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「『星の王子さま』をモチーフに商品やサービスを作りたいけれど、著作権は気にしなくていい?」「『星の王子さま』のイラストは自由に使える?」
多くの人に知られている『星の王子さま』の著作権について、上記の疑問をお持ちの方は多いのではないでしょうか。
『星の王子さま』に関する著作権は文章もイラストも切れています。しかし、商標登録されているコンテンツがあるため、商標権を侵害しないよう注意が必要です。
本記事では、現在における『星の王子さま』の著作権の状況や、『星の王子さま』を安全に利用するための注意点、商標との関連性を詳しく解説します。
『星の王子さま』を安全に利用したい方は、ぜひ参考にしてください。
『星の王子さま』の日本における著作権は、2005年1月22日に切れています。
『星の王子さま』は本文と挿絵の両方を、原作者のアントワーヌ・ド・サン=テグジュペリが創作しました。そのため、文章だけでなくイラストも同時に著作権が切れています。つまり『星の王子さま』の原作は二次利用が可能なパブリックドメインとなったのです。
詳しくは後述しますが、当時の日本の著作権法によると、著作者の死後50年間が保護期間でした。原作者のサン=テグジュペリが亡くなったとされるのは1944年です。そして1944年から死後50年に3794日の戦時加算が適用されたため、著作権の保護期間は2005年までとされています。
参照:弁護士ドットコム「「星の王子さま」コラボ商品、権利侵害の批判受け2日で販売終了…本当に法的問題はあった?」
参照: Yahoo!ニュース「パブリックドメインなら何をしても許されるのか?:「星の王子さま」のケースを検討(追記あり)」
なお、パブリックドメインについてはこちらの記事で詳しく解説しています。
『星の王子さま』の著作権が切れた理由は、著作権保護期間の満了によるものです。
『星の王子さま』の作者サン=テグジュペリは、1944年7月にフランス本土偵察のために出撃後、消息不明となりました。そのまま帰還しなかったため、一般的には1944年が死亡年とされています。
当時の日本の著作権保護期間は「著作者の死後50年間」だったので、本来ならサン=テグジュペリの死から50年後の1994年に著作権が切れていました。しかし、日本では「戦時加算」が適用されます。
「戦時加算」とは、戦争によって著作物の保護が十分に行えなかった期間を考慮し、保護期間を延長する制度です。フランス作品である『星の王子さま』の場合、3794日が加算されます。
結果的に『星の王子さま』の著作権保護期間は10年以上が上乗せされ、2005年1月22日をもって満了となりました。
なお現在の日本における著作権保護期間は「著作者の死後70年間」です。
参照:みずず書房「アントワーヌ・ド・サン=テグジュペリ」
参照:弁護士ドットコム「「星の王子さま」コラボ商品、権利侵害の批判受け2日で販売終了…本当に法的問題はあった?」
参照:文化庁「著作物等の保護期間の延長に関するQ&A」
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作権は永遠に保護されるの?」
『星の王子さま』の原作はパブリックドメインであるため、誰でも許諾なく自由に利用できます。複製や改変、配布、商用利用も可能です。
具体的には、以下のようなケースで利用可能です。
しかし、商標権や著作者人格権を侵害しないように取り扱いには注意が必要です。
商標権と著作者人格権の概要は以下のとおりです。
商標権 | 著作者人格権 | |
---|---|---|
目的 | 商品・サービスの識別 | 著作者の人格的利益の保護 |
保護対象 | 商標(名称、ロゴ、図形など) | 著作物と著作者の関係 |
権利の種類 | 財産権 | 人格権 |
譲渡可能性 | 可能 | 不可能(一身専属) |
保護期間 | 登録から10年(更新可能) | 著作者の死後も保護(一部の権利) |
取得方法 | 登録制 | 著作物の創作と同時に自動的に発生 |
主な権利内容 | 使用権、禁止権 | 公表権、氏名表示権、同一性保持権 |
国際的保護 | 原則として各国で個別に登録 | ベルヌ条約加盟国で自動的に保護 |
たとえば、商標登録済みのイラストを無断で使用すると、商標権侵害にあたる可能性があります。
著作物を許可なく改変したり勝手に公開する行為は、著作者人格権に含まれる以下の3つの権利を侵害するおそれがあるため注意が必要です。
