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「ファンアートは著作権侵害になるのか知りたい」「ファンアートを作りたいけど著作権を侵害したくない」と考えている方も多いかもしれません。ファンアートを個人で描いて楽しむ場合、著作権の侵害にはあたりません。しかし、個人利用の範囲を超える場合には注意が必要です。
本記事では、ファンアートと著作権との関係について詳しく解説します。権利侵害にならないケースや違反となった場合のリスクも紹介します。
これからファンアートを作成したい方は、知らないうちに著作権を侵害することのないように、ぜひ参考にしてください。
ファンアートを描くこと自体は著作権侵害にはあたりません。ファンアートを描くことは個人利用の範囲とみなされるためです。
著作権法30条では、個人や家庭内での利用など、限られた範囲における使用を目的とした複製を認めています。
私的使用の例は以下のとおりです。
自分自身でファンアート作品を楽しむ場合、私的使用になるため著作権侵害にはあたりません。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
ファンアートが著作権侵害に該当するケースは以下のとおりです。
内容については次から詳しく紹介します。
著作権侵害に該当するケースとして、ファンアートを無許可で公表することが挙げられます。
著作権者は著作物やその二次創作物を公表する権利を有しており、第三者が公表することは権利の侵害にあたるためです。
たとえば、人気アニメのファンアートをSNSにアップしたり、LINEアカウントのアイコンに設定したりするのは著作権の侵害にあたります。
実態としてSNS上には多くのファンアートがアップされていますが、公式が許可している場合を除いて権利侵害にあたるケースが多いといえるでしょう。
訴えられない理由には、著作権者が見過ごしている、もしくは知らない可能性が考えられます。また、作品を盛りあげているから、と黙認している可能性もあります。
いずれにしても、ファンアートをインターネット上に公開するのは著作権法違反です。公の場での発表やインターネット上へのアップロードは避け、自分が楽しむだけにしておきましょう。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
なお、LINEアイコンの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ファンアートそのものやファンアートを利用したグッズを販売して利益を得ることは、著作権侵害にあたります。著作権法30条に定める私的利用の複製の範囲を超えており、著作権者の許可なく利用しているためです。
フリマサイトやコミックマーケットでは多くの二次創作物が販売されています。しかし、これらの行為は著作権の侵害となるケースがほとんどでしょう。騒ぎにならないのは、インターネット上でのファンアートの公開のケース同様、著作権者が黙認しているからだと考えられます。
二次創作の作品やグッズの販売は、著作権侵害のおそれがあるため避けるのが賢明です。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
ファンアートで著作権侵害にあたらないケースは以下の4点です。
ファンアートを個人利用の範囲で楽しむ場合、著作権侵害にはあたりません。著作権法30条、47条の6において「私的使用のための複製・翻案」が認められているためです。
オフライン上で自分が作ったファンアートを友人に見せたり、お互いの作品を交換したりする程度なら著作権の侵害にはなりません。
ただし先述したように、インターネット上に公開するのは個人利用の範囲を超え、著作権の侵害となるため避けましょう。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
著作権者の許可を得ている場合は、著作権侵害にあたりません。著作権法63条において、著作権者は、他人に対して著作物の利用許諾を有すると定められているためです。
たとえば、ファンアートをインターネット上に無許可で公開するのは違反ですが、許可を得ていれば問題ありません。ファンアートそのものを販売するのも、著作権者からの許諾が必要です。
著作権を所有しているのは作品の作者、出版社、制作会社がほとんどです。自分のファンアート作品の公開や販売を検討している方は、必ず著作権者から許可を得ましょう。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
著作権フリーの作品ならファンアートを作れます。
著作権フリーとは、著作権の保護期間が終了したか、著作権者が権利を放棄したことで、著作権法の保護対象外となった状態です。パブリックドメインともいいます。
著作権がないため、ファンアートをふくむ二次創作が可能です。インターネット上に公開、または販売をしても問題ありません。
