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『ポケットモンスター(略して「ポケモン」)』は、アニメ、映画、カードゲーム、フィギュアなど、世界中で大人気のコンテンツです。ポケモンは日本のコンテンツの中でも、最もメディアミックスに成功した事例のひとつとして知られています。
「ポケモンのメディアミックスによる成功の秘訣を知りたい」と考える方は多いでしょう。
本記事では、ポケモンのメディアミックス戦略と3つの成功要因を詳しく解説します。メディアミックス戦略を考えるうえで実用的なヒントになる内容のため、ぜひご覧ください。
ポケモンの成功の秘密となるのは、メディアミックス戦略です。メディアミックスとは、複数のメディアを組み合わせる手法を意味します。
金融会社Title Maxが2019年に発表したデータによると、ポケモンはメディアミックスで世界一成功しています。
引用:TITLEMAX「The 25 Highest-Grossing Media Franchises of All Time」
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ポケモンの収益額は累計で約921億ドル(約14兆円※2024年4月2日時点のドル円レートで計算)に達します。ハローキティ、くまのプーさん、スターウォーズ、ミッキーマウスを凌駕する経済的成果です。
ポケモンがいかに幅広いメディアを通じて世界中の人々に影響を与え、経済的な成功を収めたかがわかるでしょう。
ポケモンの成功はメディアミックスを通じた戦略的な展開によるものです。次項からはメディアごとにポケモンの成功を解説します。
なおこちらの記事では、ポケモンをふくめた有名IPの売上ランキングを詳しく解説しています。
ポケモンシリーズの原点は、革新的なオリジナルゲームにあります。
1996年2月27日に発売された『ポケットモンスター 赤・緑』は、当時としては新しいコンセプトを採用していました。要素ごとに解説します。
ポケモンのゲームでは、プレイヤーは直接戦うことはありません。代わりに、捕まえて訓練させたモンスターたちが戦闘の主役となります。
これによりプレイヤーにはキャラクターに対する愛着や育成の楽しみが生まれ、モンスターたちとの絆が深まりました。
ポケモンは可愛らしいキャラクターデザインで多くのファンを魅了しています。
もともとは、ポケットに入るモンスターを戦わせるという当初のコンセプト上、強さを感じさせるデザインを重視して制作されていました。
しかし、「集めて交換する」ことを考慮して「ピカチュウ」をはじめとする、親しみやすい造形のモンスターが多く生まれるようになったのです。
引用:ニンテンドー3DSバーチャルコンソール用ソフト『ポケットモンスター赤・緑・青・ピカチュウ』公式サイト「『ポケットモンスター』シリーズの原点 」
©1995, 1996, 1998 Nintendo/Creatures inc./GAME FREAK inc.
©2016 Pokémon. ©1995-2016 Nintendo/Creatures Inc. /GAME FREAK inc.