公表権 | 著作物を公表するかどうかや、公表するタイミングや方法は著作者本人に決める権利があります。 |
---|---|
氏名表示権 | 著作物を公表するとき、著作者の氏名を公開するかどうか、実名で公開するかどうかは、著作者本人に決める権利があります。 |
同一性保持権 | 著作物の内容はタイトルなどを勝手に変更できないようにする権利です。 |
さらに、著作者の人格を傷つけるような行為も著作者人格権の侵害となりえます。写真家が撮影した人物写真を無断でアダルトサイトにアップロードするなど、著作者の名誉を傷つける行為は避けましょう。
パブリックドメインとして利用できるのはサン=テグジュペリが創作した原作の文章と挿絵のみです。翻訳版は別の著作権者がいるため、利用時は注意しましょう。
参照:公益社団法人著作権情報センター CRIC「著作者にはどんな権利がある? | 著作権って何?」
参照:経済産業省特許庁「商標制度の概要」
なお、著作権と商標についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
『星の王子さま』をパブリックドメインとして利用する際の注意点は、以下の2つです。
著作権や商標権の取り扱いを間違えたまま『星の王子さま』を利用すると、損害賠償を請求される事態になりかねません。権利侵害とならないように、注意点をふまえて正しく利用しましょう。
翻訳版の著作権は切れていないため利用できません。著作権が切れたのはサン=テグジュペリ本人が執筆した文章と挿絵のみです。
原作をもとに作成された日本語翻訳の著作権は切れていないため、自由な利用は認められません。
原作の著作権が切れる2005年までは、岩波書店が独占的な翻訳権を有していました。日本でよく知られている岩波文庫版の『星の王子さま』は、翻訳者である内藤濯氏が著作権を持っています。
二次的著作物は著作権保護の対象となるため注意が必要です。原文を自ら翻訳して利用する際は著作権侵害に該当しませんが、翻訳者がいる場合は著作権で保護されているケースが多いでしょう。
なお、青空文庫に収録されている新訳『あのときの王子くん』は、翻訳者の好意により誰でも自由に利用や複製、再配布が認められています。
ただし、利用の際はクリエイティブ・コモンズ・ライセンスの規定に従ってライセンス元を表記しましょう。ライセンスへのリンクと適切なクレジット表記をして、正しく利用することが大切です。
翻訳者である大久保ゆう氏は、『あのときの王子くん』のあとがきで自由に朗読もできず制約の多い『星の王子さま』は、「もう自由になってもいいのではないか」と考えていました。そのため、本来であれば翻訳者が有する著作権により保護される翻訳文を青空文庫に収録したのです。
参照:月刊総務オンライン「著作権法:二次的著作物の利用」
参照:青空文庫「あのときの王子くん」
参照:Creative Commons「コモンズ証 - アトリビューション 2.1(帰属)」
すでに商標登録されているコンテンツは利用できないので、注意が必要です。
『星の王子さま』がパブリックドメインとなった今も、作中に登場するイラストやフォントの多くは商標登録されています。そのため、商標法により利用範囲が制限されているのです。
特許情報プラットフォーム「J-PlatPat」によると、2024年11月時点での『星の王子さま』関連の登録商標は42件にのぼります。
42件の権利者はすべて「ソシエテ プール ルーブル エ ラ メモワール ダントワーヌ ドゥ サンテグジュペリ "シュクセシオン ドゥ サンテグジュペリ ダゲ"」です。
商標法第25条により、登録商標の権利者は申請時に定めた商品と使用範囲に関して占有権を持っています。
商標権は、ブランドロゴや商品名などを保護するための権利です。たとえ著作権が消滅していても、商標権者が存在する場合、無断で使用することはできません。権利者の許可なく使用すると、権利侵害となる可能性があります。
とくに注意すべきは、完全に同一でなくても、商標やサービス、使用範囲が「類似する」と判断される場合も権利侵害となりえることです。一方で、商標が同一だったとしても使用範囲がまったく異なる場合は権利侵害にならない可能性が高いといえます。
引用:特許庁「(1)登録商標と非類似である場合」
Copyright © Japan Patent office. All Rights Reserved.