ただし、作品によっては商標権など関連する権利を放棄していない可能性があります。商標権とは、自社と他社の商品やサービスを区別するためにある権利です。文字やマーク、音などを保護する権利で、身近なものとして商品のロゴがあてはまります。
もし著作権フリーの作品でファンアートを制作するときは、商標権や関連する権利を侵害しないよう事前にチェックしておきましょう。
なお、パブリックドメインと商標についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
作品によっては、ガイドラインを作成して二次創作を認めているケースがあります。
ガイドラインを遵守する限り、ファンアート作品をインターネット上に公開することを著作権者が認めているためです。
たとえば、『ウマ娘 プリティーダービー』はファンアートのガイドラインを公開しており、遵守しているものに限ってインターネット上の公開を許可しています。
ただし、以下に当てはまる創作物の公開は控えるよう記載しているので注意が必要です。
引用:Cygames「二次創作ガイドライン」
SNS上にファンアート作品を公開する際は、二次創作を許可しているのか必ず確認をしましょう。また公開するときはガイドラインを遵守してください。
ファンアートで著作権を侵害した場合、以下3点のリスクが生じます。
ファンアートで著作権を侵害した場合のリスクとして、差止請求を受けることが挙げられます。差止請求とは、違法行為を止めさせる法的手続きです。
著作権法112条1項では、著作権の侵害やそのおそれがある場合、侵害行為の停止または予防を請求できることが定められています。
たとえば、インターネット上に無許可でファンアートを公開した場合、公開停止を請求されることが想定されます。ファンアートを利用したグッズ販売も、販売停止を請求されるおそれがあるでしょう。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
ファンアート作品で著作権侵害をした場合のリスクとして考えられるのが侵害賠償請求です。
民法709条によると、著作権侵害によって受けた損害は、加害者へ不法行為による損害賠償を加害者に請求できると定められています。
たとえば、無許可でファンアート作品をSNSにアップすると、権利侵害として損害賠償請求がなされる可能性があります。またファンアート作品を販売する行為も損害とみなされ賠償請求されるでしょう。
著作権法114条では、損害賠償額の算定規定が設けられており、立証の負担を軽減しています。算定規定の例として、著作権の侵害行為により侵害者が利益を受けている場合、その利益の額を損害の額とするケースがあります。
場合によりますが、損害金額が100万円を超えることもあるため、著作権侵害のリスクは大きいでしょう。
参照:e-Gov 法令検索「民法」
参照:e-Gov 法令検索「著作権法」
参照:経済産業省 特許庁「著作権侵害への救済手続」
ファンアートによって著作権を侵害すると、刑事罰を受けるおそれもあります。
著作権法違反の内容 | 刑事罰の内容 |
---|---|
個人による著作権・出版権・著作隣接権の侵害 | 最大で10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金、または両方(著作権法119条1項) |
著作権・出版権・著作隣接権のみなし侵害及び著作者人格権の侵害 | 5年以下の懲役もしくは500万円以下の罰金、または両方(著作権法119条第2項) |
有償コンテンツの違法ダウンロード | 2年以下の懲役か200万円以下の罰金、または両方(著作権法119条第3項) |
法人による著作権・出版権・著作隣接権の侵害 | 最大で3億円以下の罰金(著作権法124条第1項) |
著作権法違反は親告罪です。そのため、被害者が警察や検察に被害を訴えないと捜査が開始されません。違法行為だと認定されれば、逮捕や起訴される可能性も考えられます。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
ファンアートを描く際に注意したい著作権の支分権・肖像権は以下のとおりです。
ファンアートを描く際は、著作権に含まれる権利の一つである複製権に注意が必要です。著作権法21条で定められている著作物を複製する権利で、著作権者が専有しています。
原作をもとに新たな著作物を創作するのではなく、単に模写やトレースしただけのファンアートは複製にあたります。
ただし私的利用の範囲内であれば侵害にあたりません。Web上にアップロードするなど、多くの方が閲覧できる場所に公開しないように注意しましょう。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
なお、模写と著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ファンアートを描くときは、著作権に含まれる翻案権にも注意が必要です。