ポケモンシリーズを象徴するキャラクターであるピカチュウは、魅力的なデザインの代表です。ポケモンのデザインとゲームの制作を手掛ける株式会社ゲームフリークの杉森建さんは、ピカチュウに関して以下のように述べています。
“ポケモンの数が出そろってきたとき、一部を振るい落とさなければいけなかった。そこで、ドット画をプリントアウトして「どれが好きか」と社内で人気アンケートをとってみたのです。すると、(ピカチュウが)ダントツだったんですよ。(中略)(グッズの)売れ行きなどではなく、何か「熱」のようなものを感じるぐらい(ピカチュウは)流行していました。みんなピカチュウが好きだよな、という雰囲気があったと思います。当時はインターネットもなかったので、直接的には分からなかったのですが。”
引用:読売新聞「ピカチュウは大福? 初めて明かされる誕生秘話」
ポケモンの大きな特徴として、プレイヤー同士でモンスターを交換できる機能があります。
交換システムにより、プレイヤー間のコミュニティが形成され、ゲーム体験が社交的な側面をもつようになりました。
ポケモンのバトルシステムは、子どもから大人まで楽しめるほどの戦略性があります。
キャラクターごとにタイプや相性などが異なり、さまざまな要素を考える必要があるため、プレイヤーは自分なりの戦略が必要です。
戦略的なバトルシステムは、世界中のポケモンファンの挑戦心を掻き立て、現在では世界中で大会が開かれるまでになっています。
ポケモンが世界的に成功するようになった要因として、1997年に始まったテレビアニメシリーズが挙げられます。
テレビアニメ『ポケットモンスター』はゲームの世界観を広げ、新しいファン層を獲得しました。主題歌の『めざせポケモンマスター』は発売から半年で120万枚のミリオンセラーを記録。最終的にはアニメソングとして異例の200万枚を突破しました。
さらに、アニメの人気は日本だけにとどまらず、世界中に広がります。1998年にアメリカで放映が開始され、ポケモンブランドは世界的なものになりました。
翌年1999年に公開された映画『Pokemon The First Movie(邦題:劇場版ポケットモンスター ミュウツーの逆襲)』は、全米で8,574万ドル(約103億円※当時のドル円レートで計算)、全世界での興行収入が1億6,364万ドル(約196億円※当時のドル円レートで計算)を記録。圧倒的な影響を及ぼし、社会現象となりました。
参照:Box Office Mojo by IMDbPro「Pokémon: The First Movie - Mewtwo Strikes Back」
ポケモンカードの普及
1996年に発売されたポケモンカードは、日本発祥のトレーディングカードゲームとして長い歴史があります。
アニメの人気の影響もあり、ポケモンカードゲームは現在14ヶ国語に翻訳され、全世界で529億枚以上が販売される大ヒット商品です。世界で最も売れているトレーディングカードゲームとして親しまれています。
世界中で開催される大会やイベントでは、ファンコミュニティが育成され、ポケモンカードゲームの人気がさらに高まりました。
子どもから大人まで幅広い世代のプレイヤーが集まり、各国の言語のカードを使用してコミュニケーションを取りながら対戦を楽しんでいます。
参照:株式会社ポケモン「数字でみるポケモン」
ポケモンはライセンスビジネスにも注力し、成功を収めています。
2022年、ポケモン関連商品の市場規模は約1.7兆円(116億ドル)に達し、前年比で36.5%増加しました。売上には、以下のような幅広い製品が含まれています。
参照:gamesindustry.biz「Report: Pokémon earned $11.6bn in licensed products revenue last year」
ポケモンのライセンスビジネスは、子ども向け商品の展開だけではなく、成人向けのアパレルやデザイナーとコラボするなどユニークです。
2023年には、開館50周年を迎えたゴッホ美術館とコラボしたことで文化的な分野にも進出し、ブランドの広がりをさらに強化しています。
引用:Van Gogh Museum「The Van Gogh Museum Partners with The Pokémon Company International」
©2023 Pokémon / Nintendo / Creatures / GAME FREAK.