『星の王子さま』のコンテンツを商品やサービスに利用したい場合は、事前に商標権の有無を確認しましょう。商標登録されているコンテンツを利用する場合は、「星の王子さま公式サイト」からライセンスについて問い合わせることができます。
参照:経済産業省特許庁「商標権の効力」
参照:星の王子さま公式サイト「ライセンス」
なお、商標についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
『星の王子さま』の著作権切れによる影響は以下のとおりです。
2005年の保護期間満了とともに、複数の出版社が同時期に新訳を出版したことで話題になりました。
『星の王子さま』の著作権切れにより、岩波書店が保有していた独占的な翻訳権が効力を失ったことで、多くの出版社が新訳の出版に乗り出したのです。
新訳刊行ラッシュにより、読者はさまざまな翻訳を楽しめるようになりました。新たな解釈によって、長年親しまれてきた作品に新たな魅力が加わったともいえるでしょう。
参照:四国新聞社「新訳「星の王子さま」戦争/著作権切れ、各社から続々」
2018年8月には、銀座の商業施設「Ginza Sony Park」にて『星の王子さま』とのコラボ商品が販売されました。
販売されたのは、『星の王子さま』にも登場するバオバブの苗木です。パッケージにはオリジナルストーリーが掲載されていました。さらにタイアップ先のそら植物園株式会社代表の西畠清順氏の写真が『星の王子さま』のイラストと並べて掲載されるといった改変がされていたのが特徴です。
大きな話題となったこの商品は、発売からわずか2日で打ち切りとなりました。その理由は、『星の王子さま』のファンや消費者から批判的な意見が寄せられたためです。
Sony Parkは公式サイト上で、8月11日に「『星の王子さま』の長年のファンの皆様の心情を考慮」しての決定だと発表しています。
著作権が切れた作品であっても、ファンへの配慮は欠かせません。法的には問題なくても、その利用には細心の注意と配慮が必要です。『星の王子さま』を利用する際は、作品への敬意を失わないように心がけましょう。
参照:JCASTニュース「「長年のファンの皆様の心情を考慮」 「星の王子さま」バオバブ苗木、「炎上」で販売打ち切りへ」
参照:弁護士ドットコム「「星の王子さま」コラボ商品、権利侵害の批判受け2日で販売終了…本当に法的問題はあった?」
参照:Yahoo!ニュース「パブリックドメインなら何をしても許されるのか?:「星の王子さま」のケースを検討(追記あり)」
『星の王子さま』の著作権は、日本では2005年に保護期間が満了しました。サン=テグジュペリが創作した原文とイラストは、現在はパブリックドメインとなっており、著作権法上は誰でも自由に利用できます。
ただし、著作権が切れたからといってすべてを自由に利用できるわけではありません。『星の王子さま』に関連するイラストやロゴの多くは商標登録されているため、商標権を侵害しないよう十分な注意が必要です。
作品を活用したい場合は、まず使用したいコンテンツが商標登録されているかどうかを確認しましょう。必要に応じてライセンスを取得することが重要です。また、日本語翻訳版の著作権は翻訳者が有しており、二次利用はできません。
事前に権利関係を明らかにし、権利侵害しないように注意して『星の王子さま』を利用するとよいでしょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。