アイデアに著作権はない?表現との違いや安全な活用方法・判例を解説
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2024.11.22

アイデアに著作権はない?表現との違いや安全な活用方法・判例を解説

「アイデアに著作権はあるのか?」「アイデアを安全に使うにはどうしたらいい?」

活用したいアイデアがあるものの、上記の疑問はないでしょうか。アイデア自体に著作権はありませんが、保護することは可能です。

本記事では、アイデアの著作権の解釈について、実際の判例紹介とともに解説しています。著作権以外でアイデアを保護する方法や、安全に使うための注意点も紹介しています。

最後まで読むことで、アイデアの著作権についてひととおり理解できるでしょう。詳しく知りたい方は、参考にしてください。

INDEX
  1. アイデア自体に著作権はない
  2. アイデア・表現二分論の概念
  3. アイデアと表現の違い・区別のしかた
  4. アイデアの著作権に関する判例
  5. アイデアを著作権以外で保護する方法
  6. アイデアを安全に使うための注意点
  7. アイデアの使用に関するよくある質問
  8. アイデアは表現することで著作権の保護対象になる

アイデア自体に著作権はない

アイデア自体には、著作権がありません。アイデアは、著作権の保護対象である著作物の定義に当てはまらないためです。

著作物とは、思想や感情を創作的に表現したものであり、文芸・学術・美術・音楽の範囲に属するものを指します。

表現することではじめて著作物となるため、アイデアの段階では著作物とは見なされず、著作権の保護対象外となります。実際これまでに、いわゆる「アイデアのパクリ」で著作権侵害となった判例はありません。

「思考や感情」は、人間固有のものです。たとえばAIが生み出したアイデアを表現しても著作物とはなりません。

参照:公益社団法人著作権情報センター「著作物って何?

著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

アイデア・表現二分論の概念

アイデアに著作権がないことは、アイデア・表現二分論の概念にもとづいています

アイデア・表現二分論とは、著作権に関する国際的なルールです。著作権の保護が適用されるのは表現であって、アイデア自体には適用されないとしています。つまり、どれだけ独創的であっても、アイデアの段階では著作権で保護されない原則です。

アイデア・表現二分論の目的は、表現や学問の自由な社会を守ることにあります。アイデアに著作権を認めないことで、自由な発想を保障し文化の発展に役立てられるでしょう。

また人の思考に類似性があるかどうかを判断するのが困難な点も、アイデアが著作物にならないことの根拠になっています。

参照:東京弁護士会 知的財産権法部「著作権法の守備範囲

アイデアと表現の違い・区別のしかた

アイデアと表現の違いは以下のとおりです。

項目

概要

具体例

アイデア

思想や感情、構想など、人の脳内に存在している状態のもの

・感情
・思想
・着想
・学説
・画風
・書風
・手法

表現

アイデアを他人が見て認識できるよう、作品などの形にしているもの

・楽曲・歌詞
・ダンスなどの振り付け
・絵画・彫刻・漫画
・建造物
・地図・図面
・映画
・写真
・コンピュータープログラム

小説やアニメなどのストーリー展開はアイデアです。またキャラクター設定もアイデアですが、その設定をイラストに書き起こしたものは表現となります。

アイデアと表現の境界線を定めることは難しく、著作権に関する判例は実にさまざまです。

参照:株式会社エデュコン「アイデアは著作権法で保護されるの?実際に起きたパクリ事件と裁判所の判断

キャラクターの著作権についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

アイデアの著作権に関する判例

アイデアの著作権に関する判例は以下のとおりです。

  • 金魚電話ボックス事件
  • NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』事件
  • 廃墟写真事件
  • 箱根富士屋ホテル物語事件
  • 発光ダイオード学位論文事件

一審と二審で判決が逆転する判例があることからも、アイデアの著作権に関する判断は難しいといえます。

金魚電話ボックス事件

アイデアの著作権に関する判例の一つ目に、令和3年に大阪高裁で判決が下された金魚電話ボックス事件を紹介します。同事件は、電話ボックス内に水を満たした状態で、金魚を泳がせる作品を無断で真似されたとして芸術家が訴訟を起こしたものです。

