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任天堂は日本が世界に誇るゲーム企業ですが、最近では人気のキャラクターを活用したIPビジネスの展開も盛んです。
IPビジネスを検討する際に、「他社での成功事例を活かしたい」と考えている担当者の方も多いのではないでしょうか。他社事例を調べるときには、企業がどのような狙いでIPビジネスを展開しているのかをおさえることが重要です。
本記事では任天堂がIPを活かしたビジネスの展開事例と、IP戦略のポイントを解説します。ぜひ自社のIPビジネスに取り組む際の参考にしてください。
任天堂のIPビジネス規模は直近の3~4年で急激に成長しています。
任天堂におけるIPビジネスは「モバイル・IP関連収入等」の項目で計上されています。2019~2020年で11.5%、2020~2021年で11.3%と大きく増加しました。
2023年3月期におけるモバイル・IP関連収入等は510億円で前年比-4.3%、全体売り上げにおける比率は3%と決して多くありません。
しかしこれには2023年4月に公開された映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」の売り上げは含まれていません。また、2023年5月発売の「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」が好調で、今後は関連IPの売上増加が見込まれます。
参照:任天堂株式会社「2020年3月期 決算説明資料」
参照:任天堂株式会社「2021年3月期 決算説明資料」
参照:任天堂株式会社「2023年3月期 決算説明資料」
任天堂におけるIP戦略のポイントは次の3つです。
以上の戦略のポイントを、任天堂の方針説明資料から見ていきましょう。
参照:任天堂株式会社「2021年3月期 経営方針説明会」
2015年から、任天堂のIPビジネスは「IPに触れる人口の拡大」が基本戦略となっています。
これは、任天堂がもつ豊富な人気キャラクターの個性を最大限に活かすためです。
任天堂は、ゲーム機とそのソフトを販売する、「ハード・ソフト一体型のビジネス」が主力となっています。しかし、近年はゲーム以外にも人々が楽しむ娯楽の種類は増えてきました。
上記の手段などを通じて、ゲーム機を持っていない層にも任天堂IPの魅力を伝えることを狙っています。
ゲームでのユーザーの体験、キャラクターの活躍を優先していることも任天堂のIP戦略の特徴といえます。
あくまでも、IPビジネスを通じてゲーム機や関連ソフトのビジネスを活性化させることが重要と考えているためです。ユーザーがさまざまな場面でIPに触れ、最終的にはゲームに関心を持ってもらうことをゴールに設定しています。
また、IP展開によってキャラクターに意図せぬ設定が加わり、ゲームにおける活躍の可能性を狭めないようにしている点もポイントです。
ビジネス展開する際に、個々のIPがもつ特徴や個性的な一面を大切にしていることも任天堂のIP戦略の特徴です。
任天堂のゲーム機・ソフトは、ユーザーとキャラクターのコミュニケーションによって人気を獲得してきました。このためそれぞれのキャラクターはゲームの世界で固有のイメージを持っています。
そういったユーザー個人の体験やキャラクターのイメージを損なわないよう、ゲームのバックグラウンドやIPの個性を考慮したIP戦略が重要です。
近年、任天堂のIP戦略における代表的な事例は次の3つです。
それぞれの取り組みの概要を解説します。
「スーパー・ニンテンドー・ワールド」は、2021年にUSJにオープンした任天堂の世界観が体感できるエリアです。
コンセプトは「#WE ARE MARIO!!」。スーパーマリオの世界観に没入できるようにアトラクションやレストラン、グッズショップが配置されています。
引用:ユニバーサル・スタジオ・ジャパン「スーパー・ニンテンドー・ワールド™」
TM & © Universal Studios. All rights reserved.
2023年には日本に続き、ユニバーサル・スタジオ・ハリウッドにもエリアがオープンしました。2024年にはUSJに「ドンキーコング」のエリアが追加される予定で、任天堂のIPに触れる新たな機会の創出につながっています。
映画「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」は、任天堂が40年かけて作り上げたマリオの世界をストーリー調に仕上げた映画です。
引用:任天堂「ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー」
© 2023 Nintendo and Universal Studios. All Rights Reserved.