ポケモンのメディアミックス戦略は学術的な注目も集め、複数の論文で取り上げられました。ポケモンの戦略が単に商業的成功だけでなく、マーケティングやメディア研究の分野においても重要な意味があるためです。
そのなかからいくつかの論文を紹介します。
本論文では、異文化間でのキャラクタービジネスの展開と、それがどのように異なる文化圏で受け入れられるかに焦点を当てています。
参照:藤井健「異文化マネジメントの視点から見たキャラクター・ビジネスの国際展開」
メディア業界の変化のなかでポケモンがどのようにメディアミックスを進化させたかが分析されています。
参照:野口光一「メディア変革期における「メディアミックス」の新展開」
本研究では、メディアミックスの際、原作の価値が先か派生コンテンツの価値が先かというチキン-エッグ問題への回答として、ポケモンの展開を分析し、原作から派生コンテンツをどう循環していくかが掘り下げられています。
参照:木村誠・根来龍之「チキン-エッグ問題に焦点を当てた原作-派生コンテンツの循環的構造モデル」
ポケモンのメディアミックス戦略の成功要因を3つ解説します。
1つ目の成功要因は、メディアミックス展開の多角化です。
ポケモンは、家庭用ゲームから始まり、アニメ、漫画、映画、グッズに至るまで、さまざまなメディアを通じてブランドを拡張してきました。
1996年にゲームが発売されたのち、2019年3月末時点で国内のライセンシー数(ライセンス契約の許諾を受けた会社の数)は約600社となりました。現在では、世界各地の都市に常設店や期間限定のグッズ専門店が設置されています。ライセンス商品の売上は、全世界で兆を超える市場に成長しました。
各メディアはポケモンの世界を独自の方法で表現しているものの、全体として一つの統一されたストーリーとブランドイメージを構築しています。
たとえば、ゲームでの体験はアニメでの物語に影響を与え、アニメのキャラクターはグッズや映画でさらに人気を集めるのです。
メディアミックス戦略でイメージを統一しながら多角化したことで、ポケモンを幅広い年齢層に愛されるコンテンツへと進化させました。
参照:CFN「シンガポールキャリアフォーラム 2019 ポケモンの企業情報」
ポケモンの成功の背景には、コンテンツのクオリティの高さと拡大戦略があります。
ポケモンは「良質なコンテンツを作るチーム」と「コンテンツの魅力を管理して拡大させるチーム」による分担制が特徴的なのです。
コンテンツ制作チームはゲーム、アニメ、映画などのコンテンツ制作に専念します。
創造的なアイデア、高度な技術、深い物語を提供することで、ポケモンの世界を豊かにすることが目的です。チームは、新しいゲームの開発やアニメシリーズの制作など、クリエイティブな側面に重点を置いています。
一貫して高品質なコンテンツを提供することで、ブランドの評判を高め、ファンの支持を得るための基盤となりました。
拡大戦略を主とするチームは、ブランドの拡大とマーケティングに注力しています。
新しい市場への進出、ターゲット層の開拓、メディアとのコラボレーションなど、ブランドの魅力をさらに広げる活動が目的です。
たとえば、『ポケモンGO』はスマートフォンユーザーをターゲットに、拡張現実(AR)技術を活用して新しいファン層を獲得しました。従来のゲーム体験を大きく変革し、ファン層の拡大を達成した例です。
ポケモンGOの成功は、ポケモンブランドの新鮮さと魅力を保ち続けるための重要なイノベーションとなりました。
2つのチームの分担制により、クオリティの高いコンテンツの制作を継続しながら、そのコンテンツを活用してブランドを世界的に拡大しています。
参照:Yahoo!ニュース「ポケモン25周年 日本発の“怪物”コンテンツが世界を席巻するまでの軌跡」
ポケモンのキャラクターブランド化は、1,000種類を超えるキャラクターを通じて消費者の継続的な関心を獲得する重要な戦略です。
ポケモンブランド化の中心には、ピカチュウがいます。愛らしい外見と魅力的な性格により、ピカチュウはポケモンブランドの象徴となりました。
ゲーム、アニメ、グッズなどさまざまなメディアを通じていきいきと描かれ、ブランドとしての地位を確立しています。
それぞれのポケモンキャラクターが独自の魅力と物語をもつことは、ファンが愛着をもつ大きな理由です。
たとえば、国や地域ごとに人気のあるポケモンキャラクターは異なります。文化的な違いやプロモーション戦略の違いが反映されているためです。
地域ごとにどのポケモンが人気かを調査したデータによると、ピカチュウ以外のポケモンも高く支持されているのがわかります。