第一審では、創作性の判断箇所はアイデアを実現するための必然的な手段であり、創作性は認められないとして棄却されました。

第二審では、受話器が宙に浮いた状態で固定され、気泡を発生させている点が創作的表現であると判断されています。その部分が類似しているとして、著作権侵害が認められました。

最高裁への上告は棄却されたため、第二審の高裁判決で確定となり、被告は作品の廃棄および損害賠償が命じられました。

参照:朝日新聞『「金魚電話ボックス」訴訟、芸術家が逆転勝訴 大阪高裁

NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』事件

アイデアの著作権に関する判例の二つ目は、平成16年に起きたNHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』事件です。アイデア自体には、著作権がないと判断された事例となります。

NHK大河ドラマ『武蔵 MUSASHI』が、黒澤明監督作品の『七人の侍』の著作権を侵害したとして訴訟が起こされました。原告は黒澤明監督の親族で、損害賠償および上映の差止請求などをしています。

主な論点は、ストーリーの設定、村に漂う霧や豪雨の中での決戦などの演出です。判決では、アイデアとして類似する部分はあるが、原告作品の本質的な特徴を感じえるものではないとしています。

キャラクター設定なども、一部類似する点はあるものの、作品全体の配役は違うものであり、著作権侵害とは認められませんでした。

上記の理由により、類似する点はアイデアであり、著作権侵害にはあたらないとして原告の請求は棄却されています。

参照:一般社団法人発明推進協会「NHK大河ドラマ「武蔵 MUSASHI」事件

廃墟写真事件

アイデアの著作権に関する判例の三つ目に、平成23年に起きた廃墟写真事件について紹介します。アイデアの著作権が認められなかった事例です。

廃墟を撮影した原告が、後に同廃墟を撮影した写真家に対し訴訟を起こしました。廃墟写真のカメラマンとして有名になった原告が、先駆者としての利益を失ったとして、損害賠償請求を求めたのです。

裁判所は、原告が主張する被写体の選択や写真の構図、撮影する方向はアイデアであるため著作権はないとしました。また、被告の写真から受ける印象は、原告の本質的特徴を感じられるものではないと判断しています。

さらに、既存の建築物である被写体について、他人が撮影することを制限するのは妥当ではないとして、原告の請求を棄却しました。

参照:裁判所「平成23年(ネ)第10010号 損害賠償等請求控訴事件

箱根富士屋ホテル物語事件

アイデアの著作権に関する判例の四つ目は、平成22年に起きた箱根富士屋ホテル事件。文章表現がアイデアに過ぎず、著作権がないと判断された事例です。

原告は、箱根富士屋ホテルの経営者のドキュメント作品『箱根富士屋ホテル物語【新装版】』を平成14年に出版しています。被告は平成19年に箱根富士屋ホテル経営者について執筆した『破天荒力 箱根に命を吹き込んだ「奇妙人」たち』を出版しました。

被告の作品の文章表現が、原告の作品と同じであるとして訴訟が起こされ、第一審でその主張が認められました。しかし第二審においては著作権侵害ではないと判決が出されています。

理由は、いずれの文章も事実や思想を述べただけのもので、言葉としてはごくありふれたものであると判断されたためです。従って、文章の表現自体に創作性は認められず、著作権侵害となりませんでした。

参照:アスタミューゼ株式会社「平成23ネ10020損害賠償等・同反訴請求控訴事件

発光ダイオード学位論文事件

アイデアの著作権に関する判例の五つ目に、昭和54年に起きた発光ダイオード学位論文事件を紹介します。研究論文に著作権が認められなかった事例です。

原告は、自身の研究報告書の記述内容が被告の論文に使用されたとして訴訟を起こし、謝罪や損害賠償請求を求めました。

判決では、原告の主張は認められず棄却されました。原告の研究報告書の内容に独創性があったとしても、自然科学上の法則、発明などのアイデアに著作権はないと判断されたためです。

