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「フリー素材は著作権を気にせず利用して大丈夫?」「フリー素材は勝手に使っても問題ないと聞いたけど本当?」
フリー素材を利用するにあたって、本当に著作権を気にせず利用できるのか不安がある方は多いのではないでしょうか。
フリー素材の中には著作権が発生しているものも存在するため、著作権を一切気にせず自由に使っていいわけではありません。利用する際は、著作権の有無を確認したうえで、利用規約をよく確認することが重要です。
この記事では、フリー素材の著作権の有無や利用時の注意点について、よくある勘違いを交えながら解説します。
フリー素材の著作権に関する理解を深め、著作権を侵害せず安全に利用できるよう心がけましょう。
フリー素材に著作権はあるのかどうかについて、以下の2種類に分けて解説します。
「著作権フリー」といわれるフリー素材には、著作権がありません。
著作権フリーとは、法律上で著作権が消滅または放棄されたものであり、著作権を気にせず利用できる著作物のことです。
著作物が著作権フリーとなるのは、次のような場合です。
著作権が消滅したもの | 原則として著作者の死後70年が経過した著作物 |
---|---|
著作権が放棄されたもの | 著作者が著作権を放棄することを明言した著作物 |
著作権フリーの素材は、利用の条件や用途の制限なく、自由に利用できる点が特徴です。
ただし著作権法では、以下の権利も保護の対象としています。
著作者人格権 | 著作者の精神的利益を保護する権利 |
---|---|
著作隣接権 | 著作物の伝達に関わる者に与えられる権利 |
著作権フリーの著作物も、著作者人格権や著作隣接権は存在することに注意が必要です。
参照:e-Gov法令検索「著作権法」
なお「著作権フリー」とほぼ同義の用語として「パブリックドメイン」があります。パブリックドメインとは、著作権などの知的財産権が消滅して、誰でも自由に利用できる共有財産となった状態のこと。
パブリックドメインについては次の記事で詳しく解説しています。
「ロイヤリティフリー」といわれるフリー素材には著作権が存在します。
ロイヤリティフリーとは、規約の範囲内で利用できる著作物を指します。そのため規約を逸脱した利用があった場合、著作権侵害と見なされてしまいます。
利用規約は著作権者が利用を許可した範囲を示すものであり、その範囲外の利用を行うと無断使用といえるからです。いわゆるフリー素材を提供するサービスは、このかたちを取ることが多いでしょう。
たとえば、フリー素材提供サービスの一つである「いらすとや」の素材は、利用規約の範囲内であれば無料で自由な利用が可能です。ただし21点以上の素材を商用利用する際は、有償対応することなどが定められています。
また有料の素材サイトもロイヤリティフリーに当てはまります。使用料を払うことで、決められた範囲での利用許諾が得られる仕組みです。
参照:いらすとや「ご利用について」
なお、イラストの著作権については、次の記事で詳しく解説しています。
また、いらすとやの利用時における著作権の注意点を知りたい方は、こちらの記事も読んでみてください。
フリー素材の著作権に関する認識として、よくある勘違いは以下のとおりです。
「フリー素材であれば著作権を気にせず利用してもよい」という認識は間違いです。
フリー素材にも著作権が発生しているものはあるため、利用する際は、著作権侵害にならないかどうか必ず確認しなければなりません。
「ロイヤリティフリー」素材の場合、利用条件(使用料の支払いなど)を守って利用する必要があります。
また、著作権がない「著作権フリー」素材であっても、著作者人格権や著作隣接権への配慮は必須です。
「フリー素材提供サイトで入手した素材ならば安心して使える」という認識を持っている場合、注意が必要です。
フリー素材提供サイトの中には、ユーザーが自由に素材を投稿できるものもあります。このような投稿型サイトの場合は、著作者に無断で転載された素材が含まれているおそれがあるのです。利用する際は、事前に著作者を確認するなど、安心して使えるよう努めましょう。
また信頼できるフリー素材提供サイトも、素材の利用にはさまざまな制限が設けているケースが多いです。たとえば、「Adobe Stock」には4種類のライセンスがあります。そのうえ、生成AIによる画像の知的財産権の保障範囲規定や、エディトリアル専用の制限規定など細かいルールが存在します。きちんと理解してから利用するようにしましょう。
参照:Adobe Stock「ライセンス情報と利用条件」
「フリー素材は無料で使えるもの」と考えていると、誤解が生じる可能性があります。フリー素材であればすべて無料で使えるわけではありません。
ロイヤリティフリーの素材を利用する場合は、使用料の支払いが設定されていることがあります。対価を支払わずに使用すれば、著作権侵害になるため注意が必要です。
無料でイラストや写真などを提供してくれるサービスは存在しますが、すべてのフリー素材が無料で使えるという認識は誤りなのです。
なお、写真における著作権や利用方法の注意点については、以下の記事で詳しく解説しています。
フリー素材の利用が著作権侵害になりうるケースは、以下のとおりです。
ロイヤリティフリーの素材を利用規約の範囲外で使用すると、著作権侵害にあたります。
利用規約は著作権者が利用を許可した範囲を示すものであり、それを超えた利用は著作権者の承認のない無断使用に該当するためです。
よくある利用規約の範囲を超えた使用例として、以下のような行為が挙げられます。
ロイヤリティフリー素材を使用する際は、利用規約をしっかりと確認し、許可された範囲内で利用することが重要です。
ロイヤリティフリーの素材に無断で修正を加えると、著作権侵害になることがあります。
著作権者の許可を得ずに著作物を改変することは、翻案権(著作物を改作する権利)の侵害行為です。さらに、同一性保持権(著作者の意に反して改変されることのない権利)の侵害を問われることもありえます。
ロイヤリティフリー素材の多くは、利用規約において一定範囲の加工や修正を認めていますが、どこまで許されるか事前に確認しておきましょう。
ロイヤリティフリーの素材に類似した著作物を無断で作成すると、著作権侵害になりえます。著作権侵害の要件の一つに類似性があるためです。
類似とは、単に似ていることではなく、作品の個性である独自的な表現が利用されていることを意味します。一般的な形や色、広く知られるテーマなどを用いて創作した場合、著作権侵害には該当しません。
著作権の仕組みや侵害行為については、次の記事で詳しく解説しています。
フリー素材を利用して著作権侵害をした場合、民事・刑事の双方で責任を負う可能性があります。
民事上の請求は、以下のとおりです。
差止請求(著作権法112条) | 素材の利用行為をやめることを求められる(商品販売の停止、サイトページの削除など) |
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名誉回復等の措置請求(著作権法115条) | 侵害行為によって害された名誉を回復するための措置を求められる(謝罪や訂正の掲載など) |
損害賠償請求(民法709条) | 侵害行為によって著作権者に生じた損害額を請求される |
刑事罰については、下表のとおりです。
著作権・著作隣接権の侵害(著作権法119条1項) | 10年以下の懲役、または1,000万円以下の罰金またはその両方 |
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著作者人格権の侵害(著作権法119条2項1号) | 5年以下の懲役、または500万円以下の罰金またはその両方 |
また、紛争トラブルになれば社会的な信用を損ねるおそれもあります。
フリー素材だからと甘く見ずに、著作権の有無や利用可能な範囲を確認するようにしてください。
参照:e-Gov法令検索「著作権法」
参照:e-Gov法令検索「民法」
フリー素材の利用が、著作権トラブルに発展した事例を2つ紹介します。
大分県の市立中学校が、イラストの使用に関して著作権侵害で訴えられ、イラストの作者に損害賠償金を支払った事例があります。事件発覚のきっかけは、中学校の教師がWeb上で見つけたイラストを「ほけんだより」に使い、学校のホームページに掲載したことです。
イラストを使用した教諭は、フリー素材をうたったサイトから見つけたものであったため、無料で使用できると思い込んでいました。
しかし市教委が利用規約を調べたところ、使用料が発生する旨が明記されていたため、中学校側に過失があるという結論にいたっています。
この事例内の行為における問題点は、利用条件である使用料の支払いをしていなかったため、著作物の無断使用になってしまったことです。無断でコピーし、ネット上に転載する行為は、複製権や公衆送信権の侵害に該当します。
7年間の使用料相当額として253,000円を支払い、示談が成立しました。
参照:読売新聞「フリー素材と思い込み…市立中の「ほけんだより」でイラスト無断使用、著作権侵害で作者に賠償」
フリー素材サイトから入手した写真を会社のWebサイトに使用したところ、著作権侵害を訴えられて損害賠償請求された事例があります。
裁判で被告側は、「フリー素材サイトで見つけたから自由に使えると信じていた」「原告の著作物であることを示す情報を書いていてくれないとわからない」と無過失を主張しました。
しかし裁判所は、たとえフリー素材サイトから入手したものでも、識別情報や権利関係の不明な著作物の利用は控えるべきと判断しています。そして、被告に損害賠償の支払いを命じました。
この事例から、「フリー素材サイトにあったから勝手に使っていいと信じた」という言い訳は通用しないことがわかります。フリー素材であっても著作物を利用する際は、権利関係の情報を自分で確認することが重要です。
参照:裁判所 ー Courts in Japan「平成27年 第24391号 損害賠償請求事件」
フリー素材を利用する際に、著作権を侵害しないために確認すべきポイントは以下のとおりです。
それぞれ具体的に解説します。
無料で使える素材かどうか、使用料が必要なのかどうかは必ず確認しましょう。
フリー素材は無料で使用できるものも多いですが、使用料を払うことで使えるものもあります。使用料が必要な素材を支払いをせず使えば、著作権侵害を訴えられる可能性が高いです。
商業目的でフリー素材を使う際は、商用利用が可能かどうか利用規約の確認が必須です。
利用規約には、「個人利用のみ」「商用利用不可」などの制限が記載されている場合があります。当然ですが、禁止されているにもかかわらず商用利用すれば、著作権侵害になります。
商用利用とは、金銭的利益を得ることを目的として素材を使うことです。たとえば、次のような行為は商用利用に該当します。
企業の業務や収益目的のSNS活動などで素材を利用する際は、商用利用にあたる場合がほとんどです。
またサイトによっては、素材をそのまま使用して商品化することを禁止しているケースも多いです。商用利用が可能であっても、どこまでの利用が許可されているか、あわせて確認しておきましょう。
フリー素材を加工して利用したい場合、素材の加工や編集が可能かどうか、また許可されている範囲を調べる必要があります。基本的に、著作物を改変することは翻案権や同一性保持権を侵害する行為だからです。
以下のような加工は著作物の改変行為に該当するため、注意しなければなりません。
ただし利用規約で許可されているならば、許可されている範囲内で加工・編集できます。加工してから利用したいと検討している場合は、許諾範囲を必ず確認しておきましょう。
フリー素材の利用にあたって、クレジット表記等の著作権表示が必要かどうかを確認しておきましょう。
フリー素材サイトによっては、素材を利用する際に「©」「All Rights Reserved」のように著作権表示を入れるよう指示されている場合があります。
これらは、著作権の保有者などの情報を示すもので、著作権の保護が及ぶ作品であることを表すために用いられます。
利用規約に著作権表示の指定がある場合は、必ず表示を入れなければなりません。
著作権表示については以下の記事をご参照ください。
フリー素材提供サービスを利用する場合は、原著作者を確認しておくのがベターです。
投稿型のサイトなどは、自身の著作物以外の素材を投稿しているユーザーがいることも考えられます。著作者の許諾がないことを知らずに利用したとしても、原著作権者から訴えられる可能性があります。
また業務の委託先が入手した素材を使う場合も、入手元を逐一確認するようにしておくのが大切です。
フリー素材の利用許諾範囲を超えた利用をしたい場合は、必ず許諾をとるようにしましょう。
利用許諾の範囲を超える素材の利用は著作権を侵害する行為ですが、著作者の許可を得られれば侵害を問われることはありません。
利用規約の範囲を超える可能性がある場合は、著作者本人や事務所などに直接問い合わせてみましょう。
引用の際は、適切な方法をとれているか確認しましょう。著作権法32条により、ルールに従った方法であればフリー素材を引用しても著作権侵害になりません。
適切な引用をするためには、次のことに注意しましょう。
引用要件を満たさない素材の利用は著作権侵害にあたるため、引用する際は上記を守るように注意しましょう。
参照:e-Gov法令検索「著作権法」
「フリー素材」はよく耳にする言葉ですが、その定義は複雑です。
著作権フリーの場合は、著作権が消滅しているため、素材の著作権を気にする必要はありません。一方ロイヤリティフリーの場合は、著作権が存在しているため、利用規約を守らないと著作権侵害になる可能性があります。
単に「フリー素材」と一括りにせず、著作権の有無を必ず確認するようにしましょう。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。