実はマリオの映画化は2度目で、1作目には1993年にハリウッドで制作された「スーパーマリオ 魔界帝国の女神」があります。しかし、この作品は元のゲームの設定から大きくかけ離れてしまっており、興行的にうまくいきませんでした。
しかし本作は任天堂が直接製作に携わり、ゲームで遊んでいるときの世界観がよみがえるような工夫が凝らされています。結果として興行収益は13億4900万ドル(2023年7月末時点)、2023年4月~6月のIP・モバイル関連収益は前年度比190%増の結果を残しました。
また映画のヒットに付随して、2017年発売の「マリオカート8 デラックス」の売り上げが5200万本(22年12月末時点)に到達しました。ゲーム以外のコンテンツでIPに触れ、ゲームに関心を持ってもらうという任天堂の狙い通りになったといえます。
「Nintendo TOKYO」は任天堂の公式ショップとして2019年に東京の渋谷パルコ6階にオープンしました。
店内の装飾には任天堂のキャラクターたちがちりばめられており、各ゲームの公式グッズを豊富に販売。また、最新のゲームを体験できる試遊エリアも設置されており、任天堂の最新情報の発信拠点としての役割も果たしています。
引用:任天堂「Nintendo TOKYO/OSAKA/KYOTO」
©Nintendo
開店直後の2020年3月期決算ではゲーム専用機やモバイル関連収入以外の売り上げが57%増となり、IP展開に大きく貢献しました。
現在は大阪と京都にも公式ショップをオープン、ポップアップストアも九州各地に出店されています。任天堂が、実店舗を多くの人が任天堂IPに触れ合える場所として重要視しているといえるでしょう。
次にあげる任天堂の人気IP5選と、それらを活用したビジネス事例を紹介します。
前述のIP展開事例とあわせて、自社のIPビジネスを検討する際の参考にしてください。
「ポケットモンスター(ポケモン)」は1996年にゲームボーイ向けのソフトとして「赤・緑」が発売されました。
ポケモンはゲーム以外にもアニメ・カード・映画などを同時多発的に用いたメディアミックス戦略が特徴です。2023年時点で累計販売はゲームソフトが4億8千万本以上、カードは529億枚以上と、子ども向けIPとして世界中で人気を誇ります。
また、2016年にリリースされた「ポケモンGO」は全世代向けのコンテンツとして普及し、2023年までの累計収益は65億ドル(8,660億円※)以上です。
※2023年3月17日時点のドル円レート
さらに睡眠アプリ「Pokémon Sleep」をリリースし、ゲームを通じたQOL向上という任天堂の戦略の一角を担っています。
引用:任天堂「『Pokémon Sleep』公式サイト」
©2023 Pokémon. ©1995-2023 Nintendo/Creatures Inc./GAME FREAK inc. Developed by SELECT BUTTON inc.