翻案権とは、著作権者が自身の作品をベースに新たな著作物を創作できる権利です。漫画のアニメ化や映画化をする権利が翻案権にあたります。当然ファンアートの制作も翻案に含まれます。
個人利用の範囲であれば問題ありませんが、無許可で既存の作品に手を加えた創作物を公表・販売するなどして、個人利用の範囲を超えているとみなされると翻案権の侵害になります。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
同一性保持権とは、著作権者の意思に反して作品の内容やタイトルを勝手に変えない権利です。
たとえば、紙の本の出版と同時に電子書籍化した際、出版社が独断でタイトルや書籍の内容を変更すると権利侵害になります。ただし著作権法20条2項によると、以下の改変は同一性保持権の侵害にあたらないとしています。
ファンアートは、上記三つに当てはまらないため注意が必要です。
参照: e-Gov 法令検索「著作権法」
パブリシティ権とは、著名人の顔や写真、イラスト、氏名が持つ顧客吸引力から起きる経済的な利益・価値を排他的に利用する権利です。芸能人やスポーツ選手といった著名人のファンアートを作成すると、パブリシティ権を侵害する可能性があります。
たとえば有名人のブロマイドを無断で販売すると、著作権侵害で訴訟を起こせるのはカメラマンのみです。しかし有名人のブロマイド写真は、経済的な利益が見込めるため被写体となった側もパブリシティ権の侵害として訴えを起こせます。
なお、パブリシティ権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ファンアートの著作権について、よくある質問は以下の3つです。
ファンアートと二次創作の違いは以下のとおりです。
主な表現方法 | 主な公開場所 | 著作権侵害の有無 | |
---|---|---|---|
ファンアート | 絵・イラスト | SNS含むインターネット上 | 無許可で公開・販売すれば侵害 |
二次創作物 | マンガ・小説 | インターネット上、即売会、コミックマーケット | 無許可で公開・販売すれば侵害 |
ファンアートは、既存の作品に触発されて作られる絵画やイラストが主流です。XやInstagramなどSNSを中心に多くがインターネット上で公開されています。
一方、二次創作物は既存の作品のキャラクターや設定をもとにした新しい物語を含むことが多いため、漫画や小説作品として公表されることが主流です。主にコミックマーケットや即売会で販売されています。
芸能人のファンアートは、著作権侵害にあたらない可能性が高いです。ただし、パブリシティ権を侵す可能性があります。
パブリシティ権とは肖像権の一種で、著名人の肖像がもつ経済的利益を無断で使用されないようにする権利です。芸能人のファンアートは、芸能人の肖像がもつ顧客吸引力を利用していると解釈されるおそれがあり、パブリシティ権侵害と見なされる可能性があります。
ただし、麻雀のプロリーグ「Mリーグ」のように、ファンアートについてガイドラインを設けているケースもあります。芸能人のファンアートを作成したい場合には、事前に調べてみるとよいでしょう。
また写真集の写真をそのままトレースした場合も著作権侵害にあたる可能性があるため、注意が必要です。
参照:Mリーグ「ファンアートの取り扱いに関するガイドライン」
なお、芸能人の写真の著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
ファンアート作品をメルカリに出品する行為は著作権の侵害にあたります。
ファンアートを営利目的で利用することは、個人の利用の範囲を超えるためです。著作権者の許可を得ずに営利目的でメルカリに出品している場合、著作権侵害にあたります。
またメルカリは、著作権や商標権などの知的財産権を侵害する商品の販売を禁止しています。無許可で作成したキャラクターを使用したハンドメイド商品や同人誌を売ることも禁止事項に含まれるため、ファンアートも原則禁止です。
法律上だけではなく、メルカリの規約違反にもあたるため、ファンアート作品は販売しないようにしましょう。
参照:メルカリ「知的財産権を侵害するもの(禁止されている出品物)」
ファンアートは、個人利用の範囲で楽しむ分には自由に創作できるものの、公表、または営利目的で利用すると著作権侵害にあたるため注意が必要です。
ファンアートの公表や営利目的での利用を希望する場合、著作権者の許可を得ることでその権利を侵害することを避けられます。事前に著作権を持つ作者や出版社、制作会社を把握し、利用の範囲や条件を確認したうえで許可をもらうことが大切です。
作品によっては、二次創作に関してガイドラインを規定しているケースもあります。その範囲内であれば、著作権を侵害することなくファンアートを作成できるため、事前に確認しましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。