引用:TheToyZone「The Most Popular Pokémon Around the World」
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キャラクターごとのユニークな魅力が、ファンの関心を生み出し、ポケモンブランドの長期的な成功を支えています。
ポケモン以外のメディアミックス成功例を知りたい方は、こちらもお読みください。
ポケモンに学ぶメディアミックス戦略のメリットは、以下の2つです。
メディアミックス戦略における最大のメリットは、さまざまなメディアを活用することで、幅広いターゲット層に訴求できる点です。
ポケモンは、ゲーム、アニメ、映画、SNSなど幅広いチャネルを通じてブランドを展開してきました。
アニメは若い視聴者、ゲームはより広い年齢層、限定版のグッズやコラボレーション商品はコレクターや特定のファン層をターゲットにしています。
異なるメディアを通じてさまざまな層にアピールすることで、ポケモンはブランドの知名度を広げ、多様なファンの獲得を実現したのです。
メディアミックス戦略により、消費者が同一の広告に複数回接触する機会が増加することで、ブランドや製品への親しみや信頼感を高めます。
ポケモンは、テレビ、ラジオ、オンライン広告、SNSなど、複数のメディアチャネルを通じて広告を展開してきました。
消費者は日常生活のなかで自然にポケモンの広告に触れ、結果としてブランドや製品に対する親しみや信頼が深まっていると考えられます。
繰り返しの露出により消費者の態度や意識が肯定的に変化する現象は、ザイオンス効果(単純接触効果)と呼ばれるものです。
ポケモンのように多様なメディアを活用することで、ブランドの信頼性と認知度を強化し、ブランドと消費者間の信頼関係を構築できるでしょう。
ポケモンの事例からメディアミックス戦略の成功ポイントは、以下の3つです。
メディアミックス展開における成功の鍵は、各メディアの固有の特性や受け手の違いを理解し、適切な戦略を立てることです。
メディアミックス戦略においては、各メディアの強み・弱みの特性を正確に把握することが不可欠といえます。
たとえば、テレビは広範囲の視聴者にリーチする能力が高い一方で、若年層への影響力はSNSのほうが強いでしょう。ポケモンはこの点を巧みに利用しているのです。
テレビアニメをはじめとする伝統的なメディアを活用することで、物語を視覚的に表現し、家族など幅広い層にアプローチします。
一方で、ゲームやSNSなどのデジタルメディアを通じて、とくに若い世代や特定の興味をもつ層にアピールするのです。
メディアごとに強みと弱みの特性を理解し、それに合わせた戦略を立てることが重要といえます。
原作へのリスペクトとファン目線を持つことは、メディアミックスの成功に欠かせない要素です。
原作ファンは、作品の世界観やキャラクターに深い愛着を持っているため、これを尊重しない展開はファンの反感を招くリスクがあります。
ポケモンには原作はありませんが、ポケモンのアニメ化や映画化の成功の理由の一つは、最初に発売されたゲームの設定やキャラクターを大切にしたことです。
ゲームの世界観や魅力を活かしつつ、新たな要素を加えることで原作ファンはもちろん、新規の視聴者を獲得することができたといえるでしょう。
原作を尊重しながら新しいメディア形式での革新を図ることが、ブランドの成功につながります。
メディアミックス戦略の成功には、既存のファン層と新しいファン層の両方を引きつけるバランスを取ることが重要といえます。
メディアミックス展開をするうえで、メディアの担当者同士での連携は非常に重要です。
ポケモンは、アニメ、ゲーム、小説など、異なるメディア間でのキャラクターデザインやストーリーラインの一貫性が保たれています。
これは、各メディア担当者間の緊密な連携により実現されるものです。それぞれが情報を共有し、相互に協力することで、メディア間で矛盾する内容が生じにくくなりました。
異なるメディアを通じても一貫した魅力を発揮するためには、担当者間の連携を密にしましょう。
今回は、ポケモンのメディアミックス戦略について解説しました。
効果的なメディアミックス戦略のポイントは3つ考えられます。
ポケモンの成功は、メディアミックス戦略における革新的かつ実践的なアプローチのよい事例です。
広く応用することで、他のブランドやプロジェクトも成功を収める可能性が高まります。メディアミックス戦略を検討する際は参考にしましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。