論文は、事実やデータを述べたものであり、創作性はないため、著作権はありません。仮に、表現を工夫して論文を書いた場合、書物として著作権が認められる可能性はあります。

しかし、肝心のアイデア自体が著作権で守られるわけではなく、アイデアを無断で使用されても著作権の保護は受けられません。

参照:北海道大学大学院工学研究院工学系教育研究センター「自然科学上の法則、発見、技術的思想自体は著作権保護の対象外とした事案

アイデアを著作権以外で保護する方法

アイデアを著作権以外で保護する方法は以下のとおりです。

  • 特許を取る
  • 実用新案を取る
  • 秘密保持契約を締結する

上記方法によりアイデアを保護できます。一方で、自分のアイデアが、すでに使われていないかどうか注意が必要です。

特許を取る

アイデアを著作権以外で保護する方法には特許取得があります。特許とは、技術やアイデアなどの発明を公開する代わりに独占して使用できる権利です。

アイデアが登録されると特許権を得られ、特許の侵害者に対し、差止請求や損害賠償請求できます。

特許庁へ申請できるアイデアの例は以下のとおりです。

  • アイデア商品
  • 製造装置
  • 製造方法
  • 処理方法
  • 加工方法
  • プログラム

特許の取得には審査があり、通過しないと登録できません。特許権には期限があり、出願日から20年で終了となります。特許出願や登録の際には、所定の料金の納付が必要です。

参照:特許庁「初めてだったらここを読む~特許出願のいろは~

特許についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

実用新案を取る

アイデアを著作権以外で保護する方法として、特許取得以外に実用新案を取る方法もあります。特許庁に登録することで、特許と同じようにアイデアを独占して使用でき、権利侵害者に対して差止請求や損害賠償請求が可能です。

実用新案と特許の違いは、登録できるのが形状や構造、組み合わせに関わるもののみであるかどうかという点です。実用新案は特許のようにプログラムや製造方法などの考案は登録できません。

実用新案の登録には、特許のような審査がないため、登録までの期間が比較的短いという特徴もあります。また、特許取得ほど登録に費用がかかりません。なお実用新案の保護期間は10年です。

参照:特許庁「特許・実用新案とは

秘密保持契約を締結する

他に、アイデアを著作権以外で保護する方法として、秘密保持契約(NDA)を締結する方法があります

秘密保持契約(NDA)とは、情報の取り扱いを制限する契約です。NDAは、Non-Disclosure Agreementの略です。

新商品の共同開発やサービス設計など、企業間取引において、アイデアを共有しなければならない場面があります。秘密保持契約を締結しておくことで、自社情報の不正利用のリスクを抑えられるでしょう。

保護する情報の内容や保護期間、公開対象者などを決め、取引の開始前に秘密保持契約を締結することでアイデアを保護できます。

参照:杉本理惠 行政書士事務所「【秘密保持契約】企画やアイディアを保護するには?

アイデアを安全に使うための注意点

アイデアを安全に使うための注意点は以下のとおりです。

  • 商標登録されていないこと
  • 意匠登録されていないこと
  • 不正競争防止法に違反していないこと

前述した、特許や実用新案にも登録されていないことが前提となります。

商標登録されていないこと

アイデアを安全に使うには、商標登録されていないことを確認する必要があります。商標登録されている商標を無許可で使用すると、商標権の侵害となるためです。

商標権を侵害すると、権利者から使用差し止め請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。たとえ自社で作成したマークであっても、同じマークがすでに登録されていた場合、使用できません。類似している場合も商標権の侵害を訴えられるおそれがあり、注意が必要です。

商標とは、事業者が商品やサービスを他社と区別するために使うネーミングやマークを指します。商標登録できるものは、文字や図形などさまざまです。

参照:政府広報オンライン「知っておかなきゃ、商標のこと!商標をわかりやすく解説!

