてのランクは下がってきています。
これは僕らの責任なんだろうなと思うんです。もっと番組づくりの楽しさを伝えなきゃいけない、そのためにはやっぱり本人たちが当事者にならなきゃいけない、それなら自分たちが責任を取って、「失敗しようがなんだっていいんだぜ」っていう環境を整えることが僕らの仕事なのかなと。
やっぱり業界内には「失敗を避けたい」という意識が強いのでしょうか?
強いと思います。でもそれは会社員なら当然ですよね。大事なのは失敗しないことではなく、失敗したあとにどう振る舞うのか、どうやってそれをプラスに変換するのかってことなんですけど、今は業界だけでなく社会全体として失敗をおそれる節があるから、苦しい時代ですよね……。
失敗すると目立ってしまうから、なにもしないことが一番無難だと認識されていると思います。でも、新しいことに挑戦して失敗しちゃった人よりも、ただなにもしていない人のほうが評価されるのはやっぱりおかしいですよね。
おもしろいものはおもしろいと思っているうちにやらないと、1回考えはじめると大体どこかで煮詰まって、「やっぱりやらない」という選択をしてしまうから。なにか思いついたらすぐにやる、それが一番大事なことかもしれないですね。
(もう一度前編を読む)
東京生まれ、渋谷ラバー。2011年小説『空のつくりかた』刊行。その後アパレル企業のコピーライティングをしたり、webメディアを立ち上げたり。最近の悩みは、趣味が多すぎてなにも極められないこと。でもそんな自分が好きです。