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「クラシック音楽には著作権がないから自由に使える?」「YouTube上で著作権を気にせずクラシック音楽を使ってもいい?」
結婚式や店舗のBGM、SNSなどにクラシック音楽作品を利用する際、このような疑問を持つ方は多いのではないでしょうか。
クラシック音楽作品には著作権が切れているものもありますが、すべてが自由に使えるとは限りません。
本記事では、クラシック音楽の著作権の取り扱いや確認方法、実際に利用する際の注意点を解説します。著作権を侵害せずにクラシック音楽を活用したい方は、ぜひ参考にしてください。
「クラシック音楽には著作権がない」と考えるのは誤りです。誤解されがちですが、クラシック音楽作品にも著作権は存在します。
著作権が消滅しているのは、著作権の保護期間が過ぎたクラシック音楽作品のみであり、すべてのクラシック音楽作品に著作権がないわけではありません。クラシック音楽を利用する際は、曲ごとに著作権の有無を確認しましょう。
基本的な著作権の取り扱いや保護期間、音楽作品の著作権の有無を確認する方法を解説します。
クラシック音楽作品の著作権が切れるのは、著作者の死後70年を経過したときです。
クラシック音楽に限らず、すべての著作物は著作権法によって創作者の権利が保護されています。著作権は創作された時点で発生し、原則として特別な申請は必要ありません。音楽作品の場合は、作曲された時点で発生し、著作権保護の対象になります。
日本の著作権法においては、これまで著作権者の死後50年が保護期間でしたが、2018年の改正により、死後70年に延長されました。
それに従うと、クラシック音楽作品も作曲者の没年によって著作権の残っている曲は少なくありません。
たとえば、運動会のBGMなどでよく聞かれる「剣の舞」は、作曲者のアラム・ハチャトゥリアン(1978年没)の没年から50年以上が経過していないため、著作権が保護されています。そのため、楽曲を使用するには適切な対応が必要です。
クラシック音楽作品を使用する際は、著作権保護期間内かかどうか、しっかりと確認しましょう。
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作権って何?(はじめての著作権講座 )」
参照:ミュージック・ベルズ「著作権がまだ切れていない作曲家・作品リスト」
なお、著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
第二次世界大戦連合国の楽曲には戦時加算があり、著作者の死後から70年経っても著作権が切れていない可能性があります。戦時加算とは、通常の著作権の保護期間に戦時期間を加算することです。
サンフランシスコ平和条約において、日本は第二次世界大戦連合国の著作物に戦時加算をすると定められています。著作権者の国によって加算される年数が異なり、たとえばイタリアは6年間、フランスは約10年間と定められています。
そのため、作者の死後50年または70年が経過していても、戦時加算により著作権保護期間を過ぎていないケースがある点に注意しましょう。
クラシック音楽作品を利用する際は、第二次世界大戦連合国の楽曲かどうかを確認し、戦時加算年数を考慮して著作権の保護期間を確認することが大切です。
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作権は永遠に保護されるの?」
参照:文部科学省「著作権の保護期間に関する戦時加算について」
参照:JASRAC「戦時加算対象国および戦時加算日数一覧」
クラシック曲の著作権の有無は、JASRACの「J-WID(ジェイウィッド)」で確認できます。
JASRAC(一般社団法人日本音楽著作権協会)は、音楽の著作権を管理する団体の一つです。J-WIDはJASRACのホームページで公開されているデータベースで、使用したい楽曲の権利状況を細かく確認できます。
外国作品も検索対象に含まれており、作品タイトルや著作者名、アーティスト名などの項目から検索可能です。ただし、すべての楽曲の著作権がJASRACで管理されているわけではありません。
使用したい楽曲の詳細が閲覧できる場合は、各種権利の状況を確認しましょう。管理情報が「P.D.」と表示されているものは、著作権が消滅している楽曲です。
一方、情報が見つからない場合は作曲家本人や出版社が直接管理している可能性があるため、J-WIDに情報がない場合は、個別に権利者を調べる必要があります。
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作物を正しく利用するには? | 著作権って何? | 著作権Q&A」
参照:J-WID作品データベース検索サービス「表記説明」
クラシック音楽作品は著作権が切れても自由に使えるとは限りません。
その理由は以下のとおりです。
「パブリックドメインになったと思って使用したら、権利侵害をしていた」ということのないよう、関連する権利を知っておきましょう。
使用したいクラシック音楽作品の著作権保護期間が過ぎていても、演奏者やレコード会社の著作隣接権が切れていない場合は勝手に利用できません。
著作隣接権とは、演奏者やレコード会社など、著作物の伝達に関わる者に認められる権利です。たとえばモーツァルトやベートーヴェンの楽曲は、すでに著作権が消滅しているため自身で演奏したものを録音し、ネット上に公開することができます。
一方、現在市販されているCDなど、自分以外の人が演奏しているものは著作隣接権が切れていない可能性があるため、無断で使用したり、ダウンロードして利用したりすると、著作隣接権を侵害するおそれがあります。
音楽作品は、作曲家だけでなく実演家やレコード製作者、放送事業者などが権利を持つことが多いため、十分な確認が大切です。
著作物は、個人利用の範囲であれば著作権侵害にはなりません。しかし不特定多数に向けて使用される場合は商用利用扱いとなるため、結婚式のような個人的な集まりの場においても注意が必要です。
クラシック音楽を結婚式などのBGMに利用する際は、必ず権利者から許諾を得ましょう。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作隣接権とは?」
参照:文化庁「著作隣接権」
結婚式における適切なBGMの使い方は以下の記事で紹介しています。
著作権が切れていてその楽曲を自由に使えたとしても、編曲や替え歌は著作者人格権を侵害するおそれがあります。
著作者人格権とは、著作者の名誉や感情を守るための権利です。著作権とは異なり、他者へ譲渡されることはなく、著作者の死後も保護されます。
著作者人格権には公表権・氏名表示権・同一性保持権があり、編曲や替え歌は同一性保持権を侵害するおそれがあります。同一性保持権は、著作物の内容やタイトルを勝手に改変されない権利です。
すでに著作権が切れたクラシック音楽作品だとしても、著作者人格権は消滅しません。編曲や替え歌をする際は、著作者の意図しない改変をしないよう配慮することが大切です。
参照:公益社団法人著作権情報センター「著作者にはどんな権利がある?」
参照:埼玉の弁護士グリーンリーフ法律事務所「著作権と著作者人格権の違い (著作権の譲渡と利用許諾も含めて)」
参照:KIDS CRIC「①著作権とはどんな権利?|学ぼう著作権」
著作権を侵害せずにクラシック音楽作品を利用するには、権利者から使用許諾を得ることが重要です。音楽作品を使用する場合、著作権と著作隣接権の両方の権利者から許可を取りましょう。
著作権と著作隣接権は、JASRACなどの著作権管理団体がまとめて管理しているケースがあります。まずは管理団体に使用したい楽曲の権利を確認しましょう。作曲家本人や出版社などが管理している場合もあるため、使用前に管理元もしっかり把握しておく必要があります。
使用許諾を得ずにクラシック音楽を安全に利用したい場合は、パブリックドメインの作品のみを使用しましょう。
なお、著作権管理団体と利用許諾契約を締結しているプラットフォームにおいては、許諾なしでクラシック音楽作品を使用できます。ただし利用の際は、動画配信サイトなどの規約に違反しないよう注意が必要です。
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作物を正しく利用するには? | 著作権って何? | 著作権Q&A」
参照:一般社団法人日本音楽著作権協会JASRAC「JASRAC」
パブリックドメインについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
YouTubeはJASRACと利用許諾契約を結んでいます。そのためJASRAC管理楽曲であれば、著作権が切れていなくても利用規約の範囲内で使用可能です。利用許諾契約が締結されているサービスは、YouTubeの他にTikTokやInstagramなどがあります。
ただし市販CDなどの音源を使用する場合は取り扱いに注意が必要です。CDのような音源は、レコード会社などの製作者が著作隣接権を有しています。そのため、使用する際は音源の使用許諾を得なければなりません。
自分で演奏した場合、音源の使用許可は不要です。ただし商用利用や広告で収益を得る場合、別途申請が必要となる可能性があるため確認するようにしましょう。また、配信した動画をCD音源化して二次利用するような行為は認められていません。
参照:JASRAC「YouTubeなどの動画投稿(共有)サービスでの音楽利用」
参照:JASRAC「利用許諾契約を締結しているUGCサービスの一覧」
YouTubeにおける音楽の著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
クラシック音楽は著作権が切れていても、自由に利用できるとは限りません。
著作権は原則として著作権者の死後70年で切れますが、著作隣接権により保護されている可能性があります。
演奏や録音に関わる著作隣接権がある場合、楽曲の使用許諾を得なければなりません。使いたいクラシック曲がある場合は、権利の有無を確認し、管理事業者に使用許諾を得ることが重要です。
クラシック音楽の著作権や関連する権利を侵害しないように、取り扱いに注意して楽曲を利用しましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。