商標についてはこちらの記事で詳しく解説しています。

意匠登録されていないこと

アイデアを安全に使うためには、意匠登録されていないことを確認するのも重要です。登録されている意匠を無許可で使用すると、意匠権の侵害となり、差止請求や損害賠償請求を受ける可能性があります。

意匠とは、物品や建築物、画像などの外観やデザインのこと。自社のアイデアをデザインにして商品化する際、意匠登録されていないことを確認しておかなければなりません。

なお登録する際は、特許庁に出願して審査を通過する必要があります。

参照:特許庁「初めてだったらここを読む~意匠出願のいろは~

不正競争防止法に違反していないこと

アイデアを安全に使うためには、不正競争防止法に違反していないことに注意する必要があります。不正競争防止法とは、事業間において公正に競争することを目的とした法律です。

不正競争防止法に違反すると、差止請求・損害賠償請求などの民事的措置、罰金・懲役などの刑事的措置を受ける可能性があります。

不正競争防止法でアイデアに関連するものは以下のとおりです。

  • 周知表示混同惹起行為
  • 著名表示冒用行為
  • 形態模倣商品の提供行為

不正競争防止法に違反しないようにするには、すでに市場に出回っている商品と表示や形状が類似していないことが重要です。具体的には商品の形態や容器、ネーミングなどが、すでにある商品と類似しているなど、紛らわしくないことです。

不正競争防止法は、特許や商標登録などと違い、事前に登録することで保護されるものではありません。違反しないためには、独自に市場をリサーチするといった必要があります。

参照:経済産業省「不正競争防止法の概要

アイデアの使用に関するよくある質問

アイデアの使用に関するよくある質問は以下のとおりです。

  • すでに発表してあるアイデアを保護できる?
  • 自分のアイデアが使用可能であるかどこで確認できる?

それぞれ解説していきます。

すでに発表してあるアイデアを保護できる?

すでに発表されたアイデアも、条件により保護が可能です。前述のとおり、アイデアは著作権では保護されませんが、特許をとることで保護できます。

特許は本来、未発表のアイデアしか特許出願できません。しかし特定の条件に当てはまる場合のみ、申請することで出願可能です。

特許法第30条により「発明の新規性喪失の例外規定」が設けられています。この規定は、特許出願前に発明を公表していたとしても、まだ新規性があるものとして取り扱うものです。

適用の条件は、原則、平成30年6月9日以降の出願で、アイデア発表から1年以内であること。

ただし特許を取得する予定がある場合には、うかつに発表しないことも重要です。公表することで、自分のアイデアを他人が使用し、先に特許取得されるおそれもあるためです。たとえば、プレスリリースやショーへの出品には注意が必要でしょう。

参照:特許庁「発明の新規性喪失の例外規定の適用を受けるための手続について

自分のアイデアが使用可能であるかどこで確認できる?

自分のアイデアが使用可能であるかどうかは、web上で確認できます。特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」内で、登録されているアイデアを検索しましょう。調べたいキーワードを入力するだけで簡単にリサーチできます。

特許情報プラットフォームで確認可能な項目は以下のとおりです。

  • 特許
  • 実用新案
  • 意匠
  • 商標

無料で上記4項目を一括で検索できます。

参照:特許庁「特許公報を検索してみましょう

アイデアは表現することで著作権の保護対象になる

アイデア自体に著作権はありません。アイデアは、表現することにより著作権の保護対象となります

表現とは、アイデアを他人が認識できるよう形にしたものです。たとえばスポーツのルール自体はアイデアですが、それをまとめた解説書は表現であり、著作物となります。

アイデアを保護したい場合、特許や実用新案に登録する方法があります。もしくは秘密保持契約を締結することで、企業の情報を保護できるでしょう。

自社のアイデアを使用する場合には、すでに特許や実用新案以外に商標や意匠登録されていないことが前提です。また不正競争防止法に違反しないよう、事前にリサーチしておいてください。

当記事を参考にすることで、アイデアの著作権に関するトラブルを予防できるでしょう。

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