スーパーマリオはもともと「ドンキーコング」に登場していたキャラクターの一つでした。
しかし1985年発売したファミコン向けソフトが「スーパーマリオブラザーズ」が大ヒット。以降シリーズ累計では7.6億本(2022年時点)と、世界で一番売れたゲームソフトになっています。
マリオに関しても、シリーズ初期からアニメやマンガ、攻略本などIPへのタッチポイントを増やすメディアミックスを展開してきました。
映画やテーマパークの製作には任天堂の開発チームが直接携わり、幅広い世代が満足できる統一感のあるIP展開を徹底しています。
2014年にはメルセデス・ベンツ日本とコラボしたプロモーションに起用されるなど、異色のコラボも話題になりました。
引用:メルセデス・ベンツ日本 Facebookより
©2014 Nintendo
「どうぶつの森」は、アバターを用いた気ままな暮らしを楽しむシミュレーションゲームです。NINTENDO 64のソフトとして2001年に発売され、若い女性や親子を中心に人気が出ました。
2020年3月に発売された「あつまれ どうぶつの森」は、コロナ禍でも仮想現実で人と交流できることで爆発的にヒット。1年で1,000万本を売り上げ、単一タイトルとしては日本で一番売れたゲームになりました。
どうぶつの森のIP展開戦略は、ゲームの空間内で企業とコラボすることが特徴です。
オリジナルの衣装を作れる「マイデザイン」では、コメダ珈琲、モスバーガー、江戸東京博物館などのデザインが公開されています。
引用:ファミ通.com「『あつ森』コメダ珈琲店のオリジナルマイデザインが登場。コメダ島は2021年1月に公開予定」
©コメダ珈琲店 ALL RIGHTS RESERVED
©2020 Nintendo
また、他プレイヤーの島を訪問できる「夢番地」では、一風堂、すみだ水族館、ミツカンなどの幅広い企業が島を公開しています。
引用:GAME Watch「一風堂、「あつまれ どうぶつの森」の島「いっぷう島」をアップデート! ラーメンマップを新たに更新」
© 2020 Nintendo
「ゼルダの伝説」は、1986年にファミコン向けゲームとしてリリースされたアクションRPGゲームです。30年にわたり多くのシリーズが発売され、累計の売り上げは2023年時点で1億5,000万本以上を誇ります。
2017年発売の「ブレス オブ ザ ワイルド」からはストーリーが固定化されていないオープンワールド型を採用し、人気が加熱。2023年5月発売の「ティアーズ オブ ザ キングダム」は発売後3日間で1,000万本を売り上げました。
ローソンではゲーム内に登場する食べ物を再現したメニューが発売されるなど、今後さらなるIP展開が見込まれます。
引用:ローソン「「ゼルダの伝説 ティアーズ オブ ザ キングダム」キャンペーン」
© Nintendo
Copyright © Lawson, Inc. All Rights Reserved.
「スプラトゥーン」は2015年にWii U向けに発売されたアクションゲームで、任天堂では比較的新しいシリーズです。
家庭用ゲームとしてだけでなくeスポーツでも人気で、2022年9月に発売された「スプラトゥーン3」は発売後3日間で345万本を売り上げました。
スプラトゥーンは、ゲームに登場するのがイカであるという特徴を活かしたIP展開戦略が採用されています。
イカの名産地である佐賀県呼子での2016年のコラボ企画では、遊覧船のラッピングやスタンプラリーを実施。開始40日間で町の人口の2倍近くが来訪しました。
引用:任天堂「Sagakeen(サガケーン)」
Copyright(c) 2013-2022 Saga Prefecture. All Rights Reserved.
また2023年7月から実施された「八景島シーパラダイス」とのコラボイベントでは、期間限定の展示やオリジナルのフード・ドリンクを販売。ゲームを知っている人も知らない人も、その世界観を体験できる工夫が凝らされていました。
引用:任天堂「イルカたちのショーや打ち上げ花火も。スプラトゥーン3 × 横浜・八景島シーパラダイス「イカしたヤツらの夏祭り」現地レポート。」
©Nintendo
本記事では任天堂のIP戦略と、ビジネス展開事例を紹介しました。
任天堂のIP展開の基本戦略は、「IPに触れる人口の拡大」です。ゲーム以外にもIPのタッチポイントを増やすため、テーマパークや映画、公式ショップなどのビジネス展開を行っています。
また、任天堂の人気IPはそれぞれが独特の世界観を持っており、IPの個性を活かしたビジネス展開を取っていることも特徴です。
任天堂とまったく同じようなIP戦略は取れなくても、基本的な考え方には参考にすべき点がたくさんあります。ぜひ本記事で解説したポイントをもとに、自社にあったIPビジネスを検討してください。
IPにまつわる知識・ニュースを随時